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第十七話 パン屋の影

  朝、翔太たちは二手に分かれて動くことにした。


 「俺とミナで町を回る。ジルクとチロルは市場の方を見てきてくれ」


 「わかった。オイとチロルで行く」


 「うん! お父さんと頑張る!」


  こうして二組に分かれ、それぞれの調査が始まった。

 翔太とミナは大通りを歩きながら、宿の主人や商人に声をかける。


 「最近、不審なことはありませんか?」


 「いやぁ、この町は昔から平和でねぇ。変わったことなんてないよ」


  誰もが同じように答える。とても人質の売買などが行われているとは思えなかった。

 やがて二人は、昨日訪れたパン屋の前を通りかかった。

 しかし、店は昼間だというのに扉が閉ざされ、看板も下げられていた。


 「……休みなのかしら?」


  ミナが首をかしげる。

 翔太は足を止め、閉ざされた扉をじっと見つめた。

 頭に浮かぶのは、昨日ちらりと目にした壁の隅に書かれていた文字の記憶。

『女・七、子供・三』――あれはいったい、何を意味していたのか。



  一方その頃。

 市場の喧騒の中を歩いていたジルクとチロルは、人混みの端で怪しい人影を見つけた。


 「……お父さん、あの人!」


  チロルが小さく叫ぶ。

 顎には髭をはやし、眉毛は無く、鋭い目つき。その顔は、かつて廃坑でチロルを捕まえかけた山賊の一人だった。


 「間違いねぇ……!」


  ジルクはチロルの肩に手を置き、慎重にその後を追った。

 山賊は路地裏へ入り、さらに奥へと消えていく。ジルクとチロルも足音を殺して追い続けた。


 やがて――狭い通りに停められた、大きな荷台をけん引した馬車が見えた。

 厚布で覆われた荷台が、不自然に揺れている。

 その瞬間、布が風にめくられ、中の様子がちらりと見えた。

 縄で縛られた女たち、怯える子供たちが十人ほど。必死に泣き声を押し殺している。

 そして、その隅には――昼間は笑顔でパンを売っていたはずのベイクドの姿があった。


 「なっ……!?」


  ジルクは言葉を失い、チロルを自分の後ろにかばった。

 馬車は音を立て、奥の道へと進み出す。ジルクとチロルは必死に追ったが、馬車の速度に追い付かず、やがて見失ってしまった。

 息を切らしながら宿へ戻ると、翔太とミナが待っていた。


 「どうしたんだ、そんなに慌てて」


 「翔太! 聞いてくれ! さっき、馬車を見たんだ。中には女や子供が押し込まれてて……しかも、その中にベイクドが乗ってたんだ!」


 「……ベイクドが?」


 翔太の胸に冷たいものが走る。


 あの帳簿に書かれていた数字。女、子供。――すべて繋がった。


 「間違いない。あいつが人質の取引に関わってる」


 「くっ……あの笑顔に騙されてたなんて」


  ミナも悔しそうに唇を噛んだ。

 翔太は決意を込めて言った。


 「よし、確かめに行こう。パン屋へ」



  ―――だが、店は依然として閉ざされたままだった。

 翔太たちは周囲を警戒しつつ、しばらく待ち、戻ってきたベイクドを捕まえた。


 「ベイクド。お前……人質の取引に関わってるな!」


  翔太の声は鋭く、ベイクドの顔色がみるみる蒼白に変わる。

 観念したように大男は震えながら言った。


 「……すまねぇ。オレは……情報を集めてただけなんだ……そう…脅されてたんだ!従わなければ命の保証はしないってぇ。だから見逃してくれよぉ~」


 ジルクがチロルを庇いながら怒鳴る。


 「言い訳するな! 子供を売るなんて絶対に許さねぇ!」


 沈黙のあと、翔太は一歩前に出て命じる。


 「俺たちをその場所まで連れていけ。すべてを確かめる」


 その言葉に、ベイクドは肩を震わせながらうなずいた。


読んでくれて、ありがとうございました。

次回、第十八話 THE・試練其ノ一

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