3月17日 代打
海美戦から2日が経過した。俺は、いつも通り、なんとなくバッティング練習をしながら、みんなの様子を見つめていた。今日も、いつもと変わらない一日となりそうだった。
ー3月15日ー
試合は、相変わらず海美高校の春風を打ち崩すことができずにいた。打ち崩すどころかチャンスの兆しすら見えてこない。俺は、ベンチから選手を見ているのが腹立たしかった。
ベンチにいる俺以外の3年生もいる。野球は、チームスポーツたがら、同じ成績なら監督の好みの選手を使う。監督は、打力より守備力を重視するから、守備が苦手な選手は、試合に出にくい状況だった。
永谷「やばいな、これは」
俺 「ああ。永谷、バット振りにいくか?」
ベンチ裏には、キャッチボールやバットを振るスペースがあった。たしか、試合序盤から、竹田や葛西が投げていた。
永谷「今日、この展開で俺はないな」
俺 「まぁ、侑大が調子よさそうだしな」
永谷の本職であるセンターには、侑大がいる。調子を落としてないとなかなか変えるという選択肢は難しい。
永谷「あるとすれば、打力のあるお前の方じゃないか?」
俺 「俺はねぇよ。どうも、監督に好かれてないみたいだしな」
たしかに、今の代打陣なら、俺が一番打てる自信はあった。ただ、変わるところがない。
永谷「そう言うなよ。振ってこいよ」
俺 「んー。今、奥誰かいるの?」
俺は、奥の状況を確認した。
永谷「山田と健太郎が振ってると思うよ。あと、小川も」
俺 「あー。小川が出てから振るわ。絶対、アイツ使うだろ?」
完全に忘れていた。2年の小川。新チームになってから、今、試合に出ている安田と小川はとても気に入られていた。たしかに二人とも上手いけど、永谷や山田たちと比べても特別上手いということはなかった。
永谷「まぁ、バッティングセンスはあるからな」
俺 「あんな奴に負けてると思うと情けねぇわ」
拳に力をいれ、エースの橘が投げているのを見守った。
永谷「そんなこと言うなよ。それより、楽しもうぜ」
俺 「ベンチでどう楽しむんだよ。川中帰ってきたら、怒られるぞ」
永谷「それは、そうだな。ハハハハ」
今日も永谷は、いつも通り、優雅に戦況を見つめていた。言わないだけで、コイツも思うところはあるはず。それなのに、こうして見守ってられるなんて懐の広い奴だ。