4 変わりたいと願うなら、行動するしかない (挿絵)
忍のイメージ画を作成しました。
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【忍】
「え!遥香ちゃん部活決めちゃったの?」
放課後を知らせるチャイムが鳴ったのは5分ほど前。遙香ちゃんは私の席に来るなり顔の前で手を合わせると「ごめん!」と頭を下げてきました。
「部活じゃなくて、生徒会だけどね。このあと挨拶に行くつもり。」
遙香ちゃんは高校に入ってから初めてできたお友達です。同じクラスで席が近かったこともあり、自然と話すようになりました。きゅっと結ばれたおさげに眼鏡をかけていて、はじめはきりっとして真面目な印象を受けました。ですが話してみると物腰柔らかな性格で、ふわっとした三つ編みなんかも似合いそうな気がします。
今週の月、火曜日と一緒に部活動見学に参加して、今日もそのつもりだったのですが、どうやらフラれてしまったようです。
「生徒会って確か首席の人が勧誘されるんでしょ?・・・ってことは遙香ちゃん1番頭いいってこと?すごいね!」
何度も謝る遙香ちゃんの姿に、逆に私の方が申し訳なくなってしまって、少し強引に話題を変えました。遙香ちゃんは「すごくないよー」と言葉の上では否定するものの、その実、満更でもない表情を隠しきれていませんでした。
「忍ちゃんは見学に行く部活決めた?テニス部と陸上部は少し合わないみたいだったけど。」
バツの悪さを感じたのか、空気を変えるようにわざとらしい咳払いをしてから水を向けてきました。
「そうなんだよね・・・だから運動部はもういいかなって思って。でも手芸とか書道とかできないし文化部はピンとこないんだよねー。」
気もそぞろに答えながら部活動が一覧になっているパンフレットを眺めていると、遙香ちゃんは私の隣に椅子を移動させて肩を寄せてきました。
「なら音楽系の部活はどう?吹奏楽部とか。あ!この学校って箏曲部が有名じゃない?」
「箏曲・・・琴のこと?なんつって・・・」
一瞬の停滞。時が止まったのかと思いました。さっきまで友愛に満ちていた遙ちゃんの目から温度が消えていました。
(親父ギャグは寒いというけれど、私は地球温暖化解決の糸口を見つけたかもしれない・・・っ!)
逃避のために益体もないことを考えつつも、未だ白い目を向けてくる遙香ちゃんの半眼に耐えられなくなった私は、目をそらすように視線を落としました。
(ん?軽い音楽?)
「軽音楽部?バンドとかやるんじゃない?ギターとか弾いて。」
思わず声に出ていたようです。
ふと目に留まったその部活に聞き馴染みはありませんでしたが、遙香ちゃんはわかるようです。さすが学年1位です。なんでも知っています。
(ギターはちょっと興味あるような・・・?)
「運動部とも他の文化部とも毛色が違うし、いいんじゃない?」
遙香ちゃんは「行ってみなよ!」とダメ押しで言いながら背中を押してくれます。
逡巡、私は「よし!」と気合を入れて立ち上がりました。
「ところで、なぜバンド音楽のことを軽音楽って言うんだろう?」
遙ちゃんは困ったように眉をひそめて首を傾げました。どうやら学年1位でもわからないことはあるようです。
軽い挨拶を交わして別れ、私は音楽室を目指しました。音楽をする部活は音楽室で。道理ですね。
(そういえば筝曲部とか吹奏楽部もあったけど、どこで練習するんだろう?)
他の部がどこで練習するのかはわかりませんが、遙香ちゃんによると「部」と付くクラブは大会で優勝を目指すなど、かなりの熱量を持って取り組んでいるらしいです。なのできっと他にしっかりとした練習場所があるのでしょう。
音楽室はさほど遠くありません。程なくして到着した私は部屋に入る前にノックをして返事を待ちました。
「すみませーん。」
「あぁいらっしゃい!1年生だね?さぁどうぞ。」
中々返事がない中、少しだけドアを開き、頭だけ部屋の中に入れる形で声をかけると先輩と思われる男子生徒と視線が合いました。
(わ、イケメンだ。)
私は音楽には詳しくありませんが、その見た目はバンドマンと言われて想像できる、典型のような人だと思いました。
身長は私より頭1つ分くらい高く、前髪は長く目にかかるくらい。整った甘い感じの容姿は女の子にモテそうな見た目でした。少し軽薄そうなところがまた人気が出そうなところです。
「あの、見学希望なんですが、いいですか?」
「もちろん!あっちで他の1年生とも話しているから後で案内するよ。まずはこっちに来て!」
手招きされ、私は入り口近くに置かれた椅子に座りました。机を挟んだ対面にはイケメン先輩が腰かけ、何か書類を指し示しています。
「とりあえずこの紙に名前を書いて。」
「入部届ですか?私まだ入るって決めたわけじゃ・・・」
「これは仮入部届。見学に必要なんだ。あぁ心配しないで。入らなかったらちゃんと返すから!」
これまた遙香ちゃんによると、仮入部届は春の新入生勧誘の時にだけ必要な書類で、新入生が無理矢理入部させられるのを避ける目的があるそうです。
仮入部届は4月末まで有効ですが、もし提出した後に辞めたいとなった場合は仮入部届を返してもらう必要があります。
別段、本入部になったからといって辞められないわけではないのですが、「仮」という文字をつけることによって心理的に辞めやすくするという配慮があるそうです。
(見学だけなら仮入部届は必要ないと思うけど、先輩だし言いづらいな・・・この人無視して行くわけにもいかないし・・・うーん。後でちゃんと返してもらおう!)
先輩は何も言わずニコニコと笑っています。
逡巡の後、無言の圧に耐えかねた私は仮入部届を先輩に手渡していました。
20230216旧「3 友人との温度差 (挿絵)」と本編を統合し、挿絵を追加しました。
20230307注釈コーナーと統合しました。
20230415本文の誤字及び表現の修正、掲載話の順序を入れ替えました。
【注釈コーナー】 けいおんとは
「さあ、始まるざますよ!~古今東西~知恵の泉へようこそ!記念すべき第一回はワタクシ、朱と怜が担当するよ!」
「ちょっとした豆知識や少々込み入った内容を説明するコーナーだろ・・・・・・真面目に始めなさいよ。」
「と言いつつノリがいい怜であった。京アニの匂いがプンプンするぜ!」
「・・・」
「早速質問いくでガンス!バンド音楽のことをなぜ軽音楽というのですか?」
「ggrks」
「はー。まったくネタが古いねちみは。」
「フンガー!・・・クラシックとそれ以外の区分!」
「75点。昭和初期にクラシックではない音楽を表すために生まれた言葉で、ドレスコードや音楽的知識のない人でも気軽に楽しめることから軽い音楽とつけられたのだよ。You see?」
「・・・・・・はい。」
「次回もお楽しみに!」