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お久しぶりです。

私事で長らく投稿が空いてしまい申し訳ありません。

今後は週に1~2回の投稿を予定しています。

カーン、カーン


鍛冶屋が鋼を叩く音の響く、アーケードの朝。

ユリはベッドとクローゼットが置かれただけの質素な部屋で目を覚ますと、窓を開けて朝の澄んだ空気を吸い込んだ。

空は快晴。裏通りにあるパン屋が仕込みをしているのだろう、食欲をそそる香ばしい香りが漂ってくる。


「今日も頑張ろう。」


一つ伸びをして、2階へと降りる。

ユリの住む屋敷は通りに面して縦に長く、1階が店舗、2階と3階が住居スペースになっている。

2階にはキッチンとリビングや水回りがあり、3階は寝室と、使っていない個室がもう一部屋。

元は2、3人で暮らすことを想定に造られた屋敷のため、一人で住むには贅沢な広さだ。


顔を洗ったあと、朝食の準備を始める。

準備と言っても簡単なものだ。

バゲットは数枚切ってトースターへ、昨日作った野菜スープはコンロで温め直す。


この世界には、元の世界の家電と遜色ない、『魔導機構』と呼ばれる道具がある。

魔導機構とは魔法石を動力源にした機械や道具のことを指し、魔法石内の魔力が魔導回路を通って魔法式へと流れ、魔法が発動する仕組みだ。

例えばコンロには火属性の魔法と相性の良い魔法石が使われており、スイッチ代わりに魔法石に極微量の魔力を流すことによって発火魔法が発動する。

要は、魔法石を電池として動く仕組み一般ということだ。

コンロの他にも水道を捻れば飲用水が出てくるし、お風呂も自動で沸かすことができる。

元の世界での便利な暮らしを知っている私にとっては、ありがたい世界だ。


パンの具合はトースターに任せ、リビングから掃き出し窓でつながったベランダに出る。

アーケードのガラス屋根に沿って作られたベランダは、南向きで日当たりがいい。

せっかくなので植木鉢でいくつか野菜とハーブを育てているが、一人で消費するには十分な量が収穫できる。

夏に植えたトマトやシシトウはもう終わりの時期。

モロヘイヤはもう少し楽しめそうだ。

野菜たちの様子を確認しつつ、サラダ用にルッコラとトマトを収穫する。


チン、とトースターが焼き上がりを知らせる。

皿にバターを塗ったバゲットとサラダを載せ、スープも付ければ朝食の完成だ。


『いただきます』


元の世界の挨拶をして、サラダを口に運ぶ。

広いリビングで二人用の小さな机で食べる朝食。

王都にやってきた当初は寂しかったものだが、1年もすれば慣れてしまった。


「今日は商人ギルドからの依頼分を納品して、ついでに水の魔石の買付と…午後からお客様が一人来店予定ね。それから在庫確認と、先日のお客様のオーダー内容を彫刻師と相談して…。」


予定を確認しながら食事を終え、深い緑色のワンピースに着替える。

見た目はシンプルだが、上等な布を使い裾に刺繍が入っているちょっとお高めのものだ。

汚さないかヒヤヒヤするので高い服は着たくないのだが、商人ギルドに行く以上店のブランドイメージを落とすような格好はできない。

うっかり普通の服で行けば、お喋りな雀たちが経営悪化かと噂することだろう。


着替えを終えたら軽く化粧をし、髪を結う。

支度を終えたユリの首元には、ラフなワンピース姿にはミスマッチな大きな魔喰石のあしらわれたチョーカーが着けられていた。

台座は繊細な銀細工。タイの部分は幅広の黒レースになっていて、魔法石の豪華さを引き立てている。

さらに両の手首と足首にも、同じ衣裳のバングルとアンクレット。

それを魔法で見えなくすると、ユリは裏口から家を出た。





少し肌寒い秋の朝。

ショールを羽織ってくるべきだったかと後悔したところで、近くの朝市の喧騒が聞こえてきた。

朝市は毎日開催されていて、野菜や果物、乳製品まで大抵の食料品はここで揃う。

王都近郊で栽培された新鮮な食材は安くておいしいと、朝早い時間にも関わらず大勢の市民で賑わっていた。


「おやユリちゃん、おはようさん。お出かけかい?」

「おはようございます、バーベラさん。商人ギルドに用がありまして。」


ユリに声をかけたのは、贔屓にしているパン屋の女将だ。

もっちりした生地が特徴の彼女のパンは王都でも人気で、現に店の前には行列ができている。

ユリはバゲットとクロワッサンがお気に入りだ。


「じゃあいつものパン、とっておこうか?」

「ありがとうございます。帰りに寄らせてもらいます」

「いいのさ!アーケードの方に贔屓にしてもらえて鼻が高いよ。」


こうして店主に声をかけられるのは、珍しいことではない。

いつも買い物をしているため顔なじみであることは勿論だが、ユリが『アーケード』の住人であるためとりわけ優しくしてもらっていた。


100年ほど昔、まだ魔法石の存在が広く知られていないころ。

魔法石を使った発明は王家に禁止され、平民の技術発展が抑圧されていた。

平民は魔力が少なく、生活魔法を使うのがやっと。

かまどに火をおこし、水は井戸から汲み、風呂は共用のものにたまに入る程度だった。


そこで立ち上がったのが、秘密裏に発明を行っていた魔導機構師のロイだ。

彼は市民への技術公表を訴え、活動のさなか王家によって投獄された。

しかし遺志を継いだ魔導機構師が結束し、平民へ広く魔導機構の技術を公表した。

そのおかげでコンロや冷蔵庫、お風呂が各家庭で持てるようになり、平民の生活水準は格段に向上。

ロイは技術開放の父と呼ばれた。

そのロイの信念、「技術は広く使われるためにある」という思いを継いだ者たちで設立されたのがアーケードだ。


人々は生活を救ってくれたアーケードの住人に深く感謝し、バーベラのように現代に至るまで欽慕の念をもって接している。

アーケードの住民もまた技術開放という信念を忘れず、弟子を積極的にとり客に身分を問わないことを基本としている。


ユリが商人ギルドからの依頼を受けるのもその一環だ。

ユリの店は一点物の魔法石を取り扱っているため、商品の価格上主な取引相手は貴族になる。

しかしアーケードの信念を曲げることはユリの意図するところではないため、商人ギルドからの平民向けの依頼も受けているのだ。


朝市を抜け大通りに出ると、レンガ造りの3階建ての建物が見えてくる。

王国中の商人を束ねる商人ギルドだ。


確認はしておりますが誤字があることもあり申し訳ないです。

誤字報告とても助かっています。

ありがとうございます。

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