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45 間違っていたのは俺じゃない、世界の方だ!①

【怜】

「キャー!」

 部室に響く悲鳴。もしここに見た目は子ども、頭脳は大人の彼がいればルート確定だが、幸か不幸かここにはいない。よかった。

(いたら確実に不幸確定なんだよなあ。)

 ちなみに俺はいま不幸である。なぜなら異性に着替えを覗かれたからだ。あれ、ということは対偶証明的に俺が高校生探偵ということになる。とんでもないことに気づいてしまった。さすがは名探偵。違うか。

(というか叫ぶなよ。傷ついちゃうだろ・・・) 

 普通は逆ではないだろうか。どこの世界に男の着替え現場に突入してくるヒロインがいるのか。これでセクハラだとか言われたら、もうそれは当たり屋のやり口である。

「せ、先輩!なんで脱いでるんですか!」

 セクハラだと言われないだけマシなのかもしれないが、そんな、俺が露出狂のような言い方をされる謂れもない。こちらには正当な理由があるのだ。

「1限が体育だから着替えてるんだよ・・・」

「そうですか・・・」

「ああ・・・」

「そう、ですか・・・」

「え、なに・・・」

(出て行って欲しいんですけど・・・)

 部室の扉を背に一向に動かない指宿に抗議の視線を向ける。それでも動く気配のない指宿だったが、しかして、その視線だけはチラチラと俺に視線を向けて行ったり来たり、せわしなく動いている。そうですか。キモくて直視できないってことですか・・・

「い、いえ!・・・先輩ってマッチョだったんですね。腹筋がちぎりパンみたいです。」

「マッチョって今日日きょうび聞かねえな・・・というかそこまでじゃないだろ。まあベースは筋肉だから必要な分は鍛えてるけど・・・」

「え・・・ベースは木ですよ?・・・脳筋のうきん?」

「ちょっとやめて誰が脳筋なの。別にベースが筋肉でできているとは言ってないだろ。それに、脳筋っていうのは一花みたいなやつのこと言うんだよ。」

「ふふ。先輩ひどいです。恋ちゃん先輩あんなに華奢なのに。」

(人のこと笑ってますけど、あなたもそのケありますからね・・・)

 その証拠にこの女、昨日massesの練習が終わってから元祖脳筋の一花に家での練習は何をすればいいか聞いていた。もし言われたとおりの練習をしているのなら晴れて脳筋イチカちゃんの眷属けんぞくだ。ちなみに筆頭眷属は言わずもがな。

 ともあれ、いつまでも見られているのものままならない。それに授業が始まる前に部室に寄るなんて何か理由があるのだろう。俺は気を逸らす意味も込めて水を向けた。

「それで、何しにきたんだよ。こんな朝早くに。」

「あ、それはですね。先輩、ギター持ってくるように言ってましたよね。なので生徒が少ない時間帯を見計らって少し早く登校したんです。」

 カバンを漁り体操着の上衣を探していた手が止まった。指宿のその答えが聞き捨てならないものだったからだ。

「・・・・・・そうか。」

「え・・・まさか冗談だったんですか!?せっかく恥ずかしい思いをしてビニール袋で持ってきたのに!」

 指宿はビニール袋でギターを運ぶことを嫌がっていた。いや普通に俺も嫌だけど。しかし、それをおしても持ってきたと言う。

「あ、いや・・・その、なんだ。とりあえずこれ使え。」

「え?これギターケースですよね。貸してもらえるんですか?」

「・・・まあ、持ってこいって言った手前な・・・」

「・・・あ、ありがとうございます!」

 まさか本当にギターを持ってくるとは。何がこいつにそうさせたのかはわからないが、念のために持ってきたのは間違いじゃなかったようだ。

 指宿は渡したケースを胸の前で抱きしめ、表情を緩めている。

 その頬には赤みが差して、はにかんで見せるその心の機微は理解できない。それでも嫌がっているわけではないように見えないのは俺の勘違いではないはずだ。

「べ、別にあげるわけじゃないんだからね!今ちょうど使ってなかっただけだから!・・・だからこれはギター買うまでのしのぎだ。」

「もちろんです!大事に使います!」

 そうして指宿を発端として、えも言われぬ空気が部屋を満たした。

 努めて明るい口調で話したが、なぜチョイスがツンデレになったのかは自分でもわからなかった。

「・・・試しにギターを入れてみてくれ。たぶん入ると思うんだが。」

「たぶんですか?」

「ああ。変形ギターは入らないからな。そしてそのギターは変形寄りだ。お、入ったな。」

 汎用ケースとはいえ、正直このギターが入るかは自信がなかった。入らなかったら何とも気まずい空気になっていたところだったが、事なきを得たようだ。

 そんな俺の心中とは別に、指宿は「ぴったりですね!」と言いながらパーっと笑顔を浮かべている。人懐っこいその表情は例の名前を言ってはいけない傍若無人と対照的な犬系のソレだ。

「・・・その、なんだ。触っていいか?」

「さ、触る!?」

 俺の言葉を受けて、指宿は自分で自分の肩を抱いて一歩後ずさった。これは明らかに勘違いしている表情だ。

 言い方が悪かったことは反省するが、こいつもこいつだ。すぐそういう方向に持っていこうとするところを見るに、もしかしたら頭の中は筋肉ではなくお花が詰まっているのかもしれない。

「ギターを、だ。そのギターって結構珍しくて、俺も今まで弾いたことないんだ。」

「あ、ギターですか・・・どうぞ。」

 眉根とともに下がった肩にはどんな気分が載っていたのだろうか。

 しかしそんな答えが出ないことを考えても仕方がない。それに何より、今はとにかくこのギターを見たかった。

 ふと、半開きになっている部室の扉から風がそよいで首筋を伝った。4月の朝は未だ肌寒いが、そんなこと瑣末な問題だ。俺は体操着を着るのを後回しに、指宿からギターを受け取った。

【注釈コーナー】 Celebration!


「秋津、今日は良い日だね。」

「ああ、まったくだ。一花。」

「国民の祝日にしても良い。」

「そのとおりだ。」

「本当にすごいこt・・・」

「おまえらが何の話をしてるのかまったくわからん!」

「朱・・・不思議ちゃんとの会話は大概がこんなものだ。」

「この男は!イチカがちょっと優しくすればつけ上がって!あなたはイチカと対等に口が聞ける立場だと思っているのですか!話しかけてもらえるだけ幸せと思うべきです!」

「立場・・・そういう意味では怜は重度の厨二病患者だから電波受信できる立ち位置かもしれんな・・・」

「せ、先輩方。落ち着いてください!今日は何かおめでたいことがある日なんですか?」

「忍。これからもギターを続けていくのなら、今から原宿に向かった方がいい。」

「原宿・・・ロールアイスですか?」

「ロールアイスが流行ったのは少し前のような気がしますが・・・」

「ロールアイス好き。Honeyハニー Flashフラッシュ食べたい。」

「あ、私もそれ好きです。おいしいですよね。」

「イチカが行くなら私も行きます!」

「しぃにはTropicalトロピカル Landランドがいいと思うよ。くまのクッキーのってるし。」

「それにします!」

「私もぉ〜PHANTOMファントム SERIESシリーズ Ⅱ 好きぃ〜。」

「おい、ひとりだけおっさんが混じってるぞ。おまえのそれはロールスロイスの車種だろ・・・」

「これは朱ちゃんうっかり!でも似てるよね!」

「ロールアイスのついででもいいから、行ったほうがいい。ちなみに私はVOX phantomも好き。」

「60年代のVOXのギターなんてなんで知ってるんだよ・・・歳誤魔化してないですかねイチハナサン・・・」

「はーい!もうみんな話が散ってるよ!ズバリ恋と怜は何が言いたかったの?」

FENDERフェンダー

「ん?恋?」

「・・・FLAGSHIPフラグシップ・・・急に始めるなよ。そういうところがマジ不思議ちゃん。」

「忍、原宿はどこにある?」

「え?渋谷区・・・?TOKYOトウキョウですか?」

「うん。本日2023年6月30日にFENDER FLAGSHIP TOKYOが原宿にオープン。FENDER世界初の旗艦店。これはめでたい。」

「ちなみに、当たり前だけどFender製品しか置いてないからな。Gibson党の人は発狂しないように注意して行くことだ。」

「結局行くのですね・・・」

「橘。楽器業界の発展は、変な意地なんかは無視して、みんなで喜ぶべきだ。違うか?」

「・・・認めましょう。」

「しぃ。今度一緒に行こう。」

「イチカ!ぜひ!」

「せ、先輩はもう行ったんですか・・・?」

「ああ。3回行った。」

「3回!?今日オープンですよね!?」

「それだけ行く価値がある。」

「怜。Gold Foilのシリーズって置いてある?あのラインちょっと気になってんだよねー。」

「もちろんだ。」

「よーし!じゃ今度行くかー!シノも行く?あ、怜は強制参加ね。」

「い、行きます!」

「・・・まあ行くけどさ。」

「私も行く。なんだかアイス食べたくなってきた。しぃも行こ。」

「お供します!」

「よっし、じゃあコッキー全員で行くか!」


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いつも閲覧ありがとうございます。この物語が面白いと思っていただけましたら、ページ下部よりブックマーク、☆☆☆☆☆の評価をよろしくお願いします。執筆の励みになります。

いやはや、実にめでたいですね。


P.S. (怜的)対偶証明法

探偵がいない→幸せ

幸せ→探偵がいない

不幸→探偵がいる

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