第四十七話 試練の洞窟
――“試練の扉”が開かれた。
眩い光が消えると、そこには深く暗い洞窟が口を開けていた。
翔太たちは互いに頷き合い、ゆっくりとその中へと足を踏み入れた。
中は冷たく湿った空気が流れ、奥へ進むほどに魔力の気配が濃くなっていく。
岩壁の隙間から漂う靄が、まるで生き物のように彼らの足元を絡め取った。
「……すごい魔力濃度ね。空気が重い」
イーヴァンが息を詰めながら言う。
「やはり、普通の洞窟じゃないな」
ジルクが鉄槌を肩に担ぎ、前へと進む。
次の瞬間、洞窟の奥から無数の赤い瞳が光った。
ドロドロとした黒い影が、うねるように地面から這い出す。
「魔物……!? 一体、どこから――!」
「考える暇はねぇ! 来るぞ!」
ジルクが叫び、鉄槌を振り下ろす。
鈍い衝撃音と共に、前方の魔物が吹き飛んだ。
ミンミンも跳び上がり、両足を回転させながら放つ。
「旋風脚――ッ!」
風の刃が走り、周囲の魔物を一掃する。
翔太は弓を構え、矢に光を宿す。
「――影裂弓〈えいれつきゅう〉!」
放たれた光の矢が闇を裂き、通路を貫く。
その瞬間だけ、洞窟の奥がかすかに照らされた。
「行き止まり……?」
翔太たちは息を整えながら、立ち止まる。
そこには岩の壁が立ちはだかり、進む道はない。
「おかしいな……道は一つだったはず」
「もしかして……ここまでが試練?」
イーヴァンが呟く。
しかし、返事をする間もなく――。
背後の方から地鳴りのような音が響いた。
「……今の、何の音?」
振り返ると、洞窟の入口の方から、再び魔物の雄叫びが響く。
その数は、さきほど倒したものとは比べ物にならない。
「そんな……入口の魔物は全部倒したはずじゃ……!」
ミンミンが顔を強ばらせる。
闇の奥から、黒い波のように魔物の群れが押し寄せてくる。
天井を這い、壁を突き破り、逃げ場を奪うように広がっていく。
「……どうやら、逃げるって選択肢は無いみたいだな」
ジルクが鉄槌を構え、足を踏みしめた。
「やるしかないわね!」
ミンミンも叫び、再び前線へと飛び出す。
翔太は弓を引き絞り、イーヴァンが背後で剣を構える。
それぞれの戦いが交錯し、洞窟の中は一瞬にして戦場と化した。
――だが、そのとき。
奥の岩壁がゆっくりと崩れ落ち、黒煙が立ち上がる。
「な、なんだ!?」
その煙の中から、三つの異形が姿を現した。
黒い翼を持つ獣、鎧を纏った骸骨、そして人の姿を模した魔物。
それぞれの額に、紅い三日月の刻印が光っていた。
「……試練の悪魔、三体……だと……!?」
翔太の額に汗が滲む。
ジルクは後ろを振り返り、短く言った。
「翔太、イーヴァン――ここは俺たちが食い止める。
お前たちは、奥へ行け。そいつらが、試練の魔物だろ!」
「あぁーーーそのつもりだ!」
「オイたちも、こいつらを片付けたら直ぐに行く!」
ジルクの鉄槌が唸り、正面の悪魔を吹き飛ばす。
ミンミンは素早く宙を舞い、敵の群れを蹴り払った。
「ここは任せて! 何とか食い止めてみせる!」
イーヴァンと共に、崩れた壁の隙間へと飛び込む。
闇の奥から聞こえる爆音と、仲間たちの叫びが背中を押した。
――その頃。
遥か南、ムーラン島の海岸に、一艘の小舟がたどり着いていた。
潮風に髪をなびかせ、リィナが静かに上陸する。
「ここが……ムーラン島……」
島は霧に包まれ、どこか現実離れした静けさをまとっていた。
その中央に、一本の光の柱が立っている。
「フェアリス……あなたに、会わせて」
リィナは弓を背に、霧の中へと歩き出した。
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次回、第四十八話 双の刃




