第十八話 THE・試練其ノ一
ベイクドに案内をさせて翔太たちは森を抜け、やがて大きな岩山のふもとに辿り着いた。岩肌には暗い裂け目のような入口があり、冷たい風が吹き出してくる。
「……ここか?」
翔太が問いかけると、ベイクドはうつむいたまま、小さく頷いた。
「間違いねぇ……取引の場所は、この奥だ」
その声は震えていた。ベイクドの目は明らかに怯えている。
(脅されていたというのは本当だったのか?)
「これでお前の罪が消えるわけじゃない。だけど……償うなら、最後まで案内してもらう」
「わかった……」
翔太の言葉に、ベイクドはうなだれながら答えた。
洞窟の中は湿った匂いに満ち、奥へ進むごとに不気味な空気が濃くなっていく。
しばらく進むと、広い空間に出た。そこには縄で縛られ、うずくまる女や子供たちの姿があった。十人ほど――怯えた瞳がこちらを見ている。
「見つけた……!」
ミナが声を上げ、駆け寄ろうとした。
「待て、罠があるかもしれない。気を付けろ」
ジルクが警戒し呼びかける。
慎重に周囲を確認しながら縄を解き、女や子供を解放していく。皆、泣きながらも必死に感謝の言葉を口にした。
だが――その瞬間だった。
洞窟の奥から、低い唸り声が響いた。暗闇の中から姿を現したのは、人型の黒い影。それだけではない。無数の黒い魔物が地の底から湧き出すように姿を現し、広間を埋め尽くした。
「くそっ……こんな洞窟の中にも魔物がいたか!」
ジルクが構えるが、手には武器がない。鉄槌を置いてきたままだっ。
「ここは俺に任せろーーージルクはチロルと人質を頼む!
翔太が叫ぶ。
「私もやる!」
ミナも既に攻撃態勢に入っていた。
ジルクは歯を食いしばり、チロルの手を取った。
「行くぞチロル!」
「うんっ!」
親子は人質を連れて洞窟の入口へ走り出す。
残った翔太とミナは、押し寄せる黒の魔物と対峙した。
「私が魔法で撃退する! 翔太は援護して!」
ミナが一歩前に出た。
ミナは杖を掲げ、詠唱を始めた。魔力が集中し、青白い光が洞窟を照らす。
「フレア――」
だが次の瞬間、ミナは足を滑らせ、魔法は岩天井に向かって放たれた。
「きゃっ!?」
轟音と共に岩盤が崩れ、無数の石塊が黒の魔物の群れに落下する。
断末魔の叫びとともに魔物たちは押し潰され、洞窟に一時的に静まり返った。
「み、ミナ! 大丈夫か!」
翔太が駆け寄る。
「い、痛た……私、またやっちゃった……」
ミナは額を押さえながら苦笑した。
だが、その崩落によって奥の壁が崩れ、隠された通路が現れた。
そこからただならぬ気配が漂ってくる。
闇の奥から、ゆっくりと一つの影が歩み出てきた。人型をした黒の魔物。だが、他の魔物とは異なり、その目には知性の光が宿っていた。
その存在は翔太を真っ直ぐに見据え、低く響く声で言った。
「……ほう。人間どもが、よくここにたどり着いたな。
それは、偶然か?それとも必然か?…………
THE・試練。其ノ一!」
「我を倒してみよ……紋章を持つ者よ」
翔太の心臓が激しく脈打つ。
「試練?……紋章?」
……まるで最初から待ち受けていたかのような言葉だった。
「ふざけてるのか」
翔太が呟く。
その時、ミナの直感が鋭く警鐘を鳴らした。
「翔太……試練って、もしかして!?」
翔太は頷きながら、震える拳を握りしめ、暗闇の奥を見据えた。
「……行くしかない。これは俺が越えなきゃならないものだ」
ミナは唇を噛み、やがて力強く頷いた。
「わかった。なら、私もやるよ」
二人は新たな通路の奥へと足を踏み入れる。洞窟全体が不気味に唸り、冷たい風が吹き荒んだ。
――こうして翔太とミナは、己の運命を決める戦いの場へと向かうのだった。
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次回、第十九話 THE試練其ノ一②




