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第二十五話 ミナの本心

  レーベル村の夜は深く、静まり返っていた。

 宿屋の一室では、翔太がじっと窓の外を見つめている。

 二つの月が、雲の合間に重なり、薄い光を地上に落としていた。


「翔太……まだ起きてるの?」


 ミナが眠そうに目をこすりながら声をかけた。


「……少しだけ考えごとだ。ジルクの傷も、やっと落ち着いたな」


「うん。チロルががんばってくれたもん」


  ミナは微笑んだが、翔太の顔は沈んだままだった。

 ――イーヴァン。

 ジルクを圧倒した女。人型の魔物……。

 その名が、胸の奥で何度も反響していた。


「ねぇ翔太。あんまり考えすぎないでね」


「……わかってるよ」


「私は……翔太を応援してるから。彼女のこと、助けたいんだったら全力で協力する。


 だから、翔太も私を全力で頼ってね」


 ミナは照れたように笑うと、  


「明日はチロルとパンでも買いに行こうかなぁ」


と呟いて部屋を出て行った。



  ――その時、翔太は気づかなかった。

 窓の外で、不穏な影が動いていることに。



  一方、ドーリン城。

 豪奢な部屋の中で、ドルトンはワインを傾けながら微笑んでいた。


「民の信頼など、演出でいくらでも手に入る」


 机の上には数枚の文書。王への報告書のふりをした偽りの書類だ。


「これでよい。民に恩を売り、王には従順を装う。そうすれば、近いうち――この国は私の手の中だ」


  その背後に、カマルが静かに立っていた。

 あの忌まわしい人型の魔物。低く笑うような呼吸音を響かせながら、(ひざまず)く。


「命令を……」


「あのものたちを警戒しろ。特にトロイとやり合ったやつは確実に仕留めておけ」


 ドルトンの瞳が光る。


「標的は、女だ」


「……承知ぃ」


 カマルの声が、低く響いた。


「トロイ、準備は整ったか?」


「へぇ、もう動けますぜ。部下も連れてあります」


「ならば行け。あの男をおびき寄せろ。」




ーーー翌朝、村の空気はどこかざわついていた。


「ドンドンドン!」


 騒々しく、翔太の部屋の扉を叩くのはミナだ。


「翔太ぁ~。起きてる? 良かったら一緒に買い物に出かけない?」


 だが、翔太は深い眠りについていて、起きることはなかった。


「寝てるか……しょうがない、私とチロルだけで行くか~」


  ミナは少し残念に思いながらも、翔太の部屋を後にする。

 本当は翔太ともっと話しがしたい。

 本当はこの気持ちを伝えてしまいたい。


  でも、翔太の気持ちは亡くした彼女にある。

 彼女を助けることに全力で協力すると言ったことは嘘ではない。


  ただ……それでも……少しでも私に振り向いて欲しかった…

 それがミナの本当の気持ちだった。


読んでくれて、ありがとうございました。

次回、第二十六話 崩壊の夜

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