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23 Cut To The Feeling(プロローグ)―訳して、かっとビングだぜ、オレ!!―

【怜】

「じ、女装!?」

 朱が作った静寂は、予想外にも指宿のひとことが切り裂いた。

 その顔は驚愕に染まり、「え、ゴス・・・あれ包帯は?・・・病気?怪我?」と意味がわからないことを呟いている。

(ついでに俺のATフィールドも限界まで切り裂いてます・・・包帯は病気って、この子、厨二病の存在を知らないタイプですかね・・・)

 俺を見るその視線には驚きや困惑ではない感情が乗っている気がするが、俺にその全容を知ることなどできない。

 それにしてもこの指宿の表情。今一度考えると、流石にゴスロリに包帯と眼帯を合わせるのはキャラを盛りすぎていただろうか。なぜ俺の友達はやる前に教えてくれなかったのか。

(あ、そうか。友達がいないからか。)

 証明完了。ライフポイントは既に0。満身創痍になりながら、それでも心の傷を引きずって羽ばたき続ける俺の翼は既にバキバキに折れている。そうか俺が翼の折れたエンジェルだったか・・・

 だが、心のバリアが引き裂かれようが、翼が折られようが、未だ心は折れていない。

「落ち着け小僧。話はそれからだ。」

 俺は声が上ずらないように努め、指宿に向けて鷹揚に言い放った。

 しかしながら、普段はクールにキメている俺も、今この時は表情を取り繕えている気がしなかった。話の流れを察し、咄嗟にゲンドウポーズを組んで顔を隠していなければ、今頃は五体投地で床冷たいと言っているところだった。

 取り繕えているのは見た目だけ。組んだ手のひらは大洪水。胃の腑が締め付けられるような感覚、限界まで切り裂かれたATフィールドの断面からは何かがまろび出るかと思った。

(ところで、心って心臓にあるんですかね?手の平が灼熱のように熱いのだけれど、もしかしたらこれが噂に聞くぽかぽかしているということなんだろうか・・・そうか、これが心か。)

 しかしもしそうだとすると、それ好きってことじゃん。あらいやだ。このままだと俺が指宿のことを好きだということに帰結してしまう・・・さて、ようやく落ち着いてきた。

 益体もないことを考え、自らを落ち着かせるこの儀式も、平静に戻るまでにいつもよりもリソースを要してしまった。

 しかしそれもむべなるかな。後輩女子に痴態を晒し、この視線。俺の思考は大混線。多彩に繋がる世界線でカーニバルがファンタズムしてしまっていたのだからYO。

(いや、むしろ嗜好が大混戦と言うべきか?・・・なんつって・・・)

 自分で言って自分で笑ってりゃ世話ない。ゲンドウポーズそのまま、思わずニヤけて口の端を持ち上げてしまった。まんまゲンドウじゃん・・・

「だ、だれが小僧ですか!私はこれでもDはありm・・・~~っ!」

 自分の世界に入りすぎたようだ。呆然&自失していたためどういう状況かは定かではないが、指宿が自らのバストサイズを申告している。なんで俺に胸の大きさアピールしてるの?

「聞きました?黒江さんとこの奥さん。D、ですってよ。」

「ええ。ええ。聞きましたよ。一花さん。何グレイマンですかね?」

「いやはや、もしかしたらDの一族かもしれませんね。」

「はっはっは。その線もありましたか。しかし・・・まさかDカップ、ではないでしょうね?」

「それはまさか、ですね。もしそうなら・・・あぁ怖や怖や。」

(なんだこの奥様方in井戸端会議風三文芝居は?胸は大きいに越したことないd・・・っ!!)

 気づいてしまった。朱、一花。このふたりの共通項。

(くっ!俺にはどうすることもできないが、とりあずあいつらの幸福のために祈っておこう。南無三!あれ、これじゃ祈りじゃなくて死体蹴りか?)

「い、いまどきの女の子ならDくらい普通じゃないd・・・」

(ばっか、指宿おまえやりやがったな。貧乳にそういうこと言っちゃ・・・)

「てめぇの血は何色だー!」

「しにさらせー。むしろちちさらせー。」

 俺が止める間もなく、朱と一花は指宿に飛びかかっていた。

 ふたりの語感自体は厳しいものだったが、流石に新入生相手に本気にはならないらしい。むしろふたりがかりで腹や背中を擽る様は微笑ましささえある。

 このまま女子どもがゆるゆりしているのを眺めているのも悪くはないが、しかし、どうやらことの発端は俺のようだし、ここは責任をもって止めるべきだろう。

「ふたりともそのへんにしt・・・」

「アンダー・ザ・チェーン・ドッグは黙ってて!」

 なんで朱が俺の昔使ってた厨二ネーム知ってんだよ。こんなところで黒歴史掘り起こすなよ。死にたくなるだろ。

「ご、ゴホン!もとは俺が悪いとはいえ、暴れだしたおまえらも悪い。つまりみんな悪い。即ち死なばもろとも。さて練炭はどこだ?」

「恋たん?恋たんはここですね!イチカ可愛いです!恋たんっ恋たんっ!」

(何言ってんだこいつ?早く何とかしないと・・・)

 危ないところだった。黒歴史の暗黒面に囚われそうになって思わず練炭を探してしまった。

 俺は橘の異常性のおかげで現実に戻ってくることはできたが、対して橘はもう手遅れかもしれない。

 一見まともそうに見える橘は、こと一花がかかわると途端にポンコツになる。これは青色のたぬき型ロボットになる日も近いかもしれない。一花はたぬきが好きらしいし、相性ばっちりだ。

「そ、そこは死なばもろともじゃなく、連帯責任ではないでしょうか!」

 朱と一花、ふたりの擽りから脱した指宿がこの中で一番まともなことを言っていた。

 上気したした頬に乱れた髪。乱れた呼吸を整えつつ、衣服の乱れを整えている。この女、乱れすぎである。指宿乱舞。まさに先ほどまでの擽られている様子を表している言葉である。

 さても、脱ぐわけではないとわかっていても目のやり場に困る。身支度は見えないところでやってほしい。

「何ジロジロ見てるんですか?気持ち悪いですよキモジローさん。」

 指宿への視線は、はたして間に入った橘に遮られた。

 橘からは好戦的な視線を感じるが、疲弊している今はスルー。両手をあげて降参の意を示す。

(それどこの天気好きな怪獣ですか・・・俺は6ch派です。)

「まー冗談はこのへんにしといて、それで指宿さん入部する?」

(何でこの流れで入部してもらえると思ってるんだよ。これは探し直し決定かな・・・)

 朱の自信はどこからきてどこへ行くのかを考えていたら自分を見失ってしまう。そして自分を探しているうちに日が暮れてしまう。

「ま、まだ迷ってます。軽音部もよさそうですし・・・真紀ちゃん、どうやって選べばいいのかな?」

(嘘だろこいつ。ここにきて迷う余地なんてないだろ・・・?)

 おそらくこの言葉を本来と逆の意味で使ったのは俺が初めてではないだろうか。また人類史に新たなページを刻んでしまった。自分の才能が恐ろしい・・・

(しかし・・・こいつもしかしてエから始まってムまでの2文字で終わるタイプの人種か?それだったら頷けるけど・・・)

 まさかこの周囲を窺うような態度も誰かに助けを求めているのではなくて、いじられ待ちだったりするのだろうか。

 指宿が困惑を向ける先、そこには思案顔で顎に手を当てている二条がいた。

「どうやってか。んー・・・フィーリング?」

「真紀ちゃん!?」

 さっきの正論といい、食い気味に反応するこの感じはまさかこいつこっち側か?もしかして指宿がコッキーに入ればまともの属性持ちが増えるのではないだろうか。

 ちなみに、俺がまとも代表。次点で辛うじて橘だ。他は奇人変人。場合によっては橘も酔狂人だ。つまりまともなのは俺だけ。決まってるんだね。

(二条もこっち側だと思うが、こいつは・・・)

 徒然に視線を向けた先、二条の苦い顔。それは指宿の反応が大袈裟だったために出た笑いなのだろうか。

「冗談ではないよ。音楽には大事なことだよフィーリング。」

「そうは言っても・・・」

 二条が言うように、確かにフィーリングは大切だ。

 馬が合う、ノリが一緒。言い方は様々あるが、その根本は心だ。気持ちが乗らないのにうまくわけがない。そしてそれはプレイに如実に表れる。

 もしかしたらプロであればそういったところもうまく誤魔化しつつプレイできるのかもしれないが、俺たちはプロじゃない。無理に気乗りしないメンツで連む必要はない。

 つまり何が言いたいかというと、音楽なんて好きなやつと楽しくやればいいということ。

 だから、二条の言葉は適当に見えて適当。至極当然の答えだ。

「決めるのはイブっちだよ。」

 だから、一見突き放しているように見えるこの言葉も、おそらくは指宿を思っての言葉なのだろう。もしかしたら二条自身、過去に似たような選択を迫られたのかもしれない。

「まあ、でも判断材料くらいは一緒に集めてあげるよ。クロエ先輩、コッキーポップ同好会はどんな音楽をするんですか?」

 気を取り直してというように二条は笑顔を浮かべた。朱に向き直るその顔には一縷の憂いも感じられなかった。

「自由!またの名を未定!」

 溌剌に答えた朱に吸収されたかのように部室から活力が消えた。つまるところ、朱のひとことに再び部室は静寂に包まれた。

(はあ・・・こいつ沈黙の魔術師―サイレント・マジシャンなんじゃないの?というか、いつも思うけどこれ同じ意味だよね?)

 諦観のため息とともに思わず頭を抱える。ああ、なんだか、頭痛が痛くなってきた。

20230525サブタイトルの附番を変更しました。

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