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第二十七話 偽りの王と黒き再生

  王都ドーリンに、鐘の音が鳴り響いた。

 その夜、城の尖塔が血に染まった。

 誰も、その惨劇を予想してはいなかった。


  ――王が暗殺されたのだ。

 犯人は、影の中から現れた異形の化け物。

 警備兵たちが次々に倒れていく中、王の寝室の扉を開けたのは――カマルだった。


 「陛下ぁ……お休みのところ、申し訳ありませんねぇ」


  ベットの上で寝ていた王は、物音に気付くことなく、刹那のうちに喉を裂かれた。

 血の雨が降る。

 その光景を見下ろしながら、カマルは楽しげに微笑んだ。


 「これで、舞台は整ったわねぇ……ドルトン様」


  背後から現れたのは、深紅の外套を纏う男。

 ドルトン。

 王の遺体を冷ややかに見下ろしながら、呟いた。


 「愚かな王だった。これでようやく、国は私のものだ」


 「うふふ 次は何をなさるの?」


 「まずは民の涙を拾い、悲しみを装うことだ」



  ――翌日、ドーリン王都は悲嘆に包まれた。

 人々は涙し、王の死を悼んだ。

 その最中、堂々と民衆の前に現れたのは、誰でもない、王の側近ドルトンだった。


 「陛下を失った悲しみは、私も同じです。しかし、我らは立ち上がらねばならぬ。

 この国を導く者として――!」


  その声は深く、よく通る。

 彼の背後で、太陽が光りを放つ。

 まるで天が彼を照らしているように。

 民衆の中から声が上がる。


 「ドルトン様が……新しい王に!


 「陛下はきっと、彼に託したのだ!」


  歓声が、波のように広がっていった。

 こうして――ドーリン王国の次期王として、ドルトンの名が刻まれた。

 その玉座の陰には、影のように寄り添うカマルの姿があった。


 「ふふっ おめでとう、陛下」


 「ふん……口を慎め、化け物」


 「まぁ、ひどい。でもいいわ、あなたの“裏の王国”……楽しみにしてるわ」


 ドルトンは冷笑しながら、杯を掲げた。


 「表は光。裏は闇。この国は――二つで一つだ」



  一方その頃。

 森の奥深く、朽ちた廃神殿の前に、一人の男が倒れていた。

 翔太だ。

 血にまみれた右手。

 皮膚は半分黒く変色し、脈打つたびに異形の角が生えようとしている。


 「……くそ、止まれよ……!」


  痛みと怒りが、波のように襲う。

 理性は崩れ、呪いが心を食っていく。

 ――殺せ。

 ――壊せ。

 ――お前の存在は、悪だ。


  そんな声が脳を刺す中、翔太は地に手を突いた。

 すると、目の前の闇の中に“光”が立っていた。

 長い銀髪、蒼い瞳。

 その者は人間のようでいて、どこか神聖な気配を纏っていた。


 「……誰だ……!?」


 「名を問う前に、まず命を繋げ」


  その声は低くも温かかった。

 女――いや、目がぼやけていて判らない。

 ただ、その存在は確かに“力”そのものだった。

 手をかざすと、翔太の右腕を包む黒い呪いが一瞬、静まる。

 焼けるような苦痛が和らぎ、息ができた。


 「これは……」


 「完全に癒すことはできぬ。だが、呪いの主を断てば――その右手も解ける」


 「呪いの主……?」


 「お前の中に流れる“闇”の根。それを生んだ者は、この地にいる」


  翔太の目が開かれる。

 その名を、まだ知らない。

 しかし、心の奥で確かに感じた。

 ――この者は、敵ではない。


 「お前はいったい……何者なんだ」


 「名はルシア。呪いを解く者……」


「……呪いを解く……!?


 かつて、仲間と共に悪魔に挑み、私以外の仲間は全滅した。

治癒師だった私は誰も助けることが出来ず、ただ一人

残された私は、それからずっと呪いを解く術を探し、研究していた」


 翔太の目が驚きに見開かれる。


「……そう、仲間の中には黒い紋章を持つ者がいた。

彼は魔物に姿を変え何処かへ消えてしまったわ」


 ルシアは微笑むと、そっと彼の胸に手を置いた。


 「立て。お前にはまだ、救うべき人々がいる」


  闇の森の中で、翔太は初めて膝を立てた。

 呪いに呑まれながらも、確かに生きている。

 その胸に、小さな“再生”の灯がともった。


  同じ頃、森の外れでは――。

 ジルクとリィナが、ミナの遺体の前に立っていた。

 白い布に包まれたその身体は、静かに眠っているように見えた。

 リィナは泣きじゃくりながら、両手を握りしめる。


 「……ごめん、ミナ。私がもう少し早く来ていれば……」


  その隣で、ジルクは無言で墓標を立てていた。

 風が吹き抜け、木々がざわめく。


 「ミナ、お前の無念……絶対晴らしてやるからな」


  拳を土に押し当て、静かに頭を垂れる。

 リィナは涙を拭いながら、空を見上げた。

 二つの月が、光を増して輝いていた。

 まるで、彼女の魂を導くように。


 「……安らかに、眠って」


  夜風が吹き、森の灯がゆらめいた。

 誰も知らない場所で、ひとつの命が静かに還っていった……



  ーーー王都では祝賀の鐘が鳴り、民衆がドルトンの即位を祝っていた。

 その中心で、偽りの王が玉座に座る。

 その隣には、黒衣のカマルが嬉しそうに笑っていた。


 「おめでとう、陛下。すべてがあなたの思い通りねぇ」


 「ふん、これでやっと始まりだ」


 ドルトンの眼差しは、遠く――森の方角へと向けられていた。


 「……ところで、あの女は見つかったか?」


 「それは、まだよぉ。だけど、時間の問題ねぇ。悪魔に成った人間は、森を彷徨うしかないもの」


  王都に光が満ち、森に闇が満ちる。

 二つの道が、いずれ交わる時――

 運命の“試練”が、真の姿を現す。


読んでくれて、ありがとうございました。

次回、第二十八話 ルシアの試練

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