第二十話 二つの月の夜
二つの月が重なり、周りに影を落とし始めていた。
翔太が右手を見ながら、考え込んでいた時、シーカがその手を見て、目を見開いた。
「……その紋章、もしかして……」
「え?」
翔太が見返す。
「ダイチ。私の婚約者だった人にも、同じ紋章があったの。
彼は“試練”に選ばれたの。でも、呪いに飲まれて――悪魔の姿になってしまった……
カイの言う話しではね。私はその時、気を失ってたから
見てないけど」
その声には、深い悲しみが滲んでいた。
「彼を救う術を探していたけれど、“試練”が現れる事はなかった。でも、あなたは試練の魔物と戦っていた。私たちが見た時には、もう魔物が姿を消そうとしていたけど…
そして、あなた達が倒れていたの」
「今、わかったわ。きっと、試練に挑む為には、その紋章が必要なのね」
「……俺の紋章に試練が反応する……!?」
シーカは微かに微笑んだ。
「そう。今なら、まだ間に合うかもしれない」
彼女が空を見上げる。
夜空には、二つの月が重なって輝いていた。
「……二つの月が重なるその間だけ、“試練の門”が開く。ただ、いつ重なるのかは分からない」
「それなら、この機会をのがしたくねぇー。お前は何もしなくていい。俺たちを試練に連れて行け!」
カイが叫ぶ。
「……わかった。行こう。でも、俺も戦う! 俺にも試練を越えなければならない理由があるから」
翔太は頷く。
その時、ミナがゆっくりと目を開いた。
「……翔太?」
翔太が駆け寄る。
「ミナ! もう大丈夫なのか!?」
ミナは自分の胸に手を当てた。傷はすっかり塞がっている。
「うん。大丈夫。私も行くよ。翔太と一緒に」
その強い瞳に、翔太は頷いた。
「分かった。頼りにしてる」
四人は、月明かりに照らされた洞窟へ向かった。
人型の魔物と戦ったあの場所。
冷たい風が吹き抜け、岩肌が赤黒く染まっている。
「……ここに“試練”があるはずなのに」
翔太が呟く。
だが、あの人型の魔物の姿はなかった。
「逃げたのか?」
カイが辺りを警戒する。
その時、背後から複数の足音が響いた。
「動くな!」
威勢のいい声を上げて現れたのは、十数人の男たち。
その中に――見覚えのある顔。
「……ベイクド!」
翔太が怒鳴る。
かつてのパン屋は、怯えたように笑いながら言った。
「へ、へへ……また会いましたねぇ。いやぁ、儲け話は、やめられませんで。
睡眠薬入りのパンも評判が良くて……ククク」
「てめぇ……!」
翔太が怒りを抑えられず、前に出る。
「おっと、怖い怖い………トロイの旦那!―――こいつら、やっちゃってくだせぇ~」」
ベイクドの後ろから、筋骨たくましい男が一歩前に出た。
鎖鎌を肩に担ぎ、不敵に笑う。
「お前らかぁ~。商売の邪魔ぁするやつらは……あぁ…それと、仲間は捕まえたぞ。女共を逃がそうとしやがって!」
翔太の瞳が鋭く光った。
「……ジルクたちをどこへやった」
「教えるかよーーっ。お前らはここで始末する!」
トロイが鎖鎌を振るう。金属が風を裂く。
翔太はそれを受け止めた。
右手が黒く輝き、弓が変化していく。
「――ギィィィィン!」
音を立て、漆黒の剣が現れた。
「うおりゃーーー!!」
翔太が飛び込む。トロイが迎え撃つ。
金属と金属がぶつかり、火花が散った。
山賊達も声を上げながら向かってくる。そこに、カイが爆弾を投げる。
「閃光弾!」
閃光が山賊達の視界を奪う。そこに、間髪入れずにシーカが詠唱する。
「氷壁!」
氷の壁で山賊達を壁際まで押しはさめる。
「……凄い!みんな…」
ミナは皆の気迫に呆気に取られて、攻撃のタイミングを失ていた。
轟音。土煙の中から翔太が踏み込み、黒い剣を振るった。
刃が鎖鎌を切り裂き、トロイの肩口を貫く。
「な……にっ……!」
トロイが崩れ落ちた。
煙の向こうで、ベイクドが這いつくばって震えていた。
「ま、待ってください! 案内します! 仲間のところへ、連れていきますからぁ!」
翔太は剣を下ろし、冷たく言う。
「逃げたら、その時は終わりだ」
「ひぃぃ……!」
シーカが静かに息を吐いた。
「間にあわなかった…のか……試練」
人型の魔物が現れることはなかった。月の重なりも長くはない。
「試練は消えてしまったのか……でも、今はジルクたちを助けるほうが先決だ」
翔太は、そう呟く。
四人は洞窟を抜け出した。翔太は空を見上げる。
重なり合っていた二つの月が、静かに光を放ち、少しずつ離れかけていた。
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次回、第二十一話 交わる道、再び別れて
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