第十話 初めての討伐依頼
ギルワークの掲示板には、ずらりと依頼書が並んでいた。
薬草採取、護衛、害獣退治——中でも翔太の目を引いたのは 「森に現れる黒い狼の討伐」という依頼だった。
報酬は金貨1枚、銀貨80枚、
初めての稼ぎにはちょうどいい。
「これにしよう」
翔太が紙を指差すと、ミナは目を輝かせた。
「討伐! いいね! ご馳走代ゲットだ!」
「……やっぱりそこか」
苦笑しつつ、翔太は依頼を受けるためにカウンターへ向かった。受付の女の子が目を細める。
「黒狼ねぇ。最近被害が増えていて、ーーーこの前、依頼を受けた人の話では、全然攻撃が効かなくて、逃げて来るのがやっとだったって……
とにかく、依頼を受けるなら気をつけて下さい」
「大丈夫!」
「翔太が触れればっーーぼぉふ」
翔太は、危なく話しそうだったミナの口を塞ぎ、
それは言うなと目で訴える。
「ぶはぁーーー」
「あ……何とかなりますぅーー 大丈夫ですーーーはははぁ」
「……わかりました。
では、受理いたします。頑張ってくださいね!」
なんとか依頼を受けることが出来た。
難易度順に報酬が決まっているようで、
他の依頼の報酬を見てみると、黒狼の報酬が割と高い事に気づいた。
(……まだ怖い。でもこの力があれば……)
―――二人は再び森へと足を踏み入れた。
湿った土の匂い。木々の間を吹き抜ける風。だが昨日までとは違い、今日は「目的」がある。
「翔太」
隣を歩くミナが、少し真剣な顔をして言った。
「さっき、リィナに言われたこと、気にしてる?」
翔太は短く息を吐いた。
「……ああ。でも、俺だって自分の力がわからないんだ。だから確かめたい」
「うん。だったら一緒に確かめよう!」
ミナの笑顔は、どこまでも真っ直ぐだった。
やがて茂みの奥から、低いうなり声が響いた。
赤い目を光らせ、黒い狼が姿を現す。
その体は影のように揺らぎ、明らかに普通の獣ではなかった。
「来た!」
翔太は弓を構え、矢を番える。
矢尻に視線を集中し——放った。
矢は狼の肩をかすめたが、やはり致命傷にはならない。
「やっぱり……」
「翔太! 私が援護する!」
ミナの杖に魔法陣が浮かび上がる。
「ファイア・アロー!」
炎の矢が放たれ、黒狼を直撃した。だが黒い靄が炎を弾き、傷は浅い。
黒狼が唸り声を上げ、翔太に飛びかかる。
とっさに右手を突き出した瞬間、紋章が赤黒く輝いた。
手にしていた弓が、ぐにゃりと形を変える。
次の瞬間、それは大ぶりな槍へと姿を変えていた。
「なっ……!」
勢いのまま、翔太は迫る黒狼の体を槍で突き払った。
異様な光とともに槍の先端が靄を切り裂き、狼がたじろぐ。
「翔太! 今の……!」
「わからない……でも、武器が変わった……!」
狼が再び跳びかかる。
翔太は槍を握り直し、突き出した。
右手の紋章が脈打つたび、槍は唸りを上げ、まるで自ら獲物を求めるかのように黒い靄を引き裂いていく。
「今だ!」
ミナが杖を掲げた。
「ライトニング・スパーク!」
稲妻が走り、黒狼を包み込む。
翔太の槍と雷光が交わり、狼は断末魔の咆哮を残して霧 散した。
森に静寂が戻った。
翔太は荒い息をつき、槍を見つめる。
やがて光が収まり、槍は元の弓へと戻っていった。
「……俺が触れるものは、形を変える……のか?」
呟いた言葉は自分に向けたものだった。
まだ確信はない。けれど確かに、武器は応じていた。
「ね、ね、見た!? すっごい、かっこよかったよ!」
隣でミナが飛び跳ねるように喜んでいる。
その笑顔に、翔太の緊張が少しほぐれた。
「これで金貨もらえるんだよね! ご馳走! 楽しみ〜!」
「……だよね~」
翔太は小さく笑い、弓を背負い直した。
討伐は成功。硬貨も、情報も、そして自分の力の片鱗も掴んだ。
レーベル村での新しい一歩が、確かに始まっていた。
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次回、第十一話 報酬と少女




