王国軍、迫る脅威に備えよ②
<クラリスとの再会 & 手合わせ>
王都の訓練場に、剣の風を切る音が響く。
レオン・アシュフォードは、一人静かに剣を振るっていた。迷いを振り払うように、ひたすらに刃を振るい続ける。周囲には他の騎士たちもいたが、彼の集中を邪魔する者はいなかった。
「ヒヨッコが聖騎士様になるなんてね」
突然の声に、レオンは驚いて振り向いた。そこに立っていたのは、黒髪を無造作に結び、鋭い眼光を持つ剣士――クラリス・エストレアだった。
「……久しぶりだな、クラリス。」
「随分と偉くなったもんだな、レオン。」
クラリスは腕を組み、じろりと彼を見据えた。その口元には、ほんの少しだけ興味を抱いたような笑みが浮かんでいる。
「ちょっと手合わせしようじゃないか。聖騎士様の実力を見せてくれよ。」
「いきなりだな……相変わらず無茶を言う。」
「嫌なら別にいいさ。ただし、聖騎士がそんな腰抜けで務まるのかね?」
レオンは少し息をつき、剣を構え直した。
「……やるさ。」
クラリスの口元が僅かに上がる。次の瞬間、彼女は剣を抜いた。
手合わせが始まる。
クラリスは片手で剣を持ち、軽く振るうだけ。それなのに、レオンが放つ斬撃はことごとくいなされてしまう。
「ほう、前よりは良くなったな。」
「前よりは、か……。」
「でも、まだ甘い。」
次の瞬間、クラリスの動きが変わった。
レオンの防御を突き崩し、一撃で剣を弾き飛ばす。
「ぐっ……!」
「戦場でこの程度の迷いを見せたら、即死だよ?」
レオンは息を整えながら、悔しさを噛み締める。
まだレオンが未熟だった頃、王都の片隅にある訓練場で、彼はクラリスに手ほどきを受けていた。
「レオン、お前は力任せに振るいすぎだ。」
クラリスは木剣を片手に軽く振るいながら、レオンの斬撃をいなしていた。
「でも、こうしないと勝てない……!」
「そう思ってる時点で負けてるのさ。」
そのときのクラリスは、今と変わらず鋭い眼差しだったが、どこか余裕があった。
「無駄な動きを減らせ。迷った瞬間に、お前の剣は止まる。」
彼女の言葉にハッとしたレオン。しかし、当時はまだ未熟で、その意味を完全には理解できなかった。
「……迷ったら、負ける。」
そのときの教えが、今の彼に突き刺さる。
「悪くない。前よりはずっといい。でも、まだまだだな。」
「……どうすればいい?」
「簡単さ。迷うな。お前はまだ自分の立場に納得してない。それが剣に出てる。」
「……。」
「もっと修行しな。戦場は甘くないぞ、聖騎士様。」
<遠巻きに見守るエレナとフローラ>
訓練場の隅で、二人はじっと様子を見ていた。
エレナは腕を組み、表情を変えずに戦況を見つめる。
フローラは小さく拳を握りしめ、思わず息を呑んだ。
「すごい……でも、レオンが負けちゃうの?」
フローラが不安げに呟く。
「当然よ。クラリスはああ見えて、王国でも屈指の剣士だからね。」
エレナは淡々と答える。
「でも……レオンも、すごくがんばってる……!」
フローラは祈るように拳を握りしめる。
「がんばるだけじゃ勝てないのが、戦場ってものよ。」
エレナは微かにため息をついた。
「それに……レオンはまだ迷っているわ。」
「迷ってる……?」
「剣を見ればわかる。迷いがある奴の刃は、届かない。」
フローラはレオンの戦う姿を見つめる。
クラリスの一撃がレオンの剣を弾き、レオンが膝をつく。
「レオン……」
フローラの小さな声が、風にかき消された。




