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プロローグ

 聞くところによると、人は死んだら生まれ変わるらしい。

 でもそこに前世の記憶は付随しない。記憶を失い、新しい個として生きていくという。


 私はもう一度命をもらった。


 なぜもう一度という繰り返しの存在を知っているのか。それは私が前世の記憶を持って転生するからだ。

 前世で人並みに漫画やアニメを見ていた知識によれば、転生するとチート能力がもらえるらしい。たまにもらえないこともあるが、その時は美人な神様がついてきたりする。でも、私に転生特典はないらしい。

 確かに私は碌な生き方をしていない。それは胸を張って言える。だから特典が無くても不思議じゃない。胸なんて服が張るほどもなかったのだけれど。

 はたして、恥の多い人生を送ってきたとは誰が言った言葉だっただろうか。

 誰が言ったかなんてもはや関係ないけど、今このときに思い出したのはなぜだろうか。間違っても恥ずかしい身体だったからではないはずだ。違うと言ってほしい。 

 身体はともかく、私の前世での生き様は失敗や挫折、後悔の連続だった。

 人に誇れる生き方ができた気がしない。人の役に立った気もしない。後悔ばかりだ。

 

「本当にそうだろうか。」


 私は求められていた。自分にできることがあって、思いのまま生きた。頼られていた。

 私は評価されていた。いちいち後悔してしまう小さい人間をすごいと言ってくれる人が大勢いた。尊敬されていた。

 私は好きに生きた。好きなものをたくさん食べて、好きな時間に寝て起きて、好きなものを見て、聴いた。好きな楽器を弾いて、思いの丈を歌って、それが認められて。幸せな誇れる人生だった。


「本当にそうだろうか。」


 私の人生は誰かに与えられたものではなかっただろうか。私の好きは誰かの好きじゃなかっただろうか。

 甘い物は好きじゃなかった。てっぺんを回ってから家に帰りたくなかった。漫画やアニメなんて興味がなかった。楽器だって。

 でも、全部嫌じゃなかった。誰かに染まっていくことは気持ちよかった。近づけていると実感できて嬉しかった。

 求められていることが幸せだった。


「本当にそうだろうか。」


「そんなもの全部嘘だ。まやかしで誤魔化しで、正直にならないための防波堤に過ぎない。」

「そんなことはない!全部楽しかった。好きだったんだ私は!」

「本当にそうなら、私はもう一度生きたとしても何も変わることはできないよ。」

「変わらなくていい!これが私!」

「私にはわかる。そうやって自分に嘘をついていると知りながら見ないふりをしている自分が嫌いだった。」

「違う違う!そんなことはない!」

「そう・・・けど、それなら。」


「好きな人は?」


 今となってはもう遅い。今気づいても取り返しがつかない。好きに生きたと思い込むことで、ただ一つの好きから目をそらしていた。与えられた好きに満足していた私は、唯一本当の気持ちに手を伸ばさなかった。


「恥の多い人生を送ってきた。」


 なぜ今このときに思い出したのか、わかった気がした。私は生まれ変わったら恥じない人生を送れるのだろうか。

 今はわからない。でもせっかくもう一度生きれるのなら、誰かではなく自分の好きなことをやろう。自分を好きになれるように。今度こそ自分に正直になるために。


 私らしくない。少しナーバスになってしまったようだ。これが世に言うリ・バースブルーってやつか。違うか。

 私に転生特典はないらしいが、もし叶うなら。

 

 来世はどうか巨乳でありますように。

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