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追放の余波②

<レオン視点の追放の瞬間>


 今日が来なければよかった。レオン・アシュフォードはそう思っていた。静まり返った王城の広間。レオンは手に汗を握りながら立っていた。


「なぜ、俺が……」


朝から心の中で何回も呟いた言葉だ。


 玉座の間に響く静寂が、レオンの胸を締めつけた。広間の中央でゼノ・ヴァルグレイスが膝をつき、王の宣告を待っている。


 王国の騎士団、司祭たち、この場にいる誰もがこれから起こることを知っていた。知らないのはそう、ゼノだけだ。


 ゼノはまだ気づいていない。これから自分がどんな運命を迎えようとしているのか。


 そしてその運命を伝える役割を担わされるのは自分ーーレオンだった。


「……レオン、伝えよ」


 王の言葉が発せられる。自分が、いま一番言いたくない言葉を伝えなければならない。レオンは歯を食いしばる。ゼノをみると、彼はレオンを信頼している瞳でまっすぐ見ている。


 レオンは歯を食いしばる。


(すまない、俺はお前を救えない)


「ゼノ、お前は王国にはいられない。追放だ」


 レオンは、自分の口からその言葉が発せられた瞬間、心のどこかが軋むような感覚を覚えた。仲間だったゼノに、追放を言い渡すのは地獄のような気分だった。


 ゼノはゆっくりと顔を上げ、レオンの目をまっすぐに見つめる。その瞳には怒りも悲しみもなく、ただ、静かな疑問が浮かんでいた。


「……おい、レオン、本気か?」


 ゼノの顔が凍りつく。


「王国の決定だ」


 ゼノの口元が引きつる。笑おうとしても、うまくいかない。唇が震え、拳を握りしめる。信じていた仲間に裏切られた現実が、身体の芯まで冷たく突き刺さる。怒りとも悲しみともつかない感情が胸の奥で渦巻き、全身がわずかに震えた。


「俺は、お前たちのために戦ってきた……! 命を懸けて、戦ってきたんだぞ!」


 レオンは何も言えなかった。言葉を発したところで、ゼノの怒りを払拭することはできないと分かっていた。


 王は厳かに頷き、近くに控えていた衛兵に命じた。


「ゼノ・ヴァルグレイス。王国の秩序のため、今日をもって追放とする」


「——っ、ふざけるな!!!」


抵抗するゼノと一瞬目があったが、レオンは目を伏せるしかなかった。


ゼノはその瞬間体の力がフッと抜けたようになり、衛兵たちによって王城の外へと連れ出されていった。


 扉が開く。衛兵の足音が広間に響く。彼の後ろ姿が、やがて闇に消えていく。


 レオンは拳を握りしめた。これが正しい決断だと信じるしかなかった。

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