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11 アイデンティティクライシス

【忍】

 グウっと鳴り響いた音に私は周りを見渡しました。思わず押さえてしまったお腹は空腹を訴えて大きな音を立てています。

 水曜日から金曜日、ここ最近の私の定位置であるグラウンド脇の階段に人気はありません。誰もいないことに安堵しつつ、私はギターを置きました。

(新歓ステージまでにちょっとだけ練習しようと思っただけなのにもうこんなに時間が経ってる・・・)

 時刻は放課後、ちょっとだけと思いつつも時間を忘れて練習をしていた自分の計画性のなさに失望しそうになります。

 しかしそこは練習に集中していた証拠だと思い込むことでせめてもの慰めとしました。

 ただ、精神的に慰めることはできても、それはお腹の足しにはなりません。私は腹の虫の訴えを採用し購買部へ向かうべく立ち上がりました。

(それに途中から講堂に入るのも目立つし嫌だよね・・・)

 新歓ステージ自体は任意参加なので、参加しなくてもなんら問題はありません。

 しかし今日は軽音楽部のステージがあります。今後のためにも先輩たちの演奏を見ておいて損はないでしょう。

 購買部への道すがら、講堂から漏れ聞こえてくる音に耳をすませば、どうやら今はリコーダー倶楽部がステージに立っているようです。

 プログラムを出して確認すると、残すは吹奏楽部、そして軽音楽部です。

(リコーダー倶楽部の出番が終わると小休憩が入るから、そこのタイミングで講堂に行こう。でも、リコーダーだけをやるってニッチだよね。)

 私はリコーダーの軽やかな音色に乗って購買部へ歩を進めました。

 ほどなくして着いた私はラインナップからホットドッグをチョイスしました。

 備え付けの電子レンジで30秒、外で冷えた身体にパンの温かさが沁みます。

(流石に講堂で食べるわけにはいかないから外で食べよう。)

 至極、常識的な判断のはずです。しかしそれがいけなかったのでしょう。

 手近なベンチに腰掛け、一口目を食べようとしたその時でした。

「きゃあ!な、何!?」

 視界の端に黒い影を捉えたと思ったら、次の瞬間には手元のホットドッグが地面に転がっていました。

(いや違う!ソーセージがない!私のホットドッグがただのホットになってしまった!?)

「あーあれはトンビだね。これはもう食べれないかな。」

 突然のことに混乱する頭で錯乱したようなことを考えていると、目の前から来た生徒に話しかけられました。生徒は美少女先輩でした。

「あ、すみません拾わせてしまって・・・」

 美少女先輩から砂のついたパンを受け取りつつ頭を下げます。ドッグを失ったホットはそこからさらにアイデンティティを失い、既にただのパンに成り果てていました。

(ところでソーセージがドッグってことであってるよね?でもそうだとしたらこれから食べづらくなっちゃう・・・私犬派なんだけど・・・)

 ふと、顔を上げるとそこにはあんパンがありました。「食べる?」と差し出されたパンを思考が追いつかないまま受け取ってしまいました。

(そういえば某国民的アニメに同じようなシーンがあるよね。まあ、最近はほとんど顔も濡れなければ、顔をちぎって分け与えることもないけど・・・)

 未だ益体もないことを吐き出し続ける私の頭はやはり混乱しているのでしょう。

 だからきっと、美少女先輩の格好に意識がいくまでにタイムラグがあったのはそのせいなのでしょう。私は一拍遅れて美少女先輩の異常な格好に気がつきました。

「な、何ですかそれ!?」

「これ?いいでしょ!ミニスカポリス!」

(あんパン配りながらパトロール行ってきまーすってこと!?どこまで忠実に再現するの!)

「あ、やっべ吹奏楽部終わったかな。そろそろ出番だから、私もう行くね。ばいばーい!」

「え?あ、ちょっと・・・」

 錯乱の上に混乱をのせて困惑している私をおいて、美少女先輩は足早に去っていきました。あんパンを持つ手を振りつつ駆けていくその後ろ姿は活き活きとして見えました。

 辺りに響くのは拍手。それと微かな人の気配。

 やがて講堂から出てきた数名の生徒たちが視界に入りました。

 私はおもむろにあんぱんを口に運びます。もう食べ飽きたと思っていた餡子が空腹に沁みました。

 なぜあんパン配っているのか、なぜ出番の直前にこんなところにいるのか、様々気になることはありますが、それよりも気になったことがあります。

「流石にバイバイキンとは言わないんですね・・・」

20230307注釈コーナーと統合しました。


【注釈コーナー】犬犬犬~One Dog Is not here~

以下、原材料の件で犬について語られます。予めご了承ください。忌避感がある方はお控えください。


「今回は仲良し二人組、朱ちゃんと忍ちゃんがお送りするよ!」

「私たちまだ出会って間もないんですが・・・」

「そんなこと気にしなーい!仲の良さっていうのは時間じゃないでしょ?」

「育まれた時間が絆を強くするとも言いますが・・・」

「もー!誰かさんみたいなこと言わないで!そんなに斜に構えてると、だんだん歪んできて、いつかプルンプルン天国の後を追うことになっちゃうよ!」

「プルンプルン天国とは何のことだかよくわかりませんが、歪むのは嫌なので改めます。」

「挿絵の悪口はそこまでだ!」

「な、何も言ってませんよ!?」

「いいか、人の能力には限界があるんだ・・・」

「だから何も言ってませんよ!・・・というか、自分の限界を定められる脳もあったんですね。」

「私にはないよ!限界なのは作者さ!今、朱ちゃんに脳がないと読んだヤツ、ちょっとツラかせ!」

「メタい・・・」

「まーいいや。そんなことよりホットドッグは残念だったね。」

「そんなこと・・・?」

「食べ物を掻っ攫っていくトンビへの対策は、壁を背負って座ることが有効だよ。奴らは滑空してくるからね。」

「そうなんですね。勉強になります。」

「ちなみに!一説によれば、ホットドッグの語源は犬だよ。」

「犬派に対する宣戦布告ですか!」

「ドイツからアメリカに伝えられたソーセージだけど、当時形が似ていることからダックスフンドソーセージと呼ばれていたんだ。ある時、とある漫画家がこれをネタにして新聞に寄稿したんだけど、Hot Dachshundと書くところをスペルが分からずHot Dogで仮提出したものがそのまま掲載されてしまい、ホットドッグが定着してしまったんだ。」

「なるほど・・・わんちゃんのお肉じゃないんですね。よかっt・・・」

「ちなみに!一説によれば、ドイツでは本当に犬の肉が使われt・・・」

「もういいです!」

「冗談じょうだん。推測だけど、当時のアメリカではドイツ人が売る肉は怪しげな肉という認識があって、そこから派生して原材料は犬ってなったんじゃないかな。だからみんな安心して食べてくれ!」

「とても食べづらくなりました・・・!」

「ちなみに!私は猫派なので心は痛みません!」

「確かに猫っぽいですもんね!・・・ところで、今回は楽器が登場しませんでしたがよかったのでしょうか?」

「・・・いいんだ。」

「??」

「今回は救済回だから。」

「??」

「不人気回を修正して本編統合を図ったんだ。」

「・・・っ!」

「みなまで言わせないでくれ・・・」

「私の回が不人気だったんですか!?」

「これで忍ちゃんの魅力が伝わったかな?」

「私ほとんど喋ってません!」

「次回は朱ちゃんと恋ちゃんでお送りするよ!お楽しみに!」

「わ、私左遷じゃないですよね!?」


※予告は確定ではありません。

※本編は様々ある解釈の一説です。


P.S. ワン(鳴く)=犬=居ぬ サブタイトルに意味はありません。


20230525サブタイトルの附番を変更しました。

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