第十二話 囚われの父
宿屋の一室。
助けた少女はベッドの端に座っていたが、体は細く、頬はこけていた。
「君、名前はなんていうの?」
翔太が優しく聞くと、小さな声で少女は答えた。
「……チロル」
「チロル、いい名前ね。―――そうだっ……
おねえちゃんねぇ~ パン持ってたんだぁ
お腹空いてるでしょ。はいっ、食べていいよ」
ミナが差し出したパンに手を伸ばすものの、食べようとはしなかった。
「何か食べたほうがいいよ。 ゆっくりでいいから」
ミナが優しく声をかけると、少女は小さく頷いて少しずつパンを口に運んだ。
食べ物を噛みしめるたび、ぽろぽろと涙がこぼれていく。
「……いつから食べてなかったの」
「分からない……ずぅっと……」
か細い声が、部屋の空気を震わせた。
翔太が目を見開くと、少女は震える唇で言葉を続ける。
「お父さんが……怖い人たちに連れて行かれたの。家も……燃えちゃった……」
その言葉に、ミナが顔を曇らせた。
「そんな……」
「チロルも……捕まりそうになって、ずっと逃げてた。
でも、見つかっちゃって……」
小さな手が布団をぎゅっと握る。
翔太は無意識に拳を固めていた。
(こんな幼い子が、こんな目にあっていいわけがない!)
「……その、お父さんの名前は?」
少女は涙を拭いながら、少しだけ顔を上げた。
「……ジルク」
「ジルクか。教えてくれてありがとう。
どうして、お父さんが連れていかれたんだろう。チロルは、何か知ってるかい?」
チロルにとっては、辛いかもしれないが、少しでも手がかりをさぐらなくては。
翔太は出来るだけ柔らかく問いかけた。
「炭鉱―――連れてくって……」
「炭鉱……!?」
「お父さんは炭鉱のお仕事してたのぉ……」
「そっかぁ……わかったよ」
(まずは、情報収集だな。何処かに炭鉱に詳しい人がいればいいんだけど……)
翔太の胸の奥で、何かが重く鳴った。
黒の魔物の存在。村を狙う者たち。
そして、目の前で助けを求める少女。
「……その父親を助ける。必ず!」
言葉は自然に口からこぼれていた。
「うん! もちろん私も行くよ!」
ミナも力強く頷く。
「はぁ……でも翔太って、本当お人好しだね。絶対危険だよ、こんなの~」
「まぁ……私も魔法使いの端くれ。どこまでもお供してあげましょう!!」
隣でミナが笑ってみせる。
少女は目をうるませながら、ずっと二人を見つめていた。
やがて声を震わせながら言った。
「……助けてぇ……お父さんを助けてぇ……!」
翔太とミナは胸が締め付けられるようだった。
ーーーその夜、翔太は右手の紋章を見ながら心を決めた。
少女の父を救い出すことは、この村に広がる闇を探る手がかりにもなるだろう。
そして——彼自身の目的。3つの試練に挑む為には、
どうすればいいのか。
それを導いてくれる気がしていた。
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次回、第十三話 情報屋のカイン




