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第四十二話 休息の湯煙

  夜のレーベル村は、静かに息づいていた。

 戦いから数日。翔太たちは、ようやく休息の時を得ていた。

 村外れの小さな温泉宿。湯気が立ちのぼり、木々の間を抜ける風が心地よい。

 湯船に身を沈めた瞬間、全員の体から張り詰めた気配がふっと抜けていった。


 「はぁ……生き返る……」


  ミンミンが湯面にぷかりと浮かび、満足そうにため息をつく。

 隣でシーカが微笑む。


 「ほんと、やっと一息つけたね……」


  イーヴァンは少し離れた岩陰に背を預け、黙って湯に浸かっていた。

 戦いの疲れがまだ抜けないのか、目を閉じたまま、呼吸だけが静かに揺れる。

 ふと、シーカが彼女の背を見て息をのむ。


 「……イーヴァン、その背中……!」


 思わず近づくと、湯気の中で黒い紋章が微かに光っていた。


 「……えっ…………やっぱり何かあるの……!?」


 イーヴァンの声は震えていた。


 「気づいてなかったの?……紋章が背中に……」


 シーカは手を伸ばしかけて、そっと止めた。


 「……痛くない?」


 「ううん……でも、温かいのに……冷たい感じがする」


 湯気の向こう、ミンミンが首を傾げる。


 「それって……悪魔の呪い、なのかな」


 シーカは目を伏せた。


 「分からない。でも――翔太の右手の紋章と、どこか似てる気がする」


 その言葉に、イーヴァンの頬が少し赤く染まる。


 「……あの人と、私……同じなんだ」


  湯気がふわりと流れ、外の月明かりが差し込む。

 イーヴァンの黒い羽根の痕が、一瞬だけ光を放った。



  ―――その頃、男湯ではジルクは肩まで湯に沈み、目を閉じていた。


 「……静かだな」


 翔太が隣で苦笑する。


 「ジルクがしゃべらないと、余計に静かに感じる」


 「……オイにも浸りたいときがあるさ」


 そう言って、ジルクは口元だけで笑い、ぽつりと呟いた。


 「チロルと……カイ。


  二人は、よく一緒にいた。カイはああ見えて、チロルには優しかったんだ」

 湯面に映る灯りが揺れる。

 翔太は黙ってうなずいた。


 「裏切ったって分かってても……割り切れないんだよな」


 ジルクは拳を握りしめ、低く言った。


 「……翔太……もし俺が死ぬようなことがあったら、その時はチロルを……」


ジルクが言い切るより先に翔太が口を挟む。


 「やだね! 自分の娘だろっ。最後まで面倒みろ!

それに、俺は残り二つの試練を終えたら、ここには……」


 そう言って翔太が、ある疑問を抱く。三つの試練を終えたら、優希が死ぬ前に戻れる。

だが、自分はどうなってしまうんだろうと。



 ―――湯の向こうで、リィナが髪を洗う音が聞こえる。


 「リィナ、さっきから外ばかり見てるけど?」


 ミンミンの問いに、彼女は少し視線を落とした。


 「……ミナを思い出してた。あの子、今でも生きてたらなぁって

……ミンミンが仲間になる前に死んじゃったけどね。

明るくて、一生懸命で、ドジな魔法使い。一緒に居て本当に楽しかった……」


 話し半ばで涙を浮かべるリィナ。


 「私ね……本当は魔法使いになりたかったんだ。

でも才能がなくて、すぐ諦めちゃった。

だから、隣でどんどん魔法を覚えていくミナを見て、

私に出来ることをやろうって……そう思って弓を極めた」


 

  湯上がりの夜。

 翔太が外に出ると、月の光が村を照らしていた。

 ふと、井戸のそばに座る影が見えた。


 「……イーヴァン?」


 彼女は髪を下ろし、夜風にあたっていた。


 「のぼせちゃって。冷まそうと思って」


  翔太も隣に腰を下ろす。

 二人の間を、静かな虫の音が埋めた。


 「……ありがとう」


 「え?」


 「……助けてくれたでしょ。翔太が“生きてくれ”って言ってくれた様な気がして……私、

ずっと死に場所を探してた」


 翔太は照れたように頭をかいた。


 「……俺もそうだったから……

魔物に成りかけて、自我も失くして。

イーヴァンが仲間になってくれて本当に良かった」



 イーヴァンが少しだけ微笑む。


 「……そう…だよね、仲間……」


 「え?」


 「何でもない」

 

  月光が二人を照らす。

 風がそっと、イーヴァンの黒い髪を撫でた。

 翔太は気づかないまま、ただ夜空を見上げていた。

 その上にはーー二つの月が、ゆっくりと近づき始めていた。


 読んでくれて、ありがとうございました。

次回、第四十三話 再会

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