第十一話 報酬と少女
森での討伐を終え、翔太とミナはギルワークへ戻ってきた。
中は夕方で混み合っており、依頼から戻った冒険者たちが口々に戦果を語っていた。
「ただいま戻りました!」
ミナが元気よくカウンターに向かい、討伐証の黒狼の牙を差し出す。
翔太は後ろで無言のまま弓を肩にかけていた。
「確認しました。黒狼1体、確かに討伐。……報酬は金貨1枚、銀貨80枚です」
カウンターの職員が袋を差し出した。
「うほぉ!―――こんなにたくさん!」
ミナがすぐさま受け取って、にんまり笑う。
「わーい! これで美味しいご馳走が食べられるね!」
「……そればっかりだな」
翔太は呆れつつも、少し安堵した。
昨日までは食うものにさえ困っていたのだ。今はまず、生きるための土台を作らなければならない。
報酬を二人で分けたあと、翔太は広間の空気を探るように耳を澄ませた。
壁際で話す二人組の声が聞こえてくる。
「北の廃坑に、黒の魔物が出てるらしい」
「本当かよ。村から近いのに……厄介だな」
(……やはり、どこにでも出没するのか。
普通の武器では傷つけられない黒の魔物。
——俺の右手の力なら……)
翔太はふと自分の手を見下ろす。
村人の前であの力を使えば、すぐに噂が広まり、不審の目を向けられるだろう。
ここでは慎重に振る舞うべきだ。
「翔太?」
ミナが首を傾げ、覗き込んできた。
「何か考え事?」
「……少し気になる話を聞いただけだ」
「ふーん。 お腹もすいたし、なんか食べに行こうよ!」
「翔太のおごりで!」
「そうだな。食べに行こう」
少し歩いたところに何件か食事が出来そうな店が並んでいた。
その中の一軒にミナが指を指す。
「あった あった!あの店だよ!」
一見、中華料理風の店で、中に入ると、大勢の人でにぎわっていた。
食べるものは少し薄味で、現実世界の物とは異なっていたが、お腹が空きすぎていた翔太は、皿に盛られた食べ物を直ぐに食べつくした。
その帰り道、村の広場を通りかかったときだった。
数人の男達の声と、少女の怯えた声が耳に届いた。
「いいから、だまって来い!」
「い、いやぁ……!」
暗がりで三人組の男が少女を囲んでいる。
少女はまだ十代半ばほどで、必死に腕を振り払おうとしていた。
ミナの表情が曇る。
「翔太……」
「あぁ」
翔太はためらわずに歩み寄り、三人の間に割って入った。
「いやがってるだろう! その子を離せ!」
男たちは睨み返す。
「なんだお前、関係ないもんは引っ込んでろ!」
「怪我する前になぁ~っ!」
翔太は答えず、静かに弓を構えた。
矢を番え、狙いを定める仕草だけで十分だった。
「―――おいっ、こいつ弓なんか持ってやがるぞ……」
弓の先に冷たい光が走り、男たちの顔色が変わる。
「チッ……弓とは分が悪い。こっちは丸腰だ。一旦、引くぞ」
「また後で捕まえに来ればいい」
「待ってろよ! また後で迎えにくるからなぁ~
ちびすけ!」
乱暴に吐き捨て、男たちは少女を突き飛ばし、その場を去っていった。
「大丈夫か?」
翔太が声をかけるが、少女は震えるだけで、何も答えない。
ミナは腕を組んで、じっと翔太を見上げる。
「ふーん……やるじゃん翔太!」
「……正直怖かった~ でも、ほっておけないしな」
「とりあえず、宿屋まで連れていくか」
「そうだね。またいつ、あいつらが来るか分らないし」
少し制御が出来るようになったのか、右手は意識して使わなかった。
村人の目があるこの場所では、絶対に知られてはならないのだから。
その夜、少女の存在が思わぬ縁を呼ぶことになるとは、まだ知る由もなかった。
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次回、第十二話 囚われの父




