第三十四話 代償の記憶
崩れゆく試練の洞窟。その光景を見ながら、みんなは立ち尽くしていた。
右手の紋章が、かすかに熱を帯びて光っている。
「結局、ダイチは現れなかった……」
シーカが残念そうにしていると、カイは笑い出す。
「へへっ……そんな直ぐ会えるとは思っちゃいねぇ~よ。
まだ試練は二つある。
なんにせよ、こいつと居れば試練の正体は掴めるさ」
「そうね、最後の試練を越えれば……きっと。
ねぇ翔太。今後の話も兼ねて今夜はみんなで酒場でも行かない?」
「いいねぇ~ 飲もうぜ~」
カイも便乗し、半ば強引にみんなの了解を得た。
――「かんぱ~い!」
皆が一斉にビールを口にする。
酒場にはチロルも連れて来ていた。
「これ美味しいよぉ」
チロルは、満面な笑みをうかべ、頬っぺたを膨らませている。
「でしょ~。 これも食べて。美味しいから」
リィナは、行きつけの酒場を自分が出した料理のように自慢する。
「……で、早速なんだが、今後の行動について考えてみたんだ」
シーカが切り込むように話し出す。
「残りの二つの試練が終わるまで、私たちも共に行動しようと思うの。
試練が現れそうな時、直ぐに動けるのと……カマルーーーあいつらが、いつ
仕掛けて来るか分らない。その時に、私たちも一緒に戦いたいの。
……ミナのこと、私も許せないから」
「…ありがとう。それは心強い。是非こちらからも頼むよ!」
翔太が言うと、皆も強く頷いた。
「それから、私たちが預かったベイクド。
牢屋に入ったはずなんだけど、何者かによって殺されたわ」
「…………!?」
「あんな奴は死んで当然だ。いい報いだぜ」
一同、唖然とする中、カイが呟く。
「……ごめんね。変な空気にさせて。
とりあえず、飲みましょう」
その後、疲れを忘れたように、皆は酒と食べ物に酔いしれた。
―――宿屋に戻ったのは、夜が明ける頃だった。
静まり返った街の中、灯りの消えた通りを抜けて、
翔太は胸の奥に残る空洞を抱えたまま、部屋のベッドに身を沈めた。
目を閉じても、消えた記憶の形が浮かんでくる。
思い出せないのに、泣きたくなるほど懐かしい。
その記憶の名が“優希”だということだけは覚えている
――そして、同じ夜。
王都では、別の動きが始まっていた。
ドルトンの私室。そこに、ドアをノックするものがいた。
カマルだった。イーヴァンに命じた目的が果たされていないことの報告だ。
「やはり、何者かに邪魔をされたな」
ドルトンは冷静に笑みさえ浮かべている。
「おそらく、それはトロイをやったやつねぇ」
カマルもまた、口調は冷静だが、目の前でトロイをいとも簡単に倒されたことが
脳裏に焼き付いて、臆病になっていた。
その者を、王都に持ち帰れ。」
カマルが嬉しそうに手を叩く。
「ふふっ……今度は、徹底的に潰してあげるわぁ」
ドルトンの瞳に冷たい光が宿る。
「この国の未来は、私が導く。偽りであろうと、平和であればいい……表向きはな。」
闇の中で、影たちは音もなく潜んでいた。カマルの声があがるのを。
そして、静かに夜の街へと消えていった。
――翔太が知らぬところで、こちらへと狙いを定め、動き出していた。
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次回、第三十五話 襲撃の影




