寝取られ離婚した俺が女性二人から好意を寄せられ修羅場になる。
俺の名前は大山田大和30歳。
どこにでもいる普通のサラリーマン……とは少し違うかもしれない。
情けないことに俺は嫁に不倫され精神を病んでしまったのだ。その嫁とはもちろん離婚した。慰謝料も貰った。
だけど、金じゃないってつくづく実感する。
本当に心の底から嫁の事を愛していたし大切にしていた。
外出などは自由にしてもらってたし、飯も作れないときは作らなくてもいいと専業主婦でありながら家事はほとんど俺がやっていた。
俺が甘すぎるから、不倫なんてされるのだろうか?
だけど、嫁を愛しているからこそ、いつも笑顔でいてもらいたい。いつも笑顔が見たい……そう、考えていた。
俺は真剣だった。真剣に嫁の事を愛していた。だからだろう……裏切られた喪失感で食事が全く受け付けなくなり日常生活が困難になる。それでも、俺はバカだから……浮気をしていると聞かされてもしばらくの間、元嫁のことを愛していた。
俺が我慢すれば……と、身を削る思いをしていたが、結局職場で倒れてそのまま入院することに。入院中に知り合いが訪ねてきて相談に乗ってもらい、ようやく離婚する事を決意して今に至る。
「我ながらバカだよな」
本当にそう思う、今でも思う。
離婚協議中は入院していたために話し合いは弁護士にお願いし全ての手続きは入院した病院のベッドの上で行った。
あれから1年経った。
退院後も精神科へ通院していたのだが、最近ようやく点滴や薬漬けから解放されたのだ。食事もとれるようになると気分が良い。
通院最終日、生まれ変わったようなさわやかな気分のせいで中年のおっさんがスキップなんてしてしまう。
周りからの痛い視線を受けてしまったのでかなり恥ずかしかった。
浮かれているのは自分でも理解している。だけど、今まで靄の中をもがき足掻いていたような状態から爽やかに晴れた青空の下で胸を張って歩いている。実に清々しい。
「やっと俺は前を向いて歩ける」
そう思っていた矢先に……事件が起こった。
前向きな自分を手に入れ、しばらくしたある日のこと。
今日は日曜日。
カーテンの隙間から差し込む光で目を覚ます。寝ぼけた頭で俺は時計を確認しようと台所に掛けてある壁時計に視線を送った。
だが、時計を確認しようとした俺の視線は思わぬものを見てしまい、そこから目を離すことが出来ない。
「……はっ?」
思わず変な声が出てしまう。なぜなら、ここにいるはずのない女性が台所に立っているからだ。
女性は少し小柄で黒髪ショートボブ。
ぱっと見はあどけない顔つきの為に俺と同じ歳だと誰も思わないだろう。
まな板の上で何かを切るリズミカルな音と湯気が立ち昇る鍋から美味しそうな匂いがする。
とても家庭的な女性が台所で料理をしているように見える。
どういうことだ?
現状を把握できない……俺の思考は完全に停止。
開いた口が塞がらないまま上半身だけ体を起こし固まっていると、俺が目を覚ましたことに気が付いたのかエプロン姿の女性が振り返り俺に声を掛ける。
「あ、おはよう。朝食出来てるよ」
猫なで声で俺に話しかけてくる。あたかも親しい間柄のような雰囲気で。
これは一体、どういうことだ?
女性の顔は知っている。
似ているだけで別人……ではない。
でも、なぜここにいる?
だが、俺は凡人のひらめきにより全て理解した!
「もう、どうしたの?ボーっとして早くこっち来て食べなよ」
「あ……ああ」
なるほど……これは夢だ。
だって、目の前にいるのはどこからどう見ても……離婚したはずの……元嫁の……ひまりなのだから。
「大和、はい、お味噌汁」
「……」
「ん?どうしたの?」
俺はお味噌汁の入った器を受け取る。それがとても温かいことに妙にリアリティのある夢だと感心する。
それにしても……もう忘れて治ったと思っていたのにこんな夢を見るなんてまだ精神が壊れていたんだな。
「いや、何でもない。箸、取ってくれる」
「はい、どうぞ」
味噌汁の具を確認するとひまりが作ったとわかる。ひまりの味噌汁には必ずジャガイモが入っているからだ。
「おいしい」
それは俺が覚えているひまりの味噌汁だった。
「本当?うれしい!えっと、食欲でたかな?心配したんだよ」
「どうして?」
「だって、大和……辛そうだって聞いていたから」
誰のせいだ!と大声で怒鳴りたくなったが静かに肯定する。
「まあ……そうだな」
「でもね、もう大丈夫!私ね、やっと気が付いたの……やっぱり私……」
頬を染めてエプロンの端をいじるひまり。なんとなく言いたいことは分かる。そうか、夢の中で俺にやっと謝罪をしてくれるのか。
思えば不倫がバレた際に一方的に泣かれて話にならず……最後は弁護士と義両親との話で決着がついた。
だから不貞行為が俺にバレた後はひまりの泣き顔しか見ていない。
そして、その不倫した本人が俺に対して謝罪の言葉もなく、電話、メール、ライン等も一切なかった。俺はもう離婚出来てきっぱりと縁が切れたものだと思っていた。
まあ、俺もまともに話が出来る状態ではなかったから人の事を言えないけど。もっとしっかりしろよなって思う。
しかし夢の中とはいえ謝罪をしてくれるなら……聞こうじゃないか!
「私ね、伝えたいことがあるの。その……大和が忘れられないの……だから……!」
ピンポーン
離婚当時の忌々しい記憶を思い出しながら会話していると我が家のインターホンがひまりの会話を遮る。
「もう……」
それを少しムスッとした態度で対応するひまり。
「はーい、しばらくお待ちください。大和、後で大切な話が……」
「ああ、わかった」
我が家には大きな音が鳴がなるベルチャイムはあれど室内で玄関外を見れるモニターなんてない。だから玄関まで行き対応する必要がある。
ひまりはスリッパをパタパタと鳴らしながら玄関へ向かう。
俺は客人をひまりに任せて、朝食の残りを食べていた。夢だというのに美味しい……夢だから美味しいのか?
そうして、白い湯気の立つごはんに味付け海苔を乗せ口に運んでいると……ひまりの声が聞こえてくる。
「ちょっと、なんなんですか、帰ってください!」
大声で怒鳴り散らすひまりの声に俺は驚いた。何があったのかここからでは分からないが緊急事態だろうと、箸をおき玄関へと向かう。
俺は玄関でひまりと言い争っている女性を見てめまいがする。それと同時に胃に穴が開きそうだった。
なぜなら、ひまりと言い争っている女性も俺はよく知っているからだ。
「あ、大和!お久しぶりです。お元気でした?」
「……涼香」
この涼香というOLスーツ女性は俺と歳は一緒。ちなみに小学校からの幼馴染である。どこぞの育ちの良いお嬢様という見た目で煌びやかなオーラを纏っておりスタイルもよく出るところは出て引っ込むところは引っ込んでいるので非常に男受けは良い。
「今日、大和と話がしたくて来させていただきました……ただ、こちらの女性は?」
「え?ああ、ひまり?」
俺はひまりの顔を見る。するとひまりは俺の腕にしがみつき。
「私は大和の嫁です」
「えっ!嫁……」
嫁という単語に涼香の表情は一瞬にして鬼も恐れる般若のような形相へと変わっていく。
「ひまり、ウソは良くない。元嫁だろ」
俺は間髪入れずに元嫁で既に他人であることを涼香に教える。
「元嫁?それでしたら大和は独身ですか?丁度よかったです」
何が丁度良いのか分からないが、俺の弁明により般若の涼香は、すぐさま淑女な涼香へと戻っていく。
「では、おじゃましますね」
気分の良くなった涼香は胸の前で柏手を打ち嬉しそうに玄関で靴を脱ぐ。
「ちょっと何を勝手に家に上がっているんですか」
「え、だって大和は許可してくれたし」
俺、許可したのか?と疑問に思っていると
「私は許可しません」
と、ひまりは身を乗り出して強く否定する。
「元嫁さんの許可なんていりませんよ?それに、私は大和とは他人じゃないです」
いや、涼香、お前とは知らない赤の他人ということはないが、俺とは他人だよっと突っ込みたい……まあ、いいか。
……どうせ夢だし。
俺はなんか途轍もない夢を見ているなと思いながら部屋に戻っていく。先に部屋に入っていた涼香はテーブルの上の朝食を見てとても驚いた様子。
「大和、朝食を取るの?」
「まあ、そうだけど……驚くようなことか?」
「ええ、だって大和は絶対朝食を抜く人でしたよ」
「まあ、昔はそうだな」
「しかも、自炊までしてるなんてやっぱり大和は素敵……ですね」
「いや、これはひまりが作ったやつ」
「あ゛?」
またしても般若涼香が顔を出す。それを先ほどから面白くなさそうに俺と涼香の会話を聞いていたひまりがここぞとばかりに反撃を開始する。
「うふふ、そうだったんだ。大和ったら私の作った朝食は食べるんだ……やっぱり大和は私の事……」
ひまりの言葉を遮るかのように涼香はひまりの発言を否定する。
「いいえ、それはないはずです。あなた、無理やり食べさせてるでしょ?大和が可哀そうです」
「そんなことない。大和は美味しいって言ってくれたもの」
二人はお互いを見つめて激しく火花を散らす。しばらくすると、ひまりは何かに気が付いたのか俺に訪ねてくる。
「ねえ、大和、もしかしてこの人があの話の人?」
「ん?ああ、そうだよ」
あの話の人……ひまりと結婚する際に話をしている人がいた。それは幼馴染でもある涼香との話だ。
実のところ……涼香も俺の元嫁となる。
涼香が一番目の嫁でひまりが二番目だ。
にしても本当に俺は情けない男だ……二人とも俺の知らないところで男を作ってよろしくやっているんだから何とも言えない劣等感を味わい続けているよ。
「涼香って聞いた時から違和感があったけどやっぱり、アンタがそうなのね!」
「な、何ですか……」
「絶対にアンタなんかに大和は渡さないんだから!」
「な゛!何ですかいきなり?」
「だって、大和を傷つけたんだよね」
「……否定はできません。ですが、それはあなたも同じですよね」
「違う……私は……」
なんでこの二人は俺の夢の中でわざわざ不毛な議論をしているんだ?それとも俺がこんなことを望んでいるのだろうか?
正直、どっちもどっちと思って居心地が悪いので俺は立ち上がりこの場から離れようとしたのだが
「イテェ!」
足の小指をドアのストッパーにぶつけてしまう。あまりの痛みに俺はその場でもがき苦しむ。
痛い……あれ?
もしかして、これは夢じゃない?
どういうこと?
まさか……今……ここにいる二人は本物?
俺は痛みを感じたことで現実だということを認識する。
「夢じゃない……」
一瞬にして俺は自分が置かれている現状に恐怖した。
「ちょっと大和大丈夫?」
「大和、見せてください。手当しますので」
「いいえ、ここは私が見ます」
「必要ありません。これからは私が大和の面倒を見ます」
「涼香さんは浮気相手と体の相性がいいからって不倫に走ったんでしょ?だから大和なんて忘れてその人と幸せになってください。私が大和と幸せになります」
「何を言っているのですか?離婚した元嫁ってことは、あなたも何かしら裏切り行為があって今の状態なのよね。そんな大和を不幸にする女なんて地獄に落ちればいいのよ」
「ふん、私は分かったのよ。世界で一番愛しているのは大和だってことを……だから誰にも渡さない」
「大和に相応しいのは私です。これだけは譲れません!」
二人とも自分の事を棚に上げすぎだ……ほとんどブーメランのごとく自分に刺さっていることすら気づいていない。
不倫して離婚した元嫁達が目の前で……俺を奪い合っている。認めたくないが二人の言い争いの内容からしてどうみても復縁を迫られているんだよな。
正直、俺は恐怖で思考停止状態に陥る。
「それじゃあ、大和に聞きましょう」
「ええ、その通りです。ここは大和に聞きましょう」
鬼気迫る表情で俺に迫りくる元嫁達。二人の顔が息のかかる距離まで詰められると俺もたじろいでしまう。
「えっと、その……」
ガチャ……バタン。
俺が二人に迫られて困っていると誰かが家の中に入ってくる。
スタイルがよく小顔で可愛い女性だがどぎつい金髪のロングヘアであるために軽率な感じで一見常識がなさそうにも見える。そんな女性が俺の家の鍵を開け部屋に入ってくる。
布が体にフィットして胸元が大きく開けた格好で両手いっぱいに買い物袋を持っていた。
「ただいまーって人が多い」
「「え?だれ?」」
「いや、誰って言われても……あんたらこそ誰?」
金髪の女性が入ってきたことで涼香とひまりの関心は俺からその女性へと向けられる。
「え?いま、鍵開けて入ってきた?」
「そうだけど」
「どういうこと?」
「ああ、あたし大和と婚約中だから」
そう、今しがた家の中へ入ってきた女性は鏡花と言って今の俺の婚約者だ。俺がひまりと離婚して精神的に病んでいるときに支えてくれた女性。
俺が回復し始めたときにプロポーズをして了承してもらった。
「「ええええええええええええ」」
絶叫する涼香とひまり。
「大和……マジでこんなのと結婚するの?」
鏡花に指を指してこいつ呼ばわりするひまり。信じられないという驚愕の表情で俺と鏡花へ視線を行き来させている。
「こんなのって失礼な奴だね」
「だってあんた、如何にも遊んでますって格好して」
「はぁ?別にそんなの私の勝手だろ?」
何とも雑な返答に涼香も口を出す。
「ちょっと大和、やけになってないよね」
「あんたもあんたで失礼だね」
「だって、大和は……浮気された経験を二度しているんです。確かに私も悪いけどよりにも一番浮気しそうな人を選ぶなんて……」
まあ、確かに鏡花の初見はまさにTHEギャルって感じで誰とでも一夜を共にしそうなのである。しかも、胸が大きいのを主張するような服を着て出歩くような女である。
だが、誰が何と言おうと俺は鏡花を伴侶にすると心に決めているのだ。だから、鏡花が悪く言われるのは黙っているわけにはいかない。
すぐさま、涼香とひまりの二人と鏡花の間に俺は割って入る。
「俺は……二度不倫された。情けないが根っからのサレ男だと理解している。だけど、鏡花は浮気なんて絶対にしない」
「ちょっと、大和、よく見てよ……どうみても遊んでますって格好だよ」
「そうです。髪なんて金髪に染めている人がどうしてまともだと思うのですか」
今度は俺と二人の間に鏡花が割って入る。
「何言ってるんですか。だいだい、あなたたち大和の元嫁ですよね?」
「そうよ」
「そうです」
なぜか涼香とひまりは俺の元嫁であることに胸を張る。
「だったらもう大和の事を手放しているんですから近づかないでください」
「手放してなんてない。私は離婚なんてしたくなかった。でも、弁護士とお父さん達が勝手に」
「ひまりさんでしたっけ?あなたのことは大和に聞いています。浮気相手の方が魅力的だからって理由だって聞いたよ」
「違う、今では大和の方が」
「勝手だな。だいたい、浮気相手はあなたを喜ばせようとあの手この手を使っているだけ。それとは対照的に大和は家庭に入っているから地味に生活している。どっちがドキドキワクワクして魅力的かなんて考えなくても分かる。でもそんな魂胆が見え見えの男のどこがいいんだ?私は理解できないね」
「だから、反省しているの。一時の気の迷いなの」
「一時の気の迷いね……そんなことも分からないんだから、一生迷ってな」
「そんな……うぅ……」
あっさりと鏡花はひまりを論破する。
「なるほど、ひまりさんって人は心の浮気なのね。その点、私は体だけで心は大和にずっとあるの。だから、大丈夫、今後は大和と上手くやっていけるわ」
「何をほざいたことを言っているんだ?肉体関係がある時点で同罪だろ」
「違うのよ、その人とのエッチがとても気持ちよかっただけで……私は大和しか知らなかったから」
「だからって簡単に他の男に股を開かないってユル股ビッチ」
「私はあの人と大和としか経験はないの。あなたみたいな色んな男と遊んでいる人とは違うんです」
「私は大和だけだけど?」
「たまたま、その時、体の相性が……良くて……」
「はいはい、自分だけ気持ちよければいいってやつね」
「そんなことはない」
「そういうことだよ。あんた普通に考えてみな。マグロ女とやって楽しい男がいると思うか?大和から聞いているけど途中で寝るような女なんだろ。最低だよ」
「だって、それは気持ちよくなかったから」
「だから、それが自分勝手なんだよ。二人で歩み寄るのが夫婦生活だろ?どうすれば気持ちがよくなるか一緒になって考えるんだよ。そんなことも分からないのかい?そんなクソみたいな女が大和と一緒になりたいの?笑わせないでよ」
「ぐぬぬ」
涼香も鏡花に言い負かされてグゥの寝も出ないようだ。鏡花は鏡花で二人の元嫁に呆れ果てていた。
「まったく……大和は優しすぎるんだろうね。こんな女でも許すんだから」
俺が鏡花のことを好きになりもう一度結婚しようと思ったのはこういうところなんだよな。見た目によらず、かなりしっかりした考えを持っている。
だからこそ俺は三度目の正直だと思い鏡花にプロポーズをしたのだ。
「二人ともすまないが帰ってくれないか?俺はこれから鏡花と生きていく。今の俺が生涯を誓って愛する人は鏡花だけだ。お前たちとはよりを戻す気はない」
「ほら聞いただろ。大和本人もあんたらと復縁は考えていないって。それに大和の事を思うならもう大和の前に姿を現さないでくれ」
「「…………はい」」
二人は鏡花に言い負かされた後、俺の鏡花ラブ宣言により肩を落として帰っていった。
「なんだろう……スカッとした」
「そう?もっとあたしたちのラブラブ姿を見てもらう方が良かったんじゃないのか?」
「いや、鏡花があの二人に話をしているの聞いて思ったんだ」
「何を?」
「愛してるよ、鏡花」
「バ、バッカ……照れるじゃねえか」
俺はそのまま無言で鏡花を抱きしめた。鏡花も自然と俺の腰に腕を回す。
俺は不倫ばかりされるサレ男だけど、今度こそは幸せな家庭を築けそうだ。
あれから10年の月日が経った。
「いってきます」
「「いってらっしゃい」」
早いもので娘は小学生になった。嫁の鏡花はしっかりと妻と母親をこなしている。今までの経験があったからだろうか俺はこれほど妻の鏡花を誇らしいと思ったことはない。
「鏡花、ありがとうな」
「どうしたの、急に……」
目を丸くして驚く鏡花。結婚して10年経つがこんな些細な言葉でもまだ照れる姿が愛おしくてたまらない。
「それと、愛している」
「……バカ、恥ずかしいじゃん」
バカでもなんでもいい。鏡花が傍にいてくれさえすれば俺は幸せだ。
「あ、そうだ……って、まあいいか」
「なんだよ、急に話を止めるなんて気になる」
「んー、ごめん。気を悪くするかも、って思って」
「ならないから話して」
「えっと、涼香さんとひまりさんの話を聞いたの」
「え?」
どうやら鏡花の友人や俺経由の友人から聞いた話らしいのだが、二人とも再婚はしたもののあまり幸せではないそうだ。
「涼香さんは体の相性だけで相手を選ぶからとんでもない男を選んで今ではその男の借金返済に苦労しているみたい。ひまりさんは結婚しても長続きしないらしくて既にバツ5だってさ、しかも不倫三昧のためかなりの慰謝料が発生して借金がすごいらしい」
「ふーん」
「どうでもよさそうだね?」
「まあ、遠い人って感じがしている。俺 は……鏡花さえいてくれたら……」
「もう……バカ……んっ」
照れながらも目を閉じて待ちの姿勢の鏡花。俺はその鏡花の唇にそっと自分の唇を重ねる。
「ありがと」
「いや、俺は鏡花に救われた人間だ。これからもよろしくな」
「もちろんだよ」
あいつらは自分で道を選んでその道を行っている。いばらの道を自分で選んだのだ。痛みが伴うのは当然。今の俺はあいつらのことは忘れ、子供のため鏡花のために自分にできることを精一杯やっていく。
俺は自分の道を選ぶ。
復讐ではなく一人の人間として正しいと思う道を選択したまでに過ぎない。
……なんて、かっこつけすぎかな。
「これからも鏡花といちゃいちゃラブラブしてやる!」
「……お手柔らかにお願いします」
「ダメ、鏡花のこと好きすぎて……抑えられない」
この時の情熱的なハッスルが二人目の天使を授かるきっかけとなった。