第二十一話 交わる道、別れの道
夕暮れ、日が沈みかける中、翔太たちはベイクドの案内で森を抜けた。
濃い霧の奥に、崩れかけた石造りの建物が見えてくる。
「ここだ……人質はこの中に……!」
ベイクドが怯えた声で言った。
翔太は弓を構える。
「ジルクたちを傷つけていたら、容赦しない」
扉を蹴破ると、中には縄で縛られたジルクとチロル、そして数人の女と子供たち。
「翔太!」
チロルが涙を流して叫ぶ。
「チロル! ジルク!」
翔太とミナはすぐに縄を解いた。
ジルクは、悔しそうに歯を食いしばる。
「情けねぇ……また捕まっちまうとはな」
「もう大丈夫だよ」
ミナが微笑む。
「今度はちゃんと取り戻せたんだから」
翔太は振り返り、ベイクドを睨みつけた。
「説明してもらうぞ。どうしてこんなことを」
ベイクドは震えながら膝をついた。
「ち、違うんだ! 俺だって脅されてた! トロイの連中が……!」
「じゃあ、なぜ人を売った」
翔太の声は低く、冷たかった。
「それはぁ……」
沈黙が落ちた。
翔太はゆっくりと弓を下ろした。
「人身売買なんて、許されることじゃない!お前はそれに加担していたんだ。罪は償ってもらうぞ」
その時、シーカが前に出た。
「彼は私たちが預かるわ」
「シーカ?」
翔太が振り向く。
「ドーリン城下は、平和な町だと思っていた。でも、その裏で人身売買が横行していたなんて放っておけない。ベイクドは、私たちの町で起きている“腐り”の象徴よ。だから――私たちが責任を持つ」
その瞳には強い意志が宿っていた。
カイも肩をすくめながら言う。
「まぁ…こいつ、少しは骨の髄まで後悔させてやらねぇとな」
翔太はしばらく考え、頷いた。
「わかった。任せる」
「ありがとう。試練が再び現れそうな時、必ず翔太に伝えるわ」
シーカが手を差し出す。
翔太はその手をしっかりと握り返した。
「ダイチのこと、必ず助けよう」
「……ええ。あなたの目的の為にも…」
彼女の微笑みは、どこか寂しげだった。
「さぁ、俺たちもレーベル村に帰るか。捉えられていた人たちは救出できたことだし。
翔太達は村に戻ることにして、シーカ達とは、ここで別れることになった。
ミナも大丈夫?」
翔太が尋ねる。
「うん。治癒魔法のおかげで、もう平気」
ミナが笑って見せる。
「でも……シーカさん、すごいね。あんな魔法、見たことない」
「そうだな」
翔太は空を見上げた。
二つの月はすでに離れつつあり、薄い光を残していた。
「試練はまた現れる。それまでに俺たちも、備えておこう」
チロルがチョコチョコと走ってきて、翔太の袖を引いた。
「ねぇ翔太。その手、痛くないの?」
翔太は右手を見下ろした。
紋章が薄れるほど黒く、焦げたように変わっていた。
「…なんだ、この色!?痛くも痒くもないのに……」
〈試練其ノ一〉倒し損ねた。この黒くなった右手にも何か意味があるのだろうか。
翔太は優希のことを思い、少し焦りを感じ始めていた。
遠く、鳥の群れが空を横切っていく。
その向こうには、懐かしいレーベル村の景色があった。
そして、その夜ドーリン城の街外れで、
人知れず、一人の男が殺された。
ーーーベイクドだった。
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次回、第二十二話 月草を求めて




