追放の余波⑤
<聖女セシリアとの対話>
一方、王城の奥深くにある神聖な大聖堂。その中央で、レオン・アシュフォードは静かに立っていた。
「……まもなく、新たな聖騎士が選ばれるでしょう」
聖女セシリアの落ち着いた声が、堂内に響く。
レオンは彼女の前に立ち、神託を受けるべく訪れていた。ゼノを追放したことで彼の胸には重いものがあったが、それ以上に王国の未来を考えなければならなかった。
「ゼノを追放して、本当に良かったのか……?」
思わず零れた言葉に、セシリアはゆっくりと目を閉じた。
「すべては神の御業。あなたが決断したこともまた、運命の一部なのです」
レオンは拳を握る。ゼノを見捨てるような形になったことは、未だに拭えない罪悪感を生んでいた。
「だが、彼がいなければ……」
セシリアは静かに歩を進め、壮麗なステンドグラスを見上げた。そこには過去の聖騎士の姿が描かれている。
「あなたは、騎士とは何かと問うているのですね」
レオンは無言で頷く。セシリアは静かに微笑み、指先で大理石の床をなぞった。
「騎士、そして神が選ぶ聖騎士とは、強さだけではありません。人々を導く意志、王国を支える信念、そして……時には仲間を切り捨てる覚悟も必要なのです」
「覚悟……」
「聖騎士は、魔王と対をなす存在。あなたの決断は、この王国の未来だけでなく、この世界の在り方すら左右するかもしれません」
レオンは僅かに眉をひそめた。
「そんな大層なものじゃない……俺はただ、ゼノの代わりに王国を守る、それだけのことだ」
「本当にそうでしょうか?」
セシリアは微かに首を傾げ、神々しい光が彼女の輪郭を包み込む。まるで、見えない存在から囁きを受けているかのような表情だった。
「選ばれる者には、試練が課されます。あなたがまだ何者でもないのは、その試練が始まってもいないから」
「試練……?」
「近いうちに、あなたは大きな選択を迫られるでしょう。その時こそ、本当にあなたが何者なのかが試されるのです」
レオンはその言葉を飲み込み、しばし黙考する。そして静かに視線を上げた。
「ゼノのことをどう思う? 彼が聖騎士にふさわしくなかったというのは、やはり神の意志なのか?」
セシリアは何も答えなかった。ただ、彼女の表情はわずかに曇ったように見えた。
「神のみが知ること。ですが……彼の物語がここで終わるとは、私は思えません」
レオンの胸に重く響く言葉だった。彼は再び拳を握り、長く息を吐いた。
「……俺はどうすればいい?」
セシリアは微笑み、そっと両手を組んだ。
「あなた自身の答えを見つけなさい。それが、あなたの試練です」
大聖堂の鐘が鳴り響く。その音は、王国の未来を告げる合図のように響き渡った。
「あなたの役割はまだ終わっていません」
堂内の灯が揺らいだ。