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5 なぜチラシ配りに命を懸けなければいけないのか (挿絵)

汐のイメージ画を作成しました。


挿絵が煩わしい、表示されない方は画面右上の「表示調整」からご設定ください。

挿絵(By みてみん)

【怜】

「よろしくお願いしまーす。」

 昇降口から出てきた生徒に向けてチラシを差し出す。生徒は迷惑そうに一瞥を向け、とおり過ぎていく。

 そんな奴には構わず別の生徒にもう一度トライ。今度は受け取ってもらえた。しかし生徒の手元に収まったチラシも一瞥をくれただけでカバンに押し込まれる。

 畢竟、渡しても渡さなくても同じである。つまりこんなものやる意味がないということ。証明完了。エル・プサイ・コンg・・・

「怜まじめにやれよなー」

 非難する声に振り向けば頭の後ろで腕組みをしながら欠伸をもらしている女子生徒が目に入った。

 いかにも暇そうな彼女だったが、記憶に寄れば彼女も同じくチラシ配りをしているはずなのだ。これはおかしい。

「朱サボるな。チラシはどうした?」

 やりたくもない仕事をしている身としては、同じ仕事をしているはずのやつがサボっているのは許せない。非難の視線に言葉を乗せて集中砲火する。

 だが、朱はどこ吹く風。「そんなのもう終わったよー」と何も持っていない手をひらひらと振りながら、まるであざ笑うかのように真横を通り抜けていった。

 敗北感に打ちのめされながら手元のチラシに視線を落とす。どうしてこうも要領に違いが出るのだろうか。

(こういう仕事ってやっぱり見た目がいい奴の方が得だよな・・・バイトでもたまにやってるけど、やっぱり違うよな・・・)

 やはり快活で元気なイメージが大切なんだろうか。朱といったら天真爛漫で自由人、傍若無人。

(傍若無人は褒めてないか?あれ、自由人も・・・?)

 細かいことはどうあれ、天真爛漫は事実だ。朱とは幼稚園からの付き合いになるが、いつも明るく元気。加えてあの容姿だ。所謂みんなの人気者だった。誰かさんとは大違い・・・

 そんな朱も最近になって雰囲気が変わった気がする。自由な振る舞いに磨きがかかり、押しも強くなった。だが、あわせて陰を持つような表情をすることも多くなった。もしかしてそれが大人になるということなのだろうか。

(いやいや!なんであいつのことなんて考えてるんだ!早くチラシ配りを終わらせてあいつと合流しなければ・・・って違う!)

 まるで朱に会いたいと言わんばかりの恥ずかしい妄想に囚われそうで身悶えする。

 ちょうどいい。こちらに歩いてくる人影を視界の端でとらえた。妄想を振り払うようにチラシを差し出す。声かけも忘れずに。

(重要なのは明るい雰囲気だ。やればできる!大きな声で、笑顔で、元気に!)

「よろしくお願いしまーす!」

 鼻血を出してエンターキーを押す少年さながら、願いを込めて差し出したチラシは、はたして受け取ってもらえなかった。

「な、なんだか雰囲気違いませんか?病院行きますか?脳外科ですか?腕の良い先生を紹介すればいいですか?」

 おもくそ知り合いでした。むしろ朱に働かされている同志橘でした。

(は、恥ずかしい!穴があったら入りたい!待て、そう都合よく穴はない。とりあえず穴を掘って落ち着こう。その後に穴に埋まれば・・・)

「くねくねして気持ち悪い人ですね・・・あっ!イチカちょうどいいところに!助けてください!気持ち悪い人に襲われています!」

 落ち着いた。落ち着きはしたけれど、そう親しくない女の子に面と向かって気持ち悪いと言われるとくるものがあるな。このままだと掘った穴は墓穴になりそうです。

「ふたり、仲良かったんだね。何してるの?」

 橘が手招きした先から女子生徒が歩いてくる。知っている生徒だ。めっちゃギター上手い一花いちはなさんだ。

 橘はイチカと呼んでいるが、彼女の苗字はイチハナが正解だ。見やれば、橘が大きな声で「仲良くありません!心外です!」と叫んでいた。もう逃げ出したい・・・

「一花さんこちらも助けてください。ライフポイントが0です・・・」

「え、何?とりあえず嫌です。」

「事情も聞かず拒否するスタンス!流石イチカです!」

(どのあたりが流石なのか全く分からないけど、そこに突っ込んだら橘にバーサーカーソウルをキメられそうなのでやめておくことにしよう・・・)

「ごほん・・・コッキーポップ同好会の入部勧誘チラシを配ってるんだけど、捌けなくて困っているんだ。というわけで、この残り分は任せた。」

「なんで私が・・・黒江さんに用があったんだけど、いないみたいだね。」

 なんで、といったか?チラシ配りは部員の義務です。今まさに義務を放棄ようとしている身で言うのもなんだけど。いや、朕は国家なりか?むしろルールブ○イカーか?というか、部員といえば配り終わってるやつにやらせるのが道理じゃね?そうだ。そうに違いない。この際、労働率は無視する。やはり我が理を制するのだ!

「朱は探してくるよ。じゃあ任せた!」

「ち、ちょっと私たちは部員じゃありません!こんなことする義務は・・・待ちなさい!」

 慌てる橘、困惑する一花を尻目に半無理矢理的にチラシの束を預けて逃げ出す・・・もとい、朱の追跡を開始した。

 思うことは、そういえばあいつら部員じゃなかった。

20230216サブタイトルの附番を変更しました。

20230525サブタイトルの附番を変更しました。

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