22 ある時はゴスロリ、またある時は厨二病、しかしてその実体は・・・ (挿絵)
【忍】
(だ、騙されたよ!どうしよう!私よその部活を偵察とかしちゃう人たちのところに来ちゃったよ!きっとこれから密偵の訓練とかさせられちゃうんだ・・・)
私がこれから訪れるだろう自分の未来を悲観しているさなか、目の前では修羅場が繰り広げられていました。
「お、重い・・・腕が千切れる!」
「む、女の子に向かって重いとはデリカシーのないやつだな。なあ一花さん。」
「いや、女の子は少し重いくらいで丁度いい。尻軽よりも重いヤンデレって宗次郎も言ってた。」
「なるほど。そういう考えもあるか。」
「おまえの彼氏の持論なんて知らん!いいから早く手を離せ!」
未だ混乱している私を尻目にクロエ先輩とイチハナさんは組体操を解きました。
そうして地面についてしまったスカートの裾を手で払いながら、クロエ先輩はこの部屋まで案内してくれた女の子に向き直りました。
「しかし、騙されたとはのっぴきならないことを言うね。ミス汐、なんて言ってこの子たちを連れて来たのかな?」
「軽音部ではない音楽系のサークルを見に行くので一緒にどうですかと誘いました。」
「うむ。なんの問題もないな。」
(ええ!そ、それは言葉のあやなのでは!?というか今になって聞くと意図的に趣旨を隠した言い方にしか聞こえない!)
私の困惑などどこ吹く風。クロエ先輩は喜色満面、納得顔でした。
席を勧められて腰かけながらも、反論のため会話の鋒を探しているところに「いや・・・」と異を唱える声が上がりました。
その声の主は、おそらくこのクラブにおける良識・良心、その片割れ。クロエ先輩を窘め、音楽室から攫って行った良識先輩でした。他方、良心はここまで案内してくれた女の子です。
ちなみにあえて言い換えるとすれば、まともなふたり、です。
「橘、おまえ、こいつの身体に触れて勧誘したか?」
「急に何ですか。気持ち悪いですよ?」
「いいから答えるんだ!」
「無駄に迫力がありますね・・・袖くらいは掴んだかもしれません。」
「橘アウト!身体又は衣服をとらえる勧誘は東京都の迷惑防止条例違反だ!」
嘘を言いました。いきなり条例を持ち出す人に良識はないように思います。私の中の良識先輩の像が音を立てて崩れていきました。
「なんd・・・」
「他には?」
「え?」
「情欲を煽るような勧誘はしてないだろうな?」
「なっ!私がそんなはしたないことするわけがありません!そうですよね?」
振り向いた良心さんにいきなり話を振られてしまった私は「えっと」とか「その」といった意味のない言葉しか返すことができませんでした。
(きょとんとしている姿が可愛かったとか言えない・・・)
気のせいか、頬が熱を持ったように感じました。良心さんから思わず視線を逸らしてしまったのは、女の子相手にドギマギした羞恥を思い出したからでしょうか。
「橘アウト!五十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料だ!」
「変質的な細かさですね!」
「裁定は追って通達する!・・・自分の身は自分で守らなきゃいけない。それがバイトから得られる最大の教訓だ!」
「まったく意味がわかりません!あなたは何と戦っているのですか!?」
「しぃ落ち着いて。大丈夫。私はたとえ20年のお勤めでも待ってる。ずっと友達だから。」
「い、イチカ・・・!それでは拘留ではなく禁固刑の罰則になってしまいます!・・・・・・ずっと友達のままは嫌です・・・っ!」
最後に付け加えるように呟かれたその声音は尻すぼみで消え入りそうでした。はたしてその言葉は私以外に聞こえたのでしょうか。
(普通の女子高生だと思ってた良心さんも只者じゃないよ・・・何でこの人たちこんなに法律に詳しいの?これ普通の女子高生の会話じゃないよね?私がおかしいの?それともこの人たちがおかしいの?たぶん後者なんだよなぁ・・・)
常識における最後の砦である良心さんに別れを告げ、私は自分だけでも良識・良心を保とうと心に決めました。
「そうなの?法律って難しいね。それでどうなの真紀。無理矢理連れてこられたわけじゃないでしょ?」
凡そ一般的な女子高生のものとは程遠い会話に終止符を打ったのは、イチハナさんの平坦な声音でした。真紀ちゃんに話しかけるその声はどこか親しげに感じました。
「え、うん。タチバナさん?は少なくとも強引ではなかったよ。自分たちで見学に行こうって決めたし・・・新歓ステージのニワトリってまさか恋ちゃん?」
「うん。面白かった?」
「いや別に?」
「え、面白くない・・・?」
表情の変化に乏しいイチハナさんでしたが、その顔がショックを受けていることは私でもわかりました。しかし良心さん(元)に「イチカは何をしても可愛いです!」と励まされている様子を見る限り、ショックは大きなものではないようです。
それよりも真紀ちゃんです。「恋ちゃんだったか・・・」と呟いた表情に影があるように見えるのは気のせいでしょうか。
「イチカ、こちらの方はお知り合いですか?」
「うん。親戚。二条さんとこの真紀ちゃん。」
「ワオ!一花さんの血縁か。じゃあユーはどこが変なんだい?」
「失礼なやつだな!」
「失礼な人ですね!」
良識・良心さん(元)のダブルストライクをくらったクロエ先輩は「お、おう・・・」と呟きながら大人しく引き下がります。おそらく真紀ちゃんを気遣ったわけではないのでしょうが、先輩方は一様に明るく振る舞っていました。
(真紀ちゃん、負けたくないって言ってたもんね・・・でも親戚だったのか。複雑な気持ちだよね・・・)
真紀ちゃんの質問に触発されたわけではないですが、私も聞いておきたいことがあります。
それは一番気になっていたことです。もはや、直接答えてもらわなくてもわかるのですが、それでも確実な答えを私は欲していました。
「お嬢さん、お名前は?」
いつ切り出そうかと様子を窺っているところに突然かけられた声。イチハナさんの口から飛び出したその単語にデジャヴを感じました。
(お、お嬢さん呼びって流行っているの?それともクロエ先輩然り、変な人の共通項なの?)
「い、指宿です。あの、先輩方にお聞きしてもいいですか?」
「コッキーのこと?いいよ。黒江さんが答えるよ。」
「ばっちこい!スリーサイズと体重以外なら結構なんでも答えちゃうよ!」
(自分のクラブのことなのに自分では答えないんだ・・・不思議・・・)
「では・・・新歓ステージの最後に演奏していたのは先輩たちですか?」
「そうです私たちです!カッコよかった?ありがとう!私もそう思ってたんだー!」
「わ、私何も言ってません!いえ、格好良かったのは事実なんですが・・・」
「イブっち、感動したって言ってたよ恋ちゃん。」
「ふふん。何のこれしき。」
「気に入ってくれたってことは、指宿さんはコッキーに入ってくれるってこと?」
私はクロエ先輩の言葉に対して明確に答えることができませんでした。
私があの新歓ステージに感動したのは事実です。この変わった人たちがあの素敵な演奏をしていたのだとしてもそれは揺るがないことです。
だから本来であれば、即決してもいいところなんだと思います。しかし、未だ私は自分では決めることができません。どうしても真紀ちゃんの顔を窺ってしまいます。
ふと、盗み見た真紀ちゃんの顔が不思議そうな表情に変わっていました。
「あれ、クロエ先輩。ゴスロリのベースの人はどこですか?帰っちゃったとか?」
「あー。ベーシストね。いるよ。」
クロエ先輩の言葉に真紀ちゃんは疑問の色を濃くしていました。ひとりひとりと視線を合わせて、指折り人数を確認しています。
「クロエ先輩がドラム、恋ちゃんがギターで、くまのピアノはタチバナさんで・・・ってことは・・・」
真紀ちゃんは驚きで目を見開いていました。真紀ちゃんのこんな表情は初めて見ました。いえ、出会って間もないので当然なのですが。かくいう私も同じ表情だったに違いありません。
残るは机に両肘をつき、顔の前で指を組むようにしている良識先輩。俯き加減なその表情を窺い知ることはできません。
「そう!ゴスロリ厨二女装ベーシストの秋津怜くんです!」
クロエ先輩の言葉に反応を返す人はなく、部屋の中には静寂が広がりました。
思うことは。
コッキーポップ同好会には変わった人しかいないようです。
怜のイメージ画を作成しました。
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20230525サブタイトルの附番を変更しました。




