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33 ねこネコ猫キャット⇄ファイトぱーんち!

【忍】

「じゃあ、ドラムの4カウントで間奏終わりまで。イブっち、準備はできた?」

 かけられた声に顔をあげると、そこには真紀ちゃんの満面の笑顔がありました。

「だ、大丈夫だと思う・・・」

 ギターを抱える身体に力が入ります。

 目の前にはマイク、譜面台、抱えるギターはクロエ先輩から借りたエレキギターです。ギターの種類なんてわかりませんが、音楽室で見たことがあるギターとは形も違いますし、このギターがエレキだということは初心者の私にもわかります。

 しかし知らなかったのは、ギターアンプの使い方です。

 エレキギターはアンプというものに繋げて音を大きくする必要があります。それは昨日の軽音楽部の見学のときに田中先輩が実演説明してくれました。

 しかし正直に言うとそれは、初心者の私には十分とは言える内容ではありませんでした。

 昨日は真紀ちゃんに説明を補足して助けてもらった形ですが、今日も今日とて、演奏のためのセッティングを手伝ってもらいました。

 そこでわかったのですが、どうやらギターを立って弾くにはストラップというベルトのようなものが必要らしく、持っていなかった私はスツールに座って弾くことになりました。

 準備を終えて周りを見回せば、こっくりさんとオド太郎さんはすでに準備を終えたらしく、腕を回したり、指を開いたり、何かしらのストレッチをしていました。その姿は落ち着いており、どこかこなれた印象を受けました。

 さても、真紀ちゃんに促されるまま、なし崩し的に演奏することになってしまいました。

 いえ、私だって抵抗はしました。人前でなんて弾いたことありませんし、他人と合奏したことなんて、小学校の音楽の授業でのリコーダーか中学でのお琴くらいです。それも数年前に数回やったきりですし、緊張してしまうのも無理からぬことではないでしょうか。

 震える手をさすり、大きく息を吐いて気を落ち着かせます。斜め前に座る甘声さんの「こんな子が弾けるわけない」と呟いている声は私以外に聞こえたのでしょうか。

(オド太郎さんがドラムのスティックを4回鳴らしたら演奏を始めて、2番に入る前に演奏をやめる、と・・・)

 私にできるかはわかりませんが、ここまできたらやるしかありません。先ほど真紀ちゃんに教えてもらったとおりに始めて、練習どおりに弾いて終われば、それで合奏になるはずです。

(練習では弾けていたし、きっとできる・・・!私はやればできる子!)

 甘声さんに侮られたままなことが悔しいとか考えないわけではないのですが、今はそれ以上に自分の練習の成果を見てみたくてしょうがありませんでした。

 オド太郎さんは周りを見回して落ち着きがありません。それは面目躍如かとも思いましたが、どうやらオドオドしているのではなく私たちにアイコンタクトすることで開始のタイミングを探っているようです。

 演奏前の独特な静けさが広がる中、それを打ち破るようにスティック同士が打ちつけられて硬質な音が静寂を切り裂きました。

 イントロがはじまりました。ギターはGコード、歌詞はまだありません。

 初めてバンドの中に入って弾いたそれは爆音と言って良いと思います。思わず演奏を止めて耳を塞ぎたくなるようなものです。

 初めての合奏は色々な意味で衝撃的でした。

 各パートごとの音量が大きく、言い訳をするのではないのですが、動画サイトのPVをイヤホンを使って聴くように聴きやすいものではありませんでした。

 そのせいか、いつの間にか他の人とタイミングがズレてしまい、演奏は歌が入る前に止まってしまいました。

「ご、ごめんなさい!やっぱり私には・・・」

 ひとりで練習している時には曲に合わせて弾けていると思っていましたが、結果はこのザマです。

「ほらね!できるわけないじゃない!弾けないくせに大きな顔してんじゃないわよ!」

 まったくそのとおりです。思えば、何事だってそうでしょう。練習の時にできたことが本番でもできるとは限りません。私は思い上がっていたのかも知れません。

 私は甘声さんの叱責に何も言い返せませんでした。

 カチャカチャと何かが擦れる音に顔をあげると、真紀ちゃんが苦々しい表情を浮かべて部屋の隅に山積みになっているスツールを引っ張り出しているところでした。

(真紀ちゃんもがっかりだよね。あそこまで言ってくれたのに、真紀ちゃんの顔を潰す形になっちゃった・・・)

「イブっち、緊張してる?当たり前だよね。」

 自分を恥じる思いと真紀ちゃんへの罪悪感で暗くなってしまった私に真紀ちゃんは笑いかけてくれました。

「うん、おっけ。じゃあイブっち一緒に弾こうか。」

「え?」

「いくよ。はい!1(ワン)、2(トゥ)、3(スリー)、4(フォー)!」

 私の隣にスツールを置いて腰かけた真紀ちゃんは、それだけ言うと私の返答を待たず、イントロのコードを弾き始めました。

 ギターを弾く合間、器用に手振りで私にもギターを弾くように促すその表情は笑顔。それはとても楽しそうに見えました。

(真紀ちゃん・・・よ、よし!)

 私は真紀ちゃんに合わせるようにギターを弾きました。アンプから出る音は、当然ですがふたり同じ音。タイミングがズレていないふたつの音は、あたかもひとつのギターで弾いているようでした。

 いつしか真紀ちゃんはコードではなくリードパートを演奏し、ギターふたりだけでイントロを奏でました。

(もうすぐイントロが終わる。このまま歌えってこと?)

 イントロの最後のコードの音を伸ばし、マイクに向きなおります。

 息を大きく吸って第一声。ギターのコードと一緒に声を出した瞬間、それは曲になっていました。

 それは詩的な表現というわけではなく、私が歌うと同時に、ベースとドラムが加わり、途端に曲として聴こえたのです。

 それは真紀ちゃんの合図のおかげです。イントロが終わる間際、真紀ちゃんがこっくりさんとオド太郎さんにアイコンタクトしていたのです。

(す、すごい・・・みんなが私に合わせてくれてるみたい・・・!)

 そこに先ほどまでの音のズレはなく、まるでひとつのゴールに向かって全員が支えながら走っている、そんな錯覚を覚えました。

 時間にすれば数分の出来事です。しかし私にはそれがもっと短いように感じたのです。

(誰かと弾くのってこんなに・・・)

 はたして、調和のとれた音像は迫力を伴って部屋に響き渡りました。

20230525サブタイトルの附番を変更しました。

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