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2 コッキーは部員が少ない

この物語は大部分を一人称視点で進行します。

場面ごとに視点が切り替わりますので、わかりやすいように本文の始めに隅付き括弧【 】で誰の視点かを示しています。ご了承ください。

あけ

「では黒江さん、よろしいですね。猶予は4月末日です。それまでに部員が5人以上いなければ廃部とします。」

 生徒会を名乗る女子生徒は急に部室に現れるとそう言い残し去って行った。

「え、まずくね?」

 部屋に残されたのは私ともうひとり。茫然としていた私だったが、背中からかけられた声に振り返る。

「いや去年からわかってたことだから。」

「そんなの聞いてない!」

「元部長も言ってたから。・・・ほら。」

「何これ?」

「勧誘チラシだよ。作っておいた。」

 有能かよ!思わず声に出した言葉は思っていたより大きくなって自分でも驚いた。

 やれやれと言った表情の怜を尻目にチラシに目を落とす。


 コッキーポップ同好会〜部員募集〜

 内容:楽器演奏

 場所:部活棟1階

 来れ新入生


「うむ。魅力がないな。」

「失礼なやつだな!じゃあ自分で作れよ!」

「内容にお茶とお菓子を追加しよう。」

「放課後何タイムだよ・・・っ!」

「いいじゃん本当に食べてるし。」

「お前しか食べてねーよ。一緒にするな・・・」

「世の女子はお菓子が好きなんですー!それに女の子が集まってお菓子食べてたらもうそれだけで可愛いだろ?」

「群れている時点で気持ち悪い。」

「うわぁ出たよ謎理論。その考え方の方が気持ち悪いからな!」

「・・・だいたいその食べるやつがいねぇんじゃねーか。」

「ここにいますー!あとは・・・あ。」

「だから部員がいないんだって。」

「・・・諦めるな!点呼、始め!イチ!」

「・・・二」

 怜の後に続く者はなく、点呼は部室に静寂を呼んだ。

 どこか諦めたように脱力する怜の肩。動きにあわせてさらさらと落ちた髪が擦れる音さえ聞こえるようだった。いつもは低い位置のポニテの怜だが、今日は結んでいないようだった。

 しかし、怜の髪型なんて今はどうでもいい。

(どうしてこうなった!)

 絶望的な状況に頭を抱える。なぜここまで追い詰められてしまったのだ。

 高校も2年目の春、早くも私の青春は終わりを迎えようとしていた。

(誰だこんな状態になるまで放っておいたやつは!部長出てこい!)

 あ、そうでした。私が部長でした。


【怜】

「思いついた!歴史に名を遺す名案だ!」

 俯きながら何事か考え込んでいたあけは、急に顔をあげて高らかに宣言した。

「何をだよ?」

 突然のことについて行けずよく考えずに質問を返してしまった。朱はあたかも「あんたバカぁ?」とでも言いたげな表情で視線を向けてくる。少し考えれば分かったことだけにこちらが悪いのだが、とはいえむかつくなこの顔・・・

「新入生を勧誘する方法に決まってるじゃん!」

 小馬鹿にしたような表情は癇に障るが、この絶望的な状況を打開できる妙案があるなら聞こうじゃないか。「その心は?」と話の続きを促す。

「ステージで演奏して新入生にアピールすればいいのさ!」

「月並みの発想じゃねーか!」

 思わず暴走運転老人も真っ青な速度で突っ込んでしまった。さすがの朱も「お、おう」とたじろいでいる。

 朱の態度から多少の恥ずかしさを感じたので、ごまかしの意味を込めて咳ばらいをしてから水を向ける。あと意趣返しも忘れずバカにした表情も向ける。

「演奏してPRってのはそうだろう。だけどそれは無理だ。」

「あきらめるな!無理って言葉は可能性を狭めるからよくないって死んだじっちゃんも言ってた!」

「お前のじっちゃん両姓方とも生きてるだろ。勝手に殺すなよ!・・・まあそれはともかく、新歓のステージって事前申請が必要なんだよ。時すでに遅しってやつ。」

 思わず大きなため息をつきそうになるが堪える。やること成すこと8割方冗談みたいな人間だ。こいつの発言にいちいち反応していたらきりがない。

 当の本人はと言えば「おそし・・・お寿司食べたいな」と呟きながら思案顔を晒している。

(はぁ、だめだこりゃ・・・)

 心の中とはいえため息を漏らしてしまった自分が情けない。こんなことでこの先やっていけるのだろうか。

 こちらの心情などお構いなしに、朱は「新歓でライブしたい!あとお寿司食べたい!」と暴れていた。

 そんな、「絶対ここでライブします!」と目をキラキラ星のように輝かれても無理なものは無理だ。朱の場合、足りてないのは主に社会常識だが。

 白々しい視線を向けるも、朱はどこ吹く風。全く効いていない。それどころか、含みのある表情で笑っていた。

「ふっふっふ・・・しかし、そういうことなら。我に策あり、だ!」

 どうやら夕食のメニューだけを考えているわけではないらしい。朱は目に自信をみなぎらせ、胸を張って言い放った。

「綾乃に軽音部の演奏時間を譲ってもらおう!」

(だめだこいつ早くなんとかしないと・・・)

20230216本編の内容を一部修正しました。

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