第三十八話 黒き訪問者
ドーリンの城下町――人々の喧騒の中に、確かな違和感があった。
表面上は平和だが、その影に蠢く気配は異質だった。
シーカたちは、街角の露店通りを歩きながら人々を観察していた。
「……感じる」
シーカが小さく呟く。
「何かがおかしい。普通の人たちの中に、魔力の波が混ざってる」
「……そうなのか!?」
カイは、慌ててあたりを見渡すが、魔物は見当たらない。
そのとき。
頭上――屋根の影が動いた。
すっと降り立った小柄な少年。
黒衣に身を包み、銀の瞳をしたその少年が静かに言った。
「お前たちが、右手に紋章を持つ者の仲間だな!」
その声には年齢に似つかわしくない殺気があった。
「誰?」
シーカが構えると、少年は微かに笑った。
「僕の名はノイン。少しだけ僕と遊んでよ」
風が吹く。ノインの髪が揺れた瞬間、姿が消えた。
「――速いっ!」
次の瞬間、シーカの頬を風が裂いた。
ノインは背後に立っていた。
「遅い遅いっ!」
カイが一歩前に出た。
「ふざけんなよ、ガキが―――っ」
その言葉の途中、ノインの蹴りが鳩尾に突き刺さった。
骨がきしむ鈍い音。
カイの口から血が吹き出す。
「カイっ!!」
シーカが叫ぶが、ノインは容赦なく追撃する。
蹴り上げ、肘打ち、掌底――その一撃一撃が、まるで訓練された殺人術のように正確だった。
カイは崖際まで追い詰められる。
「弱すぎるんだけど」
ノインは右手を構え、掌に黒い魔力を溜めた。
次の瞬間、黒い閃光が放たれる。
カイの胸を貫いた。
「――ぁ……」
そのまま、彼の体はゆっくりと崖の下へと落ちていく。
手を伸ばしたシーカの指先は、空を切った。
「カイっ……カイーーーーッ!!!」
悲鳴が崖と崖の間に鳴り響く。
ノインは冷たい瞳でそれを見下ろした。
「……弱いなぁ。お姉さんは帰っていいよ
続けて殺してもつまらないから。また今度、殺してあげるね!」
そう呟くと、興味を失ったように踵を返し、闇に溶けて消えた。
しばらく何も言えなかった。
シーカは膝をつき、拳を握りしめる。
「…………っ」
シーカは涙を拭い、立ち上がる。
その瞳には、絶望と怒りが宿っていた。
一方その頃、レーベル村。
リィナは、カインのもとを訪れていた。
「この前……あなた、何か隠してたでしょ」
「え? なになに?」
「ニヤッとしてたでしょ」
カインは気づいたように笑って、口の中を指で示した。
「奥歯に肉が挟まってたんだよ……変な顔だった?」
「……なにそれ、ほんとに紛らわしい!」
リィナが思わず笑ってしまう。
その笑顔に、疑念が薄れていった。
ーーーその頃、村の門前にジルクが帰還していた。
「討伐、終わった」
短くそう言って、古びた紙を差し出す。
「廃屋を見つけた。拠点に使える。これからのことを考えるなら、宿屋の部屋じゃ狭いだろう」
そして、報酬で得た硬貨を無造作に机に置いた。
翔太はその姿に微かに笑う。
「……ジルク。
……確かに今のままじゃ狭い。
みんなで集まる時も広い場所があった方がいい!
ありがとな、ジルク」
そこへ、シーカが駆け込んできた。
息を切らし、蒼白な顔で。
「カイが……殺された……ノインって奴に……!
崖に落とされたの……あの高さ……
私一人では、どうしようも出来なかった……」
その言葉に、場の空気が凍りつく。
翔太は拳を握り、ゆっくりと立ち上がった。
「それなら、急がないと! 予定より早いけど、もともとドーリンへ行くつもりだったんだ。
皆…疲れてると思うけど、今からカイを探しに行かないか!」
「そうと決まれば急いで準備ね!」
それぞれが、不安と僅かな期待を胸に。ドーリンへ向かうことを決意した。
そこには、最悪な事態が待っているとは知らずに……
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次回、第三十九話 裏切りの影




