5月5日 ふごる
俺は、いつものように部室の隅でユニフォームに着替えていた。再び練習が始まった野球部員たちは、みんな楽しそうにしていた。仲のよかった悠太は、まだ部室には来ていないみたいだ。部室では、橋本、八幡、佐伯、橘たちが、大きな声で喋っている。どうしても、この中には入れないな。なんとなく、体が受け付けない。俺は、抵抗感を示していた。遠山の引っ越しという大きな激震はあったものの、いつもと変わらないように必死に振る舞っているように思えた。俺も遠山のことは嫌いではなかった。誰かに依存することなく自分の道を選択したことは尊敬せざるを得なかった。東京で何をしているかは俺にはわからないけど、アイツと話していたことはよく覚えていた。
定本「うぃーす」
橘 「おぃー」
定本と橘は挨拶を交わした。ここで、定本が来るとまた一段と盛り上がるだろうな。俺は、冷めた目でみんなを見ていた。橋本が何やら話し始めた。どうやら、練習終わりにどこか行こうという話をしている様子だった。俺は、コイツらと帰る場所が反対になるから、練習終わりにどこかに行くということはない。
健太郎「ふごる?」
野球部で「ふごる」とは、トランプの大富豪のことだった。野球部は、こういう独特の言葉を使うことが多い。健太郎は、満面の笑みを浮かべながら橋本に向かって話かける。時々、これがどれだけ続くんだろうかと思い続ける。こんな想いして、意味あんのかな?俺は不思議な気持ちになっていた。いっそのこと、もうレギュラーで出れないなら、辞めてしまった方がいいんじゃないかとすら思う。でもな、、、、、、、、、、、。コイツらみたいにヘラヘラしてるのも納得いかない。
橋本「いいねぇー。橘も行くらしいで」
私 「橘も行くん?」
橘 「当たり前やん。俺、必要やろ?」
橘は、俺と同じ方向に行くのに、今日はわざわざ遊ぶのか?不思議なヤツだな。あんな遠くまで行こうと俺だったら絶対に思わない。ただ、これが人気の要因なんだろうなとすら思っていた。明日から、再び休みに入るし、俺もどこかに出かけようかな?なんかこのままコイツらだけ楽しんでるのも癪だな。俺は、全てユニフォームに着替え、グローブとスパイクを取り出した。すると、俺は、ロッカーの下に落ちてあるカギを目にした。ゆっくり拾い上げ、見ていると、そこには"ryo"と書いてあった。




