第四十八話 双の刃
――洞窟の奥は、息が詰まるほどの魔力に包まれていた。
翔太とイーヴァンは壁を背にして立ち、互いの呼吸を合わせる。
遠くで爆音が響き、ジルクとミンミンの戦闘が続いている。
「……ここが、試練の最奥……」
イーヴァンの声が震えていた。剣を握る手が、かすかに揺れる。
暗闇の中からは三体の悪魔。
目の前まで来ると、脅威的な姿と大きさに恐怖を隠せず、立ちすくむ。
「……待っていたぞ。紋章を持つ者よ―――THE・試練其ノ二!」
翔太は思わず息を呑む。
「さあ…かかってくるがよい!」
翔太が弓を構えると、魔物は一瞬で間合いを詰めた。
轟音。金属の衝突音。
翔太は弓で受け止めるが、強烈な一撃に吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。
「翔太!」
イーヴァンが叫び、剣を振るが、獣の魔物が軽くかわし、黒い羽根で吹き飛ばす。
――完全に力の差がある。
翔太は立ち上がり、苦しげに呟いた。
「……どうすれば……」
イーヴァンが振り向く。
その瞳には焦りではなく、信じる光が宿っていた。
「翔太、あなたの左手……! ダイチの力を、使って!」
「でも、制御できるか分からない!」
「信じて。……やるしかない! 」
一瞬、二人の視線が交わる。
翔太は深く息を吸い、左手に意識を集中させた。
黄緑色の光が、手のひらから溢れ出す。
「――ダイチ……力を、貸してくれ!」
次の瞬間、翔太の姿が消えた。
風が揺らぎ、空間が歪む。
気づけば翔太は悪魔の背後にいた。
瞬間移動――ダイチの能力。
「なっ……!? いつの間に!?」
翔太は右手を構え、弓の形が光に包まれて変化する。
鋭い刃を持つ、漆黒の剣。
「右手の呪い――解放形態、剣」
翔太は踏み込み、斬撃を叩き込む。
瞬く間に骸骨の魔物が、灰となって消えた。
「こっちは私に任せて!」
獣の魔物が凄い速さで、イーヴァンへと飛びかかる。
イーヴァンは構えるが、反応が間に合わない。
「――イーヴァンッ!」
翔太が瞬間移動で割り込み、剣でその爪を弾いた。
二人の身体が重なり、距離が近づく。
翔太の肩越しに、イーヴァンの息が触れた。
「また助けられちゃった…でも、私も負けない!」
イーヴァンは背中に黒い羽根が生え、双剣のかまえで、獣の魔物めがけて飛ぶ。
獣の魔物も飛び込んでくるが、イーヴァンはそれをかわし、背中に一撃を決める。
獣の魔物は地に伏せ、消滅する。
「残るは人型の魔物一体だ!――いくぞ、同時に!」
イーヴァンは頷き、双剣を構える。
魔力が刃に流れ込み、紫電が走った。
「――奥義・双閃!」
光の軌跡が交差し、悪魔の胴を貫く。
翔太もその隙を逃さず、右手の剣に呪印を纏わせる。
「――紋章解放!」
二人の刃が交わり、強烈な閃光が洞窟を包む。
悪魔の身体が音もなく裂け、黒い煙となって崩れ落ちた。
光が収まり、翔太は剣を下ろした。
イーヴァンの頬には、一筋の汗と涙が混じる。
「……やった、のね……」
「ああ。お前がいたから、勝てた」
翔太が微笑むと、イーヴァンは少しだけ顔を赤らめ、視線を逸らした。
だが次の瞬間、足元の地面が振動した。
「――まだ終わってない……?」
地の奥から、低い鼓動のような音が響く。
二人は互いに構え直した。
そして翔太は呟く。
「……これで、終わりじゃないのか!?」
再び歩き出す二人の背に、薄黒い光が差し込んだ。
二つの紋章が同時に脈動し、洞窟のさらに奥へと導く。
――彼らの前に、真なる魔物が姿を現そうとしていた。
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次回、第四十九話 海の果ての賢者




