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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ソロ冒険者達の悲哀

ダンジョンに独りで潜る俺の趣味は料理です。~あんパンは良くて何で小倉トーストがダメなんだよっ?!~

作者: 青山 文

とある地方在住の知人の心の叫びを書いてみました。

2021.7.2 予告通り最初の数行分削りました。

 ある日、世界中の至る所で、この世界とは異なる法則で出来上がった異世界……『迷宮(ダンジョン)』が、ほぼタイミングを同じくして、その口を大きく開き、架空の物語から喚び出されたかの様な”異界の生物”が世に溢れだした。


 各国の政府は、すぐさま後に”異界の門”と呼称される『迷宮』の対策に乗り出した。そうしなければ、自国の安全保障が成り立たないまでの未曾有の危機だった。


 そら、いきなりドラゴンっぽい生物やら、巨大な虫やら何やらが飛び出てきてビックリしない方がおかしいわな。


 幸いな事に”人類の英知”は、そんな化け物達にも、期待された通りの充分な効果を発揮した。架空の物語とは異なり、異界の生物……”魔物”に対し、銃器類が効いたのだ。これは世界秩序崩壊の危機に直面した人類にとって、大いなる福音となった。


 溢れ出た魔物共を何とか殺し尽くし、ふと我に返った人類達は、そこで歴史が大きく揺らぐ程の大発見が待っていた。魔物達の体内で生成されていると思しき謎の”石”は、高効率で熱損失の少ない極めて優れたエネルギー結晶体なのだと判明したからだ。


 限りある資源の枯渇に怯えながらも、だましだまし使用し続けるしかなかった化石燃料に変わる”新たなエネルギー”としての利用が大きく期待され、各国の”石”争奪戦と研究競争が始まった。



 ここから、欲にかられた人類の”逆襲”が始まる。



 世界各国に出現した『迷宮』は、瞬く間に次々と”攻略”されていき、人類は異界の生物である”魔物”の体内から採れる”魔石”の獲得に躍起になった。


 『迷宮』の存在によってもたらされた新たな産業革命は、各国の”格差”をより一層拡げる事となった。各々の『迷宮』から出土する”資源”に、不公平なまでに大きな差があったのだ。


 ”魔石”だけでなく、様々な鉱物資源が採れる豊かな『迷宮』を持つ国と、迷宮自体を持たざる国。


 特筆すべき資源も無く、中で棲息する魔物が無駄に強い。そんな、ただただ危険度だけが高い所謂”ハズレ”の迷宮を引いた国は、文字通り負け組となった。


 人類の欲望は留まる事を知らない。各国は、豊かな迷宮の争奪戦を開始する事となった。公然と戦争を吹っ掛ける国もあれば、裏から経済を浸食し、中枢を乗っ取ろうとする国も中にはあったという。


 ……あれから24年。


 人類の”活動”は、少しだけ生活様式が変わりはしたが、未だに続いている。



 俺の住む国は、まぁ、かつては世界中のあらゆる国に要らぬチョッカイをかけていた某”大国”が、丁度良いタイミングだとばかりに世界中からボッコボコの袋叩きになったお陰で、今でも何とか存続はしている。


 ”自衛隊”等と建前で呼ばれていた組織は、今では何の体裁を繕う事も無く”軍”の呼称になってはいるが、な。

 

 んで、その某大国さんは今までの非道の行いが祟ったのか、30カ所もある迷宮全てが”大ハズレ”だった上に、強力な魔物が門から大量に溢れだす事態になった。全人口の約7割を喪失し、広大な国土の大半を魔物に奪われてしまったらしい……


 そんな危険を孕んでいるのにも関わらず、”第三次世界大戦”の引き金を引きかけた『迷宮』という存在は、今では人類の経済活動には欠かせない一大”産業”になっている。


 日々新たな『迷宮』が発見されては、発掘、調査なんてニュースで出ているし。


 どの国も迷宮から得られる”恩恵”を最大限に活かす為に、国家事業として管理・運営がなされていて、俺の住む国も当然例外はではなかった。国家資格によって認められた者だけが”冒険者”として、迷宮に足を踏み入る事ができる。



 ……ちょっと前書きが長くなり過ぎたか。


 俺の名は有坂(ありさか)義之(よしゆき)。国から”第一種迷宮探索資格者免許”を認められた”冒険者”の一人で、この稼業を始めてかれこれ10年目の、一応は”ベテラン”だと威張っても良いくらいの人間だ。まぁ、言わずもがな”おっさん”の域なんだがな……


 そんな面倒な国家資格制度を作ってまで、迷宮の探索を民間の力なんか借りてやらずに、軍で一括管理すればそれで済む話じゃないかって?


 確かにそれをやっている国もあるらしい。あるらしいのだが、この国は少々他国と考え方が違った。


 まず理由のその1になるが、”異界の門”より大きなモノは、迷宮に入る事はできないし、当然出ても来られない。つまりは、戦車やら装甲車による”ゴリ押し”制圧はできない。迷宮の通路幅ギリギリの大きさの装甲車を設計し、迷宮内部で組み立てるって方法も何度も試みられたが、必ず何故か急に通路幅が一気に狭まって身動きがとれなくなってしまうらしい。そこにどんな意地悪な意思や力が働いているのかは解らないが、車両の持ち込みはできないのだそうだ。つまりは装備面での”軍独自の優位性”が、これによって一気に陰る訳だ。


 不思議と人力の車両なら問題無いらしく、リアカーやら自転車を迷宮に持ち込む奴もいたりする……っと、ちょっと話が逸れたか。そもそも軍の存在は、自国を狙う”諸外国”への抑止力として常に外に向けていなければならないし、軍で迷宮の資源を一括管理、採取するとして、もしその際に何らかの事故が起きてしまえば、”殉職者”の家族への保障問題やら何やらで莫大な資金(かね)がかかる。民間に採取を任せてしまえば、一見コストは上がる様に見えるが、全ては”自己責任”の一言で済ませられる為、長い目で見れば遙かに安い訳だ。これが理由その2だな。


 あと、この国の政治家や役人達は、発生する利益と責任を天秤にかけてみて、どうやらリスク回避の方を選択したらしい……ってのが理由その3だ。これは噂の域を出てはいないんだけれど。ま、そんな”安い民間人”……冒険者を鵜飼いの鵜の如くコキ使い、資源を獲得する方法をこの国は選んだって訳だ。


 んで、冒険者は、有資格者数名で徒党(パーティ)を組んで、迷宮の攻略……というか、ぶっちゃけちまえば、魔物(迷宮の住人)達を虐殺しては体内の”石”を奪うという、通り魔的というか、山賊と変わらん荒事を生業とする人種(クズ)だ。


 俺はとある”理由”のせいで、今は独りで活動する冒険者なんだが、やる事は基本的に他の奴らと何ら変わらない。


 資源を掘って、魔物を殺して、石を奪う。


 それだけだ。


 長年の経験のお陰か、独り(ソロ)活動でも充分に老後の貯蓄に回せた上で、それなりに食ってもいけているので、一応は勝ち組だと言えるのかも知れない。


 それでも、それなりの長い間苦楽を共にした仲間達から爪弾きに遭うなんて全然思ってもみなかっただけに、未だトラウマを引き摺ってはいるんだ。だから、ずっとソロな訳で……


 まぁいいや。そんじゃ、今日も一人でお仕事頑張るかね。



 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



 狩猟免許と冒険者免許を持つ者に限り、この国では銃火器と弾丸の所持が認められている。年一回の更新時教習の他、色々と面倒で細かい制約があるんだが、これが無くては迷宮で簡単に死ぬ。当然必携だ。ゲームと違って人間に”Lv”なんて概念は無いんだからな。


 ”魔石”を取り出す為にも、魔物の解体技術は必要である。というか、これが無くては冒険者として論外だ。それなりの刃物の所持も必要となる訳で、当たり前の話だが、冒険者稼業を行う為には、刀剣所持の免許も必須となる。


 そんな訳で、今の俺は結構強力なライフル銃と、人間を殺傷するには充分過ぎる程の刃渡りの包丁と鉈を、複数所持している。お巡りさんに職質されたら、チョイと面倒臭い事になる。


 で、ここからは銃刀法との兼ね合いになるんだけれど、チョイとした思い付きでコンビニに入る事もできなければ、ATMでお金をおろす事もできない。これら(銃と刃物)を持って外に出歩くという事は、迷宮に直行して、直帰せねばならない。その準備と覚悟を済ませてようやくの話なのだ。


 ……ああ、でも、たまーにこんな時に限ってコーヒーを飲みたくなる衝動に……いや、我慢。我慢だ。


 家から持参した麦茶を飲んで、そんな衝動を無理矢理に誤魔化しながら、迷宮入り口に設置された検問所の行列へと並ぶ。


 この検問所が本当に腹が立つんだ。


 朝8時に開門し、夕方5時30分きっかりに閉まりやがる。んで、1秒でも過ぎたらアウト。無情にも扉が閉まり、当然翌朝の開門まで外に出る事が出来なくなるという……これだから公務員って奴は……


 そんなお役所仕事にイライラしながらも、しがない冒険者達はただ行列が捌けるのをじっと堪えて待つしかない。ここでの時間的損失(タイムロス)は、一日の稼ぎに結構響く。そら早く並ぶに越した事は無いんだが、早い奴は日の出前にはすでに並んでいるとも聞く。そこまでやるのもちょっとなぁ……


 待っている間に”獲物”の手入れが出来ればまだ良いんだが、”迷宮内”以外でソレを出すと銃刀法違反で取っ捕まる。こういう時だけちゃっかりしてやがんだよ。お役人様(税金泥棒)って奴ぁ……本当にやってんらんね。


 「おっす。ヨッシー」


 想像の中で軽く4、5人のお役人様を背にした銃や鉈で存分に殺している最中に、懐かしい声と同時に肩を叩かれた。


 軽く30超えのええ歳した危ない妄想に耽った状態のおっさんを捕まえて愛称なんかで呼ぶ奇特な奴は、”あいつら”しかいない。


 振り返れば、見知った顔……一時期は”迷宮”で苦楽を共にしてきたかつての仲間の一人、中村(なかむら)雅史(まさし)がいた。


 「……よぉ、マサ。お前達も、これから5号迷宮か?」


 この国のお役人様達は、ネーミングセンスの欠片も無い事を自覚していたのか、迷宮の公式名称は発見順に番号を割り振っただけの簡素なものだった。


 5号迷宮は、アパートから徒歩で気軽に来れるという近い立地もあり、俺のメイン”狩り場”だ。


 ……それだけが理由でなく、この5号迷宮、結構良い値段になる鉱物資源も出土するし、中に棲む魔物はそこまで理不尽に強くもなく、良質の魔石が採れると、正に”趣味”と実益も兼ねているのだ。


 だがまぁ、俺のその”趣味”のせいで、前に立つマサ達の徒党から三行半を突きつけられる事になったんだが、な。


 「そそそ。ここは上手くハマれば、稼げるからなー。で、お前は相変わらず一人かよ?」


 「……悪ぃか? 一人なら俺の”趣味”に誰からもとやかく言われる事無いしな……気軽、なんだよ」


 あの時”仲間達”から言われた心ない数々の言葉が頭の中で蘇って、胸の辺りがムカムカしてきた。


 「すまない、ヨッシー。嫌な事、思い出させちまったな……」


 マサにとってもあの時の事が苦い記憶だったのか、頭を下げてきた。この男だけは、俺の”趣味”に対して何も言わなかったし、悪し様に言い募る徒党内の女性陣を逆に諫めていた。その内心は、どうだったのかは解らないけれど。


 「いや、良いさ。確かに、()()に良い気持ちをしない奴もいるだろうし」


 女共の生ゴミでも見るかの様な俺に向けてきたあの冷めた視線は、本当に癖になr……いやいや、トラウマもんだったよっ! マジで、マジで。


 「ほんとにすまん。ささやかな詫びになるけど、今日の()()が終わったら、久しぶりに二人で呑みに行かね?」


 「お? 良いねぇ。どうせなら、俺ン家で()ろうぜ。取っておきの良い酒があるんだ。住所変わってねーから解るだろ?」


 マサとは大学生時代からの付き合いだ。二人で良く馬鹿をやっては、色々と面倒なトラブルに巻き込まれたりと色々したもんだ。サシ呑みも久しぶりだなと、少しだけ心弾んだのはこいつには内緒にしておこう。


 「良いのか? じゃ、後で秘蔵の酒持ってお前ン家いくよ」


 「おっけ。なら俺も、今日は早めに切り上げるかなー」


 それなりの肴を用意するなら、そこそこ時間が要るだろう。流石に店屋物や、スーパーの総菜だけじゃ味気ないしなぁ。こういう時、男は無駄に”凝る”から女に嫌われるんだと、昔の彼女に良く言われたもんだ……だが、これが性分だから辞められん。


 冷蔵庫にあっただろう”材料”を思い出しながら、足りない物をメモに取る。その作業にえらく集中していたせいか、待ち時間を全く苦痛に感じなかったのは思わぬ僥倖だった。



 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



 「「かんぱーい」」


 キンキンに冷えたビールを二人で一気に煽る。仕事の後のこれは、正に至福だ。次点で、休日真っ昼間から……なんていうシチュもあるが、これを大っぴらに言うともれなく駄目人間のレッテルが貼られるので注意が必要だ。


 「しっかし、ヨッシーは相変わらず料理上手いよな。何でこっち(料理人)を仕事にしんかったんだ?」


 この時間の為に、俺の出来る腕の限りを尽くした肴をパクつきながら、マサは俺に質問をぶつけてきた。何度もしてきたこの問答、ホント懐かしいなぁ……


 「何度も言った筈だぜ? ()()は引退後のお楽しみだ」


 新たなビールを開けながら、俺はマサに今までと同じ返答を繰り返す。身体が思い通りに動く間は、出来る限り”冒険者”でいたい。単純に言えば、ただの我が儘だ。


 だが、何れそんな事を言ってられない時期が必ず来る訳で。30代後半にもなれば、早い奴はもう(老い)を感じていても可笑しくない年齢なのだ。ビールでいる間はそうでもないが、焼酎、日本酒とかのチャンポンが始まってしまえば、俺も老いを自覚させられるだろう。何気に最近、酒の回りが早いし。


 「特にこの角煮は絶品だ。こんなのをスっと出せるなんて、惚れちまうだろ……これ、かなり時間かかってるンじゃねぇの?」


 「俺はそっちの趣味なんざねぇからやめてくれ……圧力鍋があれば、そんなに時間かかんねーよ。何度か茹でこぼしはしているから、手間はかかっちゃいるが」


 実はこの煮汁で煮卵を作ると、本当にたまらんのよ。後で絶対に作る。絶対だ。


 「もしかして、ベーコンもこれ自作か? 凄く良い香りがする」


 「ああ、燻し時間ちょっと長すぎたかなって思ってたんだが、大丈夫だったか?」


 「いや、俺はこれくらいが丁度良いかなぁ。もしかして、ナッツとかもやってたり? これはウイスキーが欲しくなるな……」


 「流石にベーコンと一緒にはやってないがな。脂の臭いが移っちまうし。手間になるが、こっちは同じチップ配合にして別で作ったんだ」


 ”燻製道”ってなぁ、言うなれば”沼”だ。一度ハマると抜け出せないだけでなく、思い付いたモノを次々に燻したくなる衝動に駆られる。そんな俺のオススメは沢庵。テキトーに作ってもそれなりに美味いんだから、本場の奴は絶対に美味い筈。いつか本物のいぶりがっこを食べてみたい。いっそのことお取り寄せすっか?


 「この肉味噌、ニンニク効いてて美味いなぁ……レタスで包むと良いアテになる」


 「赤味噌は結構人を選ぶ味なんだが、こっち(東京)の人間の割にゃ、マサは大丈夫なんだよなぁ。お陰で俺は地元の味をそのままでやれるから楽だよ」


 有坂家のレシピでは砂糖をあまり使わないせいか、苦手な人間にはトコトン合わない味なんだが、マサは美味そうに食ってくれるからありがたい。だからこうやってご馳走したくなっちまうんだろうなぁ……


 「このフライドチキン、すっげ肉汁出るな。衣も美味いなぁ……まるで白い服のお爺さんの例のアレみたいな……」


 「ああ、それな。ちょっと再現に挑戦してみたら、思いの外上手くいったんだよ。何なら、後でレシピやろうか?」


 インターネットを検索すれば、”例のアレ”の衣は再現レシピが結構出て来るが、それと比較しても遜色の無い出来になったのではと自惚れている。 


 「しかし、これだけ美味いんだから、美香(みか)や、松井(まつい)岩城(いわき)もあそこまで言わなくても……」


 徒党から離脱する切っ掛けになった三人の女性の名前を出され、表情が強ばったらしい。マサはそんな俺の変化に気付いて”しまった!”って顔をしたのを見て少しだけ後悔したが、こればかりは”トラウマ”なんだから仕方が無い。


 ”気持ち悪い”


 ”普通じゃない”


 ”あり得ない”


 アイツ等には散々、ボロっ糞に言われたなぁ……と、遠い目であの日の出来事を思い出す。


 まぁ、こればかりは主観、価値観の違いだから、どうしようもない。大きく空いた溝は埋まる訳が無いのだから。まぁ世間一般に言わせりゃ、俺の趣味は許容できないものらしいので仕方が無い。


 「まぁ、こればかりは仕方が無い。仕方が無いが……」


 「……が?」


 「一つだけ許せない事がある。何でこっちの人間は『小倉トースト』をあんなに気持ち悪がるんだ? その癖、何であんパンはアリなんだよっ?! おかしいだろがっ! おっ?」


 「ああぁ……それな。材料全部同じだもんな……」


 俺の”趣味”は万人には受け入れ難いものだと自覚している以上、仕方が無い。だが、これがどうしても許容できなかった。そして、美香さんはマサの奥方様だ。当然、面当向かって言える訳も無い。だから俺は離脱を選んだんだ。


 「んでっ! あんバタって何だよっ!? バターじゃなくてマーガリンじゃねーかっ! 詐欺だろっ?! アレは、アレだけは絶対に許せねぇっ!」


 松井由真(ゆま)は、一時期それなりの良い仲になった女だ。こいつも美香さんの意見に深く頷いて俺に迫ってきたが、こいつの地元には”あんバタ”なるものがあって、これがまぁ……小倉トーストはアウトでこいつがセーフという、そのツッコミどころ満載の境界が謎過ぎて、どうしても許せなかった。


 岩城は特に許せなかった。こいつも俺と同じ地方の出身の癖に、何の擁護もしなかった所か、一緒になって口撃してきやがった。実は言うと、精神的にこいつの裏切りが一番堪えたくらいだ。


 「……ヨッシー、なんつーか……ホントすまん……」


 俺の突然の激高に、酔いが冷めたのかマサが真顔で謝罪をしてきた。こいつが俺の離脱を止めなかったのは仕方の無い話だ。生活が掛かっている以上、徒党の存続は最も重要なのだ。だからこそ俺は納得した上で、今でもマサとの交流を続けていけているのだ。


 「ああ、すっきりした。呑みなおそうぜ」


 「だな……」



 まだまだ夜は始まったばかりだ。今日は朝まで呑み明かそう。



 せっかく酒も”肴”もあるんだ。



 豚人(オーク)の角煮と、同じ肉を塩漬けして魔樹(トレント)のチップで燻した特製ベーコン。魔大蒜(デモン・ガーリック)を効かせた牛人(ミノタウロス)の肉味噌に、コカトリス肉のフライドチキンに、半漁人(サハギン)の漬けと……迷宮産の食材の肴は、まだまだ沢山ある。



 これが俺の”趣味”



 ”迷宮産”の”食材”を使った数々の魔物料理だ。



 世間一般の常識で言ってしまえば、受け入れ難いのは当然の話。


 だが、これがただ美味いだけではないんだ。


 身体にも色々と良い変化がある。


 自惚れではなく、俺の肉体は、多分この国では五指の内に入るだろう位に強い。もしかしたら、”最強”を名乗って良いかも知れない。


 魔物食は、驚く程に人間の身体を強化してくれるのだ。だから俺は徒党を組まずとも、独りでずっと”冒険者”をやっていけている訳で。


 どうやら、まだ人類は、魔物に対し”石”にしか価値を見出していない様だ。お陰で俺は誰に知られる事も無く”超人”気分でいられる。だから、俺はまだ冒険者を辞めるつもりはないよ。



 もしかして、だけど。



 人類が魔物食に興味を向ける日がきた時に、俺は冒険者を引退して料理人になるとしよう。


 迷宮の魔物を捌いて出す、創作料理屋とか面白いかも知れないな。



 それまでは、殺して、捌いて、食べる。俺だけの、やめられない”趣味”だ。


 独りだから許される、”趣味”だ。


 お前も魔物が食べてみたいと言うのなら、迷宮へ連れて行ってやっても良いぜ?


 その代わり、大怪我したり、死んだりしても俺を恨むなよ?


 俺が潜るのは、誰よりも深い階層なのだから。



誤字脱字がありましたらご指摘どうかよろしくお願いいたします。

評価、ブクマいただけたら嬉しいです。よろしくお願いします。

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