3月19日 山田悠太
ティーバッティングを終えた俺は、少し休憩を挟んでいた。ちょうど、グラウンドでは、球拾いが行われている様子だった。
山田「どうした?」
俺 「ん?」
不意に声をかけられた。バットを持っていた俺は、バットの先を地面につけた。
山田「お前、バッティングフォーム変えた?」
俺 「あぁ。わかったのか?」
山田「まぁ、中学校の頃から見てたからな」
山田悠太。中学校のクラブチームから一緒だった。
俺 「さすがだな」
山田「俺は、前のフォームの方が好きだけどな」
中学時代、山田は、内野と外野の両方を守っていた。特に、左打ちで長打が多く、クリーンアップを打つことが多かった。
俺 「足のあげたやつね」
山田「うん。あっちの方がお前らしくていいけどな」
よく見てるな、山田は。俺と同じように、高校1年生の時に怪我をして、そこからは、あまり自分の体に負担をかけすぎないようにしているように見えた。
俺 「そうか?もう試合でないし遊びだけどな」
山田「そう言うなよ。チャンスはくるって」
俺 「どうだろうな?」
山田「俺も試合に出れてないからなんも言えないけどな。ハハハハ」
山田の実力が発揮すれば、侑大、安田、小川、遠山たちのレギュラー陣にも割って入れる。なんなら、クリーンアップでレギュラーでもおかしくない。
俺 「それはそうだな」
山田「でも、ベンチも悪くないけどな」
なぜ、こいつがベンチで納得しているのかも理解できなかった。
俺 「なんで、そう思うんだよ?」
山田「だって、ベンチにいるって面白くないか?」
客観的に見ているのか、ただのバカなのか。
俺 「試合に出た方がいいだろうよ」
山田「そうか?」
俺 「当たり前だろ」
強気で返答した。
山田「俺もな最初の頃はそう思ってたけど、だんだん思わなくなったわ」
考えが変わったのか。
俺 「それは、諦めただけだろ?」
山田「それはそうかも。ハハハハ」
俺 「笑ってる場合じゃねぇよ」
山田「まぁ、楽しくやれたらな」
でも、安田や小川がレギュラーで出て、山田が試合にすら出れないというのはあまり理解できなかった。
俺 「楽しいのは理想だけど」
山田「じゃあ、俺、マシン打ってくるわ」
俺 「おお」
山田「じゃあ!」
バットを担いだ山田は、マシンの打撃練習を始めるのだった。