水神さまと山神さま
昔のずっと昔の話。
ある所に、大きな大山とそこに流るる
美しくて、とても清らかな川がありました。
その場所は神様達がお住みになられている為、
神聖な場所であり、人間が入れる場所ではありません。
そこでは水神様と山神様が仲良く平和に暮らしていました。
名の通り、水神様は水に住まわれておられる神様です。
山神様は山の神様であられます。
水神様と山神様は毎日が御祭りのように、
楽しい事をして暮らしていました。
そんなある日、聖域の結界に歪みが生じ、
あろうことか、神々の神聖である場所に
ある一人の男が入ってしまったのです。
男は手付かずの自然や、綺麗な川を目にすると、
欲望の限りを尽くしました。
動物を狩り、果実を頬張ると、木を伐採し、火を炊きました。
汚れた体を清らかな水で洗い流し、川で用を足しました。
異変に気付いた時はもう既に、
穢れが蔓延してしまっていたのです。
水の神様は人間に近寄り、こう言いました。
「何故私達の住み処を汚す。
何かそぐわないことでもしたか?」
あまりの美しさ、神々しさ故に、男は怖がりました。
神様ん所来ちまったべか、
だけんどもこの場所さあれば、
皆、腹一杯食えるべさ。
神様にはわりんだけども、
俺らも苦しいから助けてくんろ、、
そう考え、神様だと言えば大丈夫だと思い、
見蕩れながらに言いました。
「俺は山神だ。
俺は腹減ってただから、
おまんま食いよっただけだ。
身体洗って綺麗になったべさ。
一緒に食わねえか?」
そう差し出した物は綺麗な水に住む、
魚が焼かれた姿でした。
水神様は声が枯れそうな程叫びました。
男は声で失神してしまいました。
山神様は急いで水神様の元へと向かわれました。
水神様の元へ着いた頃には水神様は
水神様ではなくなっていました。
冷徹で恐ろしくも吹雪き、生命そのものを
奪う者となってしまわれたのです。
山神様は水神様にお声を掛けられます。
「水神よ、どうなさられた。
何故その様な姿をして居られる。」
水神様は荒々しく、山神様へと吹雪きます。
「お前の一族が妾の住みかを汚し、
強欲の限りを尽くして、終いには、
妾の友を焼き殺したのではないか!!!」
山神様は訳が分からないような様子でした。
でもその態度に気を害され、
水神様は木々や動物達を襲います。
「どんな気分であろうか?
同族がいたたまれないであろう」
「やめてくれ、私達は何もしていない!」
「戯れ言を。もう、お前らの顔等見たくない!!
一刻も早く妾の前から立ち去るが良い!!」
山神様は襲い掛かる雹を受けがらも、
水神様に弁解を述べるも、聞いて貰えません。
それどころか、より一層激しくなり
何も見えなくなってしまいました。
「山神よ、御主との、日々は楽しかったぞ、、」
そう悲しくも小さくこだまする声を最後に、
水神様は何処かへ居なくなってしまいました。
山神様は急いで動物や木々たちを逃がそうとしますが、
次々にゆっくりと眠りについてしまいました。
残った生き物達も上へ上へと逃げるように行きますが、
一人、また一人と、倒れていきます。
やっと頂上に着こうとした頃には御天道様が顔を出し、
吹雪いていた雪も落ち着きました。
暖かい光が差し込むと、小さな泉を照らし、
そこにはゆっくりと小さな水が流れていました。