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長田桂陣 短編集

ヴァルキリーの私を倒して、町娘に結婚を申し込むだと? 残念だったな、その町娘の正体は私だ!

作者: 長田佳陣

 私と彼はいつも同じ時間にここで会う。

 約束をしているわけではないけれど彼、グラウスが私のスケジュールに合わせて必ず現れるのだ。

 扉から出てきたグラウスは真っ直ぐに私を見つめる。ここは人の喧騒が凄いし、人目もあるのだけどもお構いなしに熱い視線を投げかけてくる。

 グラウスが真っ直ぐ私に駆けてきた。彼のアタックはいつも真っ直ぐで下手な絡め手や小細工は無い。

 私は彼を迎え入れる。


「どっせい!」

 幅広の剣をシールドで弾けば、シールドに施された防護結界が青い火花を散らせた。


『挑戦者、グラウス! 開始の合図を待たずに飛び込みました!! しかし! チャンピオン、ヴァルキリーのヴェルサンディ! これを難なく迎撃!』


 闘技場に場内アナウンスが響く。

 そう簡単に触れられるほど安い女ではないのよ。


 一度、距離を開けるとグラウスが肩の力を抜くのがわかった。

 なるほど、そこは踏まえているって事ね。

 私が手にした巨大ランスを天高く掲げると、闘技場の観客達が歓声で応える。


「我こそはヴァルキリー三姉妹が次女、ヴェルサンディ! 私を打ち倒すことが出来たなら、そのものを勇者と認め伴侶となろう! 娶るもこの場で慰みものにするも好きにするが良い!」


 いまや闘技場名物となった戦乙女の誓いだ、これは崖っぷちにいる私達三姉妹の決意なんだ。

 この謳い文句があるからこそ、私たちヴァルキリー三姉妹にはその勝利を願うファンから無様な敗北を願うアンチまで広く観客が押し寄せてくる。


『対する挑戦者は……すまねぇ、ご覧の通りいつものコイツだ! 不動のランキング一位にして、目下996連敗中、不屈の挑戦者口数少なくイマイチ何を考えているか分からない「ため込む男」グラウス!』


 会場を笑いとブーイングが包む。ああ!? だったらお前ら出てきてみろよ! あたしのグラウスに何言ってくれてんの!? 一瞬で潰したらぁ!


 仕切り直しの合図に一度間合いを詰めて、互いの武器を軽く合わせた。

 それを大きく打ち上げ、闘いの火蓋を落とす。

 この距離はグラウスの距離だ。

一気に打ち込んできたグラウスの攻め手は止まることを知らない。惜しげもなく晒された逞しい肉体は伊達ではないのだ。時に繊細に、時に大胆に私のガードを崩しにかかる。

 これはまずい!


 キン!


 遂には盾で受けきれずグラウスの幅広剣と私の持つ巨大なランスでの鍔迫り合いになってしまった。

 息をつかせぬ展開からの膠着に、それまで見入っていた観客からわっと歓声が上がる。

 すでに闘技場の興奮は最高潮だ。


 私が魔力で引き上げている筋力に対して、グラウスはその鍛え上げた肉体で圧をかけてきた。

 近い! 顔が近い! 荒い気遣いを間近に感じる。

 膠着状態を利用して息を整えるグラウスの深い呼吸が間近で感じられる。

 兜の隙間からグラウスの顔が覗き見えた。

 あ、まつげ長い。

 私の興奮も最高潮だ。


「今日こそお前を倒させてもらうぞ、戦乙女ヴェルサンディ!」

「ほう、どの口が言うのか?997連敗の剣闘士グラウス」

「まだ996連敗だ!」


 グラウスがすっと大きく一度息を吸い込んだ。

 そして目で合図を送ってくる。

 いくぞ、受けてみろと私に言っているのだ。

 鍔迫り合いの合間に強引に盾を割り込ませると、私のガードを無理やりこじ開けに来た。

 もう、強引なんだから。

 彼のテクニックに私は翻弄されっぱなしだ、既にシールドで防ぎきれなかった攻撃が私を掠めている。防御結界の発動を示す青色の光が私を包む。


 ああ、もうだめ、限界だ。

 このまま剣技で競ったならどうなるだろうか?

 グラウスのお嫁さん、悪くない。

 悪くはないけれど、私たちにはまだやることがある。


 私の周囲を稲妻が覆った。私の行使した魔法によるものだ。

 魔法が使われることを予測し、覚悟を決めていたグラウスだが一瞬のすきを私は見逃さない。

 スキル「シールドバッシュ」で激しく彼を打ち伏せた。

 鍛え上げられた彼の肉体であってもスキル効果によるスタンを防ぐことは出来ない。

 私は背中の羽を広げ、一息に闘技場の端まで飛び去った。この間合が私の必勝の間合いだ。


「汝に横暴な堕落と耐えられぬ欲望を送らん、汝に苦痛が降らんことを……」


 すかさず神聖奥義の詠唱を始め、輝き始めた巨大なランスをグラウスへと向けた。

 スタンの解けた彼が私を見つけるが、この距離ではもう遅い。

 グラウスは丸盾を構えてこちらに詰め寄ってくる。

 もう数歩で私に到達する。

 そんな距離で彼が衝撃的な言葉を発した。


「俺は! その一撃を耐え抜き、お前を倒してあの娘に告白するんだ!」


 は?

 はぁ?

 え? ちょっと、ちょっとまって!

 お前、お前好きな娘いたのか!?


「汝座ることなかれ、眠ることなかれ。……そして我が事の如く我を愛せよぉぉぉ!」


 ああ、何が我を愛せよ!なんだよぉ。神聖奥義の詠唱が虚しすぎる。

 ランスが放つ光の帯と闘技場の大歓声にグラウスが飲み込まれた。



 私は桶に張った水に手を浸した。

 井戸から汲み上げたキレイな水だけど、もう生暖かくなっていた。

 凍結の魔法を施せば、表面に薄く氷が張った。

 氷を押し割り、軽くかき混ぜればひんやりと心地よい冷水の出来上がりだ。

 ここは、闘技場の控室だ。

 のぞき窓からは先程まで私が戦っていた円形の闘技場が見える。

 クラウスとの一戦は一日の大一番、最終戦だった。

 あの熱狂に包まれていた闘技場も今は静まり返っていた。

 

 うーん、と男の子の声がした。

 ベッドに横たえたグラウスが目を覚ましたのだった。

 グラウスはゆっくりと身を起こし、剣を握っていたはずの右手を見つめて呟いた。


「俺は……負けたのか?」


 スパーン!

 目を覚まして開口一番、ショックを受けている風の顔面に濡れタオルを投げつけてやった。ちょいちょい見え隠れするナルシストにイラッとしたのだ。


「俺は……負けたのか……じゃないわよ!いつもどおり完敗でしょうが!」


 プリプリと怒りを顕にした私は腰に手を当てて仁王立ちしていた。試合が終わり普段着に着替えて派手目の化粧も落としてある。

 ついさっき、フラれたばかりだと言うのに今日もグラウスを看病してしまった。


 顔からずり落ちたタオルをグラウスが不満そうに見つめる。

 兜の下に隠されていたその素顔は、鍛え抜かれた肉体には似つかわしくない、まだ少し幼さの残る純朴な青年だ。


「なんだ、お前か。人の顔に雑巾を投げつけるもんじゃない」


 どこが雑巾じゃい! お前のために用意した高級タオルなんだよ!


「お前かはないでしょ!? スクルドやウルズには、いつもデレデレしてるクセに、なんで私にはそうも横柄なのよ」


 グラウスはタオルで顔を拭きながらせせら笑う。


「お前のような娘と彼女たちを比べてもしかたないだろう」


 三姉妹なんだから、そんなに変わらないと思うんだけどね。

 私はグラウスからタオルを受け取ると、彼の背後に回ってその広い背中をタオルで拭う。


「戦乙女たちは立派な女性だよ。特に次女のヴェルサンディは尊敬に値する」


 おいおい、本人を目の前になにを! よしてよ! 照れる!


「どんなところを尊敬してんのよ?」


「考えても見ろ、俺のような普通の人間相手に真っ向勝負をする必要がどこにある? 最初から雷撃を使ってもいいし、神聖奥義だって上空からならいつでも撃ち放題だ」


「試合が盛り上がらないからかもよ?」


「いや、一戦ごとに工夫と努力が垣間見れる。立派な戦士だよ」


 くわぁ、照れる! やめて!

 しかし、そこまで私を認めてくれているグラウスは私と目を合わせようとはしない。控室で二人きりのときはいつもそうだ。


「すまない。手間をかけさせた」


 グラウスは少しふらつきながらも控室を出ていった。

 でもそうか、私は恋愛対象ではなく尊敬する戦士か。

 別にまぁ惚れ込んでたってほどではない、ちょっと気になる異性って程度だ。それに尊敬されているなら、親友だと思っても良いはずだ。

 その娘と張り合う様な、みっともないところは見せられない。


「サンディ。どう? 彼、死んでた?」


 いじいじとタオルやタライを片付けていると、姉のウルズが控室にやってきた。

 姉さんはヴァルキリー三姉妹の長女で、妖艶な大人の女性だ。


「ウルズ姉さん。残念、まだピンピンしてたわ」


「相変わらず頑丈ねぇ、ヴァルキリーの神聖奥義をまともに受けて死なないなんて。まさかサンディ、手加減なんてしていないでしょうね?」


「してません。それに午前にスクルド、昼にはウルズ姉さんがそれぞれ神聖奥義をブチかましてるじゃない」


 そうだ。

 グラウスは闘技場のランキング一位。そして一位が挑むのはチャンピオンだ。そしてこの闘技場には三人のチャンピオンが居る。

 放出系魔法が使用禁止の剣術部門、そのチャンピオンが三女のスクルド。

 武器禁止、魔法攻撃が主体の素手部門、チャンピオンがウルズ姉さん。

 そして、何でもありの総合チャンピオンが私、ヴェルサンディだ。

 クラウスはその三部門の全てにおいてランキング一位を誇る。

 魔法? グラウスは使えないよ? 武器禁止の素手部門を素手で勝ち抜くのがあのグラウスなのだ。


「毎回、殺すつもりで魔法当ててんのよ?」


 ぶっそうだと思うだろうが、そこは理由がある。

 私達は戦乙女ヴァルキリー。

 勇者を天界にある神々の戦場「喜びの野」いわゆるヴァルハラに連れてゆくのが使命である。

 グラウスは神々の戦列に加わるに値する英雄だと私達は見ているのだ。


「サンディ、早く死んでもらわないとノルマが……」


 天界との交渉はウルズ姉さんの役目。

 けっこう厳し目に突き上げを食らっているらしい。


「よし、明日こそ殺そう!」


「あら、どうしたの急にやる気を出して?」


 別に人の恋路を邪魔したいわけではない。

 たまたま仕事と妬みの利害が一致しただけなのだ。


「いや、グラウス好きな娘がいるらしくてさ」


「知ってるわよ」


 え?


「え? え? え? 姉さんグラウスのお相手しってるの?」


 ウルズが口に手をあててニヤニヤしている。


「あれ、あなた達、あれで隠しているツモリだったの? バレバレよ?」


 なにか話が噛み合ってない気がする。


「念の為に言っておくけど、私じゃないわよ? 今日の対戦でお前を倒して告白するって言ってたもの」


 そう告げるとウルズ姉さんは僅かに考えた後に、トンデモナイ爆弾を落とした。


「グラウス君って、ヴァルキリーのヴェルサンディと控室のサンディが、同じ貴女だって分かってないんじゃない?」


 え? えーー!?

 どうやら、この絡まった恋の主導権は私の手にあるらしい。


つづけ

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