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第三十三話 試練――再び

  試練の空間――そこは現実と夢の狭間のような場所だった。

 洞窟の壁が歪んで見える。

 岩肌は溶けるように変形し、中心に黒い霧が渦を巻いていた。


 「……来たな、紋章を持つ者よ。THE・試練其ノ一」


  霧の中から現れたのは、以前と同様に額に大きな角を持つ人型の魔物だった。

 その瞳は冷たく、金色に輝いている。

 翔太は一歩前に出る。

 右手に刻まれた紋章が赤黒く脈打ち、弓の形を成していく。


 「今度こそ……必ず倒す!」


 悪魔は静かに笑った。


 「力を望む者よ――その心、我が刃で試そう」


  次の瞬間、空気が裂けた。

 翔太は即座に身を翻し、矢を放つ。

 光の矢は正確に魔物の胸を射抜く――だが、霧のようにすり抜けた。


 「……効かない?」


  魔物は笑みを崩さぬまま、腕を振る。

 闇の刃が飛び散り、地面をえぐった。


 「くそっ!」


  翔太が弾かれる。

 すかさずシーカが詠唱を終える。


 「《ライト・インパクト!》」


  光の槍が降り注ぐ。だが、魔物はその中を歩くように進む。

 まるで無傷だ。


 「ダイチは何処にいるの!」


シーカは魔物に訪ねてみたが、何も答えようとはしない。


 「…反応なし!? それに、魔法も効いていない……翔太、あれは普通の魔力じゃない!」


 「分かってる……!」


  そこへカイが前へ出た。

 腰のベルトに並ぶ爆弾を握りしめ、ニヤリと笑う。


 「だったら派手に行くぜ! くらえ――《バーン・クラッシュ!》」


  轟音と共に爆炎が広がり、空間が揺らぐ。

 魔物の動きが一瞬だけ止まった。


 「今だ、翔太!」


  カイが叫ぶ。

 翔太は地を蹴り、風を切るように矢をつがえる。

 紋章の光が右腕に絡みつき、黒と白の魔力が混ざり合う。


 ――その時、脳裏をかすめた声があった。


  「感情を……恐れないで」


  ルシアの声。

 かつて呪いに飲まれ、全てを失いかけたあの日。

 彼女が伸ばしてくれた手を、翔太は思い出す。


 「大丈夫だ……もう、見失わない!」


  右腕の紋章が一瞬、赤く光る。

 翔太の体に黒い紋が走り、右半身だけが変化した。

 爪のような手、漆黒の翼のような模様――半分だけ魔物の姿。

 魔物が戸惑いを見せ。


 「ほう…制御しているのか」


 翔太は静かに弓を引き絞る。


 「これが、俺の力だ――!」


  放たれた矢は闇を裂き、光と影を一つにした。

 魔物の胸を貫き、空間が砕けるような音が響く。


 「……見事だ」


  魔物が口元を歪め、霧となって消えた。

 光が収まり、空間が静まり返る。

 翔太は膝をついた。

 呼吸が荒い。右半身の魔物の痕がじわじわと消えていく。


 『第一の試練、よくやった。』


  声はどこからともなく、直接脳に響く。

 あの悪魔の声が頭に響いた瞬間、翔太は顔を上げた。


 「……お前か。」


 『約束通り、魂を少し――頂く』


 その瞬間、頭の奥で何かが弾けた。


 「……っ!」


  翔太は片膝をつき、額を押さえた。

 その断片が泡のように弾け、消えていく。


  優しい笑顔。伸ばした手。

 そこにあったはずの温もりが、ぼんやりと(かす)んでいった。

 それでも胸の奥が、ひどく痛んだ。

 まるで心に穴が開いたように。


 『これで第一の試練は終わりだ。お前の望みを叶えるまで――あと二つ。』


  声はそれだけ告げると、そっと頭から消えた。

 翔太はしばらく、拳を握りしめて動けなかった。


 ――二つの月が、ゆっくりと離れ始めていた。

月の光が混ざり合いながらも、次第に遠ざかっていく。

 試練の時が、終わりを告げようとしていた。


 「翔太! 大丈夫なの? 顔色が……」


後ろから、シーカとカイが駆け寄ってくる。


 「平気だ。ただ、少し……疲れただけだ」


  翔太は笑おうとしたが、うまく笑えなかった。

 カイがため息をつく。


 「ったく……お前、無茶しすぎだろ。あんなの、もう人じゃねぇぞ」


 「……そうだな」


  その言葉に、翔太は小さく頷いた。

 ――次の試練がいつ来るか分からない。


 「翔太、行こう。ここに長くいるのは危険よ」


  シーカが支える。

 翔太は小さく頷いた。


(残る試練は二つ……やるしかない!)


  洞窟を抜ける途中、崩れかけた壁の向こうに二つの影が見えた。

 鉄槌を肩に担ぎ、血を拭いながら立つジルク。

 その隣で弓を下ろすリィナが、わずかに微笑んだ。


 「……無事か、翔太」


 「ああ……」


 ジルクが頷く。


 「良かった。こっちもなんとか片付いた」


  試練は終わった。

 だが、翔太の心の奥で何かが欠けている感覚だけが残っていた。


読んでくれて、ありがとうございました。

次回、第三十四話 代償の記憶

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