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第四十五話 眠りの果てに

  ――二つの月が沈み、夜が明けた。

 村の空には薄い霧がかかり、冷たい風が木々を揺らしていた。

 翔太は部屋の一室で、静かに眠っていた。

 戦いの傷と呪いの影響で、意識を取り戻すことなく三日が過ぎた。

 その傍らで、イーヴァンがずっと付き添っている。

 濡れたタオルを替え、汗を拭う。

 彼女の目の下には、深い隈が浮かんでいた。


 「……翔太……お願い、目を覚まして」


  イーヴァンは小さく言葉にすると、翔太の手を握る。

 そこに、見慣れない紋章が浮かんでいた。

 ――左手の、黄緑色に光る印。

 それは、ダイチの最後の願いが形となったものだった。


 「……ダイチの……紋章…!?」


 イーヴァンはその光を見つめながら、なぜ自分の背中に紋章があるのかを考えていた。

しかし、思い出すことは出来なかった。



  ―――ジルクとミンミンは、すでに次の討伐へと出ていた。

 森の奥で動きを見せ始めた魔物の群れを鎮めるためだ。


 「お前、無理してねぇか?」


 ジルクが問うと、ミンミンは少しだけ笑った。


 「無理なんてしてないよ。……でも、あの時みたいに、誰かを失うのが怖い」


 ジルクは言葉を飲み込み、ただ前を見た。

 風の中、遠くで魔物の咆哮が響く。


 「……なら、二度と失わないように戦おう。それが、シーカの願いだろ」

 ミンミンは小さく頷き、拳を握りしめた。


  一方、リィナは単身で山道を進んでいた。

 目指すは、ミナのおじいさん――老魔法使いの家。


  ルイドのおじいちゃんなら、何か知ってるかもしれない……倒しても湧き出て来る魔物の原因を。

 彼女の胸の中には、かつての親友の笑顔が浮かんでいた。

 仇はとった。でも、ミナは戻ることはない。

 野獣の様な魔物や人の形をした魔物。すげての魔物を退治しなければ、平和な日常は戻らない。

 もう、誰かが傷つく姿を見たくない。そう思っていた。


  山の頂に見えた古びた家。

 扉を叩くと、杖をついた老人が現れた。


 「……おぉ、リィナか。どうしたんじゃ?こんな山奥まで…」


 「……ごめんね、おじいちゃん。あの子亡くなってまだ、日が浅いのに……

魔物について、何か知ってたら教えて欲しいの。このままじゃ、魔物に支配されてしまう気がして」


 ルイドはしばらく黙っていたが、やがて静かに答えた。


 「……実はなぁ……わしも気になってな。いろんな伝手に頼んでいたんじゃ。

すると、ドルトンという奴の手によって魔物が作られているということが分かったんじゃ。

だが、奴は賢い。民衆を味方に付け、自分では手を下さない。

ラウス王はわしの古い友人でもあった。不可解な死に、納得がいかんくてなぁ。

調べたんじゃよ。ドーリン王の周りの連中を。

奴は黒じゃった。

ドルトンという奴は、初めから企んでおったんじゃ。

自分が王になる為の計画をなぁ。

ミナはわしにとって、娘も同然。このままじゃ終われんさぁ。

奴を許すわけにはいかん!」


 その話に、リィナは息を呑んだ。


  ―――そして三日目の夜。

 イーヴァンが灯した蝋燭(ろうそく)の光の中で、翔太が小さく(うめ)いた。


 「……ここは……?」


  ゆっくりと目を開けた翔太の瞳に、イーヴァンの姿が映る。

 涙を(こら)えながら、イーヴァンは微笑んだ。


 「気づいたのね。……もう三日も寝てたのよ」


  翔太は上体を起こそうとして、左手に違和感を覚える。

 そこには、見たことのない紋章が刻まれていた。


 「これ……確かダイチの……」


 「ええ。あなたに託したの。最後の力と、願いを」


  翔太は拳を握る。

 心の奥に、確かにダイチの声が残っていた。


  「翔太君―――君なら越えられる」


 胸の奥がなり、目を閉じる。

死んでいった仲間の想いと、優希を助けたいという願いだけが、彼を突き動かしていた。



  ――― 遠く離れたドーリン城

 薄暗い部屋で、ドルトンが椅子にもたれ、報告を聞いていた。


 「――ダイチが右手の紋章の者にやられました。

しかし、仲間の一人は殺した模様です!」


 部下の言葉に、ドルトンは笑みを浮かべた。


 「なるほど……ならば、次は“量”で押し潰すまでだ」


  机の上には、黒い結晶が並んでいた。

 それは人の魂を魔物へ変える“転化石”。


 「量産を急げ。次の月夜までに、数百体だ」


 ドルトンの瞳に、狂気の光が宿る。


  ―――その頃、ひとりの少年が荒野を歩いていた。

 フードを深くかぶり、手には、血で汚れたナイフを握っている。

 かつて兄の影を追い、殺すことに快楽を覚えていた彼は、

 いま静かに空を見上げていた。


 「兄さん……俺は、あれから人を殺しても何か物足りないんだ。

殺しても、殺しても、何も感じない」


ノインは魔物でありながら、カイが死んだことで何かが崩れだしていた。



  ―――翔太は静かに窓の外を見つめていた。

 イーヴァンがそっと隣に座る。


 「また……試練に挑むんだよね」


 「ああ。ダイチも、シーカも……その想いを、俺が継ぐ。

……俺には取り戻したい人がいるんだ。その為に試練を越える」


 「……そう…なんだね」


  二人の視線の先、空では二つの月がゆっくりと重なり始めていた。

 その光は、美しくも、不穏な輝きを放っていた。


読んでくれて、ありがとうございました。

次回、第四十六話 月影の誓い

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