第二十二話 月草を求めて
薄暗い夜が村を包み、外には殆ど人の姿はなかった。
レーベル村――久しぶりに戻ったその景色に、翔太は思わず深呼吸した。
「ここまで戻ってくるのも、一苦労だったな」
隣でミナが微笑む。
「でも、やっぱり落ち着くなぁ~」
「そうだな」
そんな二人の前に、村の広場で慌ただしく荷をまとめている少女がいた。
亜麻色の髪を後ろで結び、深緑のチュニック。険しい顔で袋を背負おうとしている。
リィナだった。
「……リィナ!?、どこ行くの。こんな夜に……」
ミナが声をかけると、リィナは一瞬だけこちらを見たが、すぐに顔をそらした。
「ごめん、私、急いでるから……」
その、素気のない声音に、ミナが少し眉をひそめた。
「そんな言い方しなくてもいいでしょ、リィナ」
「……悪いけど、今は時間がないの!」
リィナは背負い袋の紐を締めると、歩き出そうとした。
翔太がその腕をつかむ。
「待て。一人でどこに行く気だ」
「西の森の奥。母の病気を治す薬草を取りに行く」
その声には迷いがなかった。
「“月草”っていう、青い光を放つ草。あれを煎じれば熱が下がるって」
ミナが驚いたように顔を上げた。
「でも、あそこは魔物の巣が近いんじゃぁ……! 一人で行ったら――」
「わかってる。でも、いかなきゃ…」
リィナの声が少し震えた。
「……母が、薬じゃ治らない病気だから!」
翔太は黙った。
その拳をぎゅっと握りしめ、まっすぐに言う。
「なら、俺たちも行く。一人で行かせるわけにはいかない」
「はぁ? なんでおまえが――」
「わかってるんだろう!森の奥は危険だ。それに夜は魔物が出やすいんじゃないのか」
「そうよ!」
ミナが力強くうなずく。
「私たちも一緒に行く! リィナのお母さんを助けよう」
リィナは唇をかんだ。
視線を落としたまま、小さくつぶやく。
「……そこまで言うなら………来てくれたほうが助かる…けど…」
翔太はわずかに笑った。
「よし!そうと決まれば出発だ」
ジルクの肩の上で寝ているチロルをみて、先に宿屋に戻ってもらうことにした。
「じゃあ、気を付けて。翔太とミナなら大丈夫だと思うが」
ジルクは3人を見送ると、宿屋へと歩き出した。
薄暗い空は穏やかで、風が柔らかい。だが、森の方角には、
わずかな黒い靄が漂っているように見え た。
「……ありがとう翔太。リィナの為に……」
ミナがつぶやく。
「当然だ。放ってはおけないよ」
翔太は言う。
リィナは前を向いたまま、少しだけ振り返った。
「もう少し行くと見えてくるはず。月草は微かに青く光っているから、夜のほうが好都合だったわ」
しかし、道の先には、深い森の影が待っていた。
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次回、第二十三話 月草と黒の魔物




