追放の余波⑥
<元パーティメンバーたちの葛藤>
王城の一室で、エレナ・ルークライトは拳を握りしめていた。
かつては共に戦った仲間。それが今や、王国を追われた存在になってしまった。
「……ゼノを、本当に追放してしまったのね」
言葉にした途端、胸の奥が締めつけられるような感覚が襲った。ゼノは、誰よりも誠実に王国のために戦っていた。それなのに、あっさりと切り捨てられた。まるで、最初から不要だったかのように。
ゼノの姿が脳裏に浮かぶ。戦場で何度も背中を預けた彼の存在は、エレナにとって揺るぎないものであったはずだ。彼はどんな危険な状況でも真っ先に仲間を守ろうとし、限界まで戦い続けた。
思い出すのは、魔物の群れの中でゼノが彼女を庇った時のこと。彼女が動けずにいた時、ゼノは何も言わずに彼女の前に立ち、盾となった。
「お前が生きて戦えれば、それでいい」
その言葉が、今も胸に焼き付いている。
「王国のために、必要な判断だった……そう言い聞かせて納得するしかないの?」
しかし、自分自身すらその言葉を信じることができなかった。
…
エレナが沈黙する中、部屋の隅でダリウス・グレイモアが苛立たしげに息を吐いた。
「ふざけるな……」
太い指が机を叩く。
「最初から知ってたら、俺は絶対に止めてた」
声には怒りが滲んでいた。ダリウスはゼノが追放されると知らされておらず、事後報告として聞かされただけだった。
ゼノと共に戦った数々の戦場を思い出す。あいつがいなかったら、いくつの戦いで命を落としていたか。
「バカバカしい……俺たちは何のために戦ってたんだ?」
彼は椅子に深く座り込み、天井を見上げる。
神の意志という名のもとに、ゼノは切り捨てられた。では、その神とやらは、ゼノの戦いを見ていたのか?
「英雄を神の意志で切り捨てる。そんな理屈がまかり通るのかよ」
ダリウスは拳を握りしめたまま、小さく呻いた。
…
フローラ・エヴァレットは二人のやりとりを静かに聞いていた。彼女の顔には不安の色が浮かんでいる。
「ゼノは今、どこにいるの……?」
小さな呟きが、室内の空気をさらに重くした。
「王国の外に行くしかないでしょうけど、無事なのか……」
フローラはゼノの姿を最後に見た時のことを思い出していた。
あの時、彼は笑っていた。だが、それは間違いなく強がりだった。何もかもを奪われ、たった一人で放り出された彼のことを思うと、胸が締めつけられる。
ゼノはフローラにとって、戦友以上の存在だった。彼が彼女を助けたことは一度や二度ではない。負傷した時も、絶望した時も、ゼノは必ず傍にいた。
「私が何かできたなら……」
彼女の声は震えていた。
しかし、それは叶わなかった。彼女は王国の決定に従うしかなかった。
それでも、自分の無力さを呪わずにはいられない。
フローラは、ゼノの無事をただ祈ることしかできなかった。
「ゼノ……」