出会い 1
初投稿です。よろしくお願いします。
残酷な描写が含まれますのでご注意ください。
イストラリア王国西部に位置する花の都、バティ。
一年中安定した気候でリゾート地として人気のこの都では、毎年恒例の秋のネフィイリア祭が行われている。
祭の期間中は街中に青に白縁のネフィイリアの花が咲き乱れ、通りには観光客向けの露店が立ち並ぶ。
花の都が青く染まる美しい景色を楽しもうと、国中から多くの観光客が詰めかけてきていた。
そんな喧騒に包まれる街から離れ、大通りから少し外れた城壁に近い場所に、その建物はあった。
「冒険者協会 バティ支部」
いつもは騒がしい協会の前に、人はまばらだ。
冒険者たちが手続きを待つ間協会の前に屯していることが多いのだが、今日は皆、警備や護衛など、祭中に需要の高まる依頼に就いている。
人の出入りの多くなる街の治安維持のため領主より手当が出ており、報酬のおいしい依頼だと冒険者はこぞって引き受けるのだ。
そんないつもより静かな協会を、一人の男が訪れた。
「やあ、ステイル。相変わらずその席は似合わないね。」
「おいおい坊っちゃん、そんな軽口叩いてると、またノシますよ。」
「坊っちゃんはやめてくれ!今年でもう26だぞ!?」
ステイルと呼ばれた男が客をカウンター越しに出迎える。
彼はここらでは名の知られたA級冒険者で、近々冒険者を引退しバティ支部のギルドマスターになるのではないかと噂されているが、その風格はまだまだ衰えない。
日に焼けて傷んだ金髪を後で無造作に束ねシャツを着崩した姿は渋い顔立ちと相まって街の女性たちから密かに人気があるが、本人の預かり知らぬところである。
対して、恥ずかしそうにカウンターチェアに座った線の細い男は、シエル・ダート。
バティの街でも1,2を争う大きな商会を引き継いだ若旦那である。
シエルは、毎年この時期のこの日に、ステイルの元を訪れていた。
「…墓参りは、もう行ってきたのか?」
「ああ。毎年長々と墓の前に居座って、彼女に女々しいと思われたら堪らないからね。…それに、もう10年だ。」
「10年…もうそんなに経つのか…。」
本来春にしか咲かないはずのネフィイリアが秋にも咲くようになって、ネフィイリア祭が秋にも行われるようになって、そして、穏やかなバティの街を震撼させたあの忌まわしき事件から、もう10年。
「…あの子は、今年も来たのかい?」
「ああ。朝早くに墓参りに行って、俺のとこに顔だして帰って行ったよ。」
「変わりなかったかい?」
「元気そうだったぞ。王都で始めた店は順調らしい。」
「そうか、よかった…。だけど、やはり帰ってしまったんだね。出来れば会いたいと思っていたのだが…。領主様も悲しむだろう。」
「領主?」
「聞いていないのかい?あの子に会う心づもりができたそうでね。一度会えないかと手紙を出したそうだよ。」
「そりゃあ知らなかったな。…なるほど、最近会うたびに俺の顔を見て溜息をつくんでどうしたのかと思ってたんだが、そういうことかい。」
「我々は、君だけあの子に会えるのが羨ましいのさ。自業自得だということも、分かっているけどね。」
「……あの時の行動を咎めるやつなんて、誰ひとりいないさ。あの子もだ。」
「ならなぜ、」
そのとき、街に一際強い風が吹いた。
吹き飛びそうになる商品を慌てて抑える街の人々を窓越しに見ながら、シエルは言った。
「なぜ、あの子は会ってくれないんだ…。」
「…決まってんだろ。俺達の中であの子だけが唯一、あの場所に囚われたままなんだよ。」
──事の始めは、11年前まで遡る。
二人の若い娘が立て続けに行方不明になる事件が起きた。
二人はターニャとアイリスと言い、ターニャは領主の一人娘、アイリスはダティの街でも有名な商会の娘で、シエルの婚約者でもあった。
立場ある娘が二人も行方不明になったため直ぐに騎士団による捜索隊が組まれたが2人は発見されず、冒険者までが駆り出される事態となった。
最初は無差別誘拐かと思われていたが、2人の他に被害は報告されず。
調査の結果、それぞれが1人になる時間を狙った計画的な犯行だったことが判明した。
目撃証言はなく、捜査は難航した。
騎士団による捜索に加えて、冒険者にも依頼を出したが進展はなかった。
シエルも婚約者として最大限の助力を行い、2人の父親は大切な娘の為と大金を叩いて捜査を続けさせ、見つけた者への報奨金まで用意した。
それでも、2人は一向に見つからなかった。
そして行方不明になってから1年もの月日が経過した頃、ダティの街西部にある山に、怪しい男たちが出入りしているという情報を掴んだ。
行方不明になった娘たちとの関係性はわからなかったが、父親達は藁にもすがる思いだったのだろう、捜査が強行された。
騎士団と冒険者による突撃部隊が組まれ、ステイルもA級冒険者として参加した。
アジトを発見したとき、そこにあったのは、地面に倒れた行方不明の娘たちと、その娘たちを膝に抱く、幼い少女の姿だった。
誰もが、息を呑んだ。
娘たちの背後にあったのは、見たことのないほど巨大な魔喰石の鉱脈だった。
月明かりに照らされて不気味に黒く輝く魔喰石に、娘がいるかもしれないと同行していた父親達ですら、言葉を無くしていた。
「ごめ、…な、さい。…生きて、…会う、できなくて、…ごめん、なさい…。」
少女は、そう言い残してバタリと倒れた。
慌てて駆けつけると、行方不明の娘たちは既に事切れており、少女は魔力が極端に不足する「魔力欠乏症」状態だった。
このままでは命に関わると、ステイルは同行していた治療師に少女を託す。
「目を!目を開けてくれターニャ!」
「アイリス!アイリス…。」
娘たちの家族は、人目も憚らず号哭した。
1年間探し続けた愛娘が、汚れた衣服を着せられ、足首には鎖を繋がれた無惨な姿で見つかったのだ。
その場に居るものは、誰もが同情した。
「お、おい、なんだよ、これ…。」
周辺の警戒にあたっていた冒険者の一人が酷く怯えた声を発した。
「どうした。」
「ス、ステイルさん。見てくれよ、あれ!」
「…っこれは!」
巨大な魔喰石の鉱脈の足元。
崩れ落ちた魔喰石の下敷きになっていたのは、犯人と思われる男達だった。




