お前は王国にはいられない。追放だ
厳かな雰囲気が広がる王城の大広間。その中心に、一人の青年が立っていた。
ゼノ・ヴァルグレイス。かつては王国に召喚され、魔王討伐のために戦ってきた英雄。しかし今、彼は王と高位の貴族たちの前に膝をつくように命じられている。
「……何の冗談だ、これは?」
ゼノは眉をひそめ、王座の前に立つレオン・アシュフォードを睨んだ。長年共に戦ってきたはずの戦友。だが、その口から発せられた言葉はあまりに冷酷だった。
「ゼノ、お前は王国にはいられない。追放だ」
一瞬、時間が止まったような気がした。ゼノは周囲を見回す。
王、司祭、宰相、貴族たち、そして共に戦った仲間たち。誰も彼をかばおうとはしなかった。
「……おい、レオン、本気か?」
ゼノは震える声で問いかけた。信じていた仲間が、自分を切り捨てるはずがない。
だが、レオンは悲しげな瞳をしながらも、唇を引き結んだ。
「王国の決定だ」
静かに告げられた言葉が、ゼノの心を鋭く貫いた。
「は……?」
何かの間違いだと、ゼノは必死に否定したかった。
「俺は魔王と戦うために召喚されたんだぞ!? それを、なぜ——」
「ゼノ・ヴァルグレイス」
王が低く重い声で告げる。
「聖騎士の適性は、お前にはなかった」
その言葉に、大広間が静まり返る。ゼノは絶句した。
聖騎士とは、王国を守護する神聖なる騎士。勇者として召喚された者の中から、神の加護を受けた者がその称号を得る。
しかし——自分は、その資格を得られなかった。
「神が、お前を選ばなかった」
司祭長の静かな声が続く。
「それだけだ」
ゼノの体が震える。目の前の現実が、ひどく冷たく感じられた。
「……ふざけるなよ」
ゼノは低く呟いた。
「俺は、お前たちのために戦ってきた……! 命を懸けて、戦ってきたんだぞ!」
「だが、それは神の意思には関係ない」
宰相が冷淡に言い放つ。
「適性なき者は、王国にとって不要だ。例外はない」
「例外? そんなもの——」
「ゼノ、受け入れろ」
レオンが、静かに告げる。
「俺だって、こんなことはしたくなかった……だが、王国のためには、仕方がなかったんだ」
ゼノの心が音を立てて崩れる。
共に戦ったはずの仲間。
苦楽を共にしたはずの友。
そのレオンが、自分を見捨てる側に立っている。
「……そうかよ」
ゼノは小さく笑った。乾いた、何の感情も乗っていない笑い声だった。
「お前ら、本気で言ってんのか?」
レオンは目を伏せた。エレナも、フローラも、ダリウスも、誰も目を合わせようとしない。
すべてが終わった。
「……チクショウが」
ゼノは拳を握りしめる。
衛兵たちが進み出てくる。
「ゼノ・ヴァルグレイス。王国の秩序のため、今日をもって追放とする」
静かな宣告がなされた。
ゼノは一歩後ずさる。誰も助けてはくれない。
「——っ、ふざけるな!!!」
怒りに震えながら叫ぶが、誰も答えない。
やがて、衛兵たちによってゼノは王城の外へと連れ出されていった。
彼の心には、怒りと絶望だけが残っていた。