追放の余波③
<王城を追われたゼノ>
王城の大門が重々しく閉ざされる音が、ゼノ・ヴァルグレイスの心に深く響いた。
王国の英雄だったはずの彼は、今やただの放浪者として城下町の石畳を歩いていた。
「……はは、笑えねぇな」
軽く笑いながらも、ゼノの心中は怒りと虚無感に満ちていた。王の命令ひとつで、自分の居場所がこうも簡単に失われるとは思いもしなかった。
城下町を歩く人々の視線が刺さる。英雄として称えられた彼に対する視線は、今や冷ややかだった。
「聖騎士になれなかったんだろ……」「あの人、もう王国には関係ないってさ」「神に見放された者……」
遠くから囁かれる声が、皮肉のようにゼノの耳に届く。胸の奥が重くなる。つい昨日まで命をかけて守ってきた人々が、今や自分を避けるようにしている。これが現実だった。
ある老人がゼノをじっと見つめ、何かを言いかけるが、すぐに目を伏せて立ち去る。逆に子供が駆け寄ろうとするが、母親が慌てて腕を掴み、その場から離れていく。まるで疫病でも移されるかのように。
身につけていた装備のほとんどは没収され、今あるのは実戦で使い込まれた剣と、わずかな金貨だけ。宿を取ることもできたが、今は静かな場所で一人になりたかった。
「とりあえず……どこかで夜を明かすか」
ゼノは深いため息をつき、王国の門へと足を向けた。