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毛玉幻獣グリ子さん  作者: ふーろう/風楼
第三章

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戦闘能力


 夏休みと言っても社会人であるハクトには関係ないことで、平日になれば当然仕事場に向かうことになり……グリ子さんもまたいつも通りに仕事場の玄関の、日当たりの良い台座に鎮座することになる。


 それを知っている子供達はわざわざただの町工場である仕事場まで遊びに来ていて……飽きが来るまでグリ子さんと一緒に時間を過ごす訳だが、そうなると当然のように周囲は元気過ぎる子供達の声によって騒がしくなってしまう。


 毎日毎日繰り返されるそれによって仕事場に迷惑がかからないかと心配していたハクトだったが……そのことを相談すると、人の好い社長は気にした様子もなく、笑顔を見せてくれた。


「子供が元気なのは良いことだしねぇ、工場の中は機械の音の方がうるさいくらいだし、お客さんも嫌な顔しないし……事務の矢縫君達が嫌じゃないなら問題ないよ」


 社長との文字が書かれたネームプレートの置かれた事務机での作業をしながら、そんなことを言ってくれていて……空調の整った、普段から窓を締め切っている事務室で仕事をしているハクトとしては全く問題がなく……また同僚達も気にならないとそう言ってくれていて……ハクトが安堵の表情を浮かべていると、プラスチック製の板櫛を取り出し、バーコード頭を整えながら60歳近くの社長が言葉を続けてくる。


「そんなことより、君達が気にすべきはほら、夏のボーナスでしょ、夏のボーナス。

 こっちの都合で支払いがちょっと遅れちゃったけどさ、その分多めに出すし……そもそも今年は業績が鰻登りって感じだからねぇ、そりゃぁもう大盤振る舞いしちゃうよ。

 新入社員の矢縫君は新入社員とは思えない程頑張ってくれたからねぇ……寸志じゃなくてしっかりボーナス、出しちゃうよ」


「……過分な評価、ありがとうございます」


 突然の言葉に驚き、事務作業の手を止めたハクトがそう返すと、社長はなんとも楽しそうなニコニコとした笑みを浮かべ言葉を返してくる。


「うんうん、で……矢縫君はボーナスを何に使うのかな?

 まだ車とか買うには早いから……良い服買ったりするのかな? 

 良い服買って合コン行ったりとか……彼女とかまだいないみたいだもんねぇ」


「……突然のことで思いつきませんが……グリ子さんが喜びそうな何かを買おうかなと思います。

 ブラッシング用のブラシなんかは損耗が激しいので……良いのをたくさん買ってあげたいですね」


「うーん、やっぱりグリ子さんか。

 連休の時もグリ子さんと一緒に旅行に行ってたみたいだし……まだまだその若さだと、結婚とかは意識しないのかなぁ」


 そう言って社長は笑い……気を使ったのか別の社員が声をかけたことで話題が変わり、ハクトは事務作業を再開させる。


 実のところ旅行はグリ子さんだけと行ったものではなかったのだが、それを言っても面倒になるだけ……世話焼きというかお節介というか、よく働くハクトのことを気にかけてお見合いなんて話まで持ってこようとする社長とのこういったやり取りは、ハクトにとってもうすっかりと慣れたものだった。


 もしかしたらハクト以外の社員全員が既婚者というのも、社長をそうさせる一因なのかもしれないなと、そんなことを思いながら作業を進めていると……社長が急に立ち上がり、給湯室へと向かう。


 普段給湯室を使っていないからなのか、給湯室の中でガタゴトと騒がしい音を立ててから、大きなヤカンと紙コップの束を持ってきて……そしてそのまま玄関へと、外で遊んでいる子供達の下へと向かう。


『熱中症にならないように麦茶を飲もうねー』


 なんて声が外から聞こえてきて、ワイワイと騒ぐ子供達の声が聞こえてきて……それからクキュンクキュンと、グリ子さんの声も聞こえてくる。


 そしてグリ子さんを『よーしよしよしよし』なんて声を上げながら撫で回す社長の声が聞こえてきて……ハクト達は聞こえない振りを決め込みながら、事務作業を進めていく。


 それから少しの時間が過ぎてから、社長が戻ってきて……給湯室でヤカンや紙コップやらの片付けを行い……そうこうしていると社長直通の電話が鳴り、ドタバタと自らの席へと戻っていく。


 そして数分の会話が行われ……どうやらその電話は新しい仕事に繋がるような、景気の良いものだったようで、みるみるうちに社長の表情が良くなり、声が弾み……トントン拍子といった様子で話がまとまっていく。


 それが終わるなり社長は、予定表と書かれたホワイトボードに文字を書き込み、何やら書類を用意し始め……新たな仕事の話をするためなのだろう、工場の方へと駆けていく。


 ハクトがそんな社長の背中を見送りながら作業を進めていると、机の上の電話が鳴り……数コール待ってから出ると、受話器の向こうから聞き慣れた声が聞こえてくる。


「……課長さん、どうしたんですか、仕事場にまで連絡をしてくるなんて」


 その相手は町役場の幻獣課の課長で……以前起きた幻獣災害のことを思い出しながらハクトがそう返すと、課長は短めの謝罪をしてから言葉を返してくる。


『いえ、実は幻獣業務の許可申請を出している方全てに連絡していることなのですが……幻獣を含め、戦闘能力の高いお知り合いとかいらっしゃいましたら、教えて頂きたいなと思いまして……』


「せ、戦闘、ですか? ……また何か幻獣災害が起きたのですか?」


『んー……申し訳ありません、その辺りの詳細をお伝えする許可が取れていませんので、その辺りまた後日に。

 ……とりあえず今は心当たりなどあれば、そちらをお願いしたく……』


「は、はぁ……そうですか……。

 戦闘能力の高い……ですか」


 そう言ってハクトは頭を悩ませる。


 戦闘能力が高いと言われてまず思いつくのがユウカのことだが、課長は既にユウカと面識があり、今更紹介する必要もないだろう。


 次にハクトの知っている中で戦闘能力が高いのは、サクラ先生と金羊毛羊のコンビと、ブキャナンで……次点でタダシとグリフォン、学院の関係者となってくる。


 タダシや学院の関係者のことは課長も知っているだろうし、サクラ先生は既に引退した身……その上、元四聖獣候補とまでなると、町役場の課長が関わるレベルを越えているような気もする。


 そうなると後はブキャナンで……近所に引っ越してきたばかりの変人、確かな力を持つ奇人、政府など一部の者達だけがその正体を知る彼のことを課長に伝えるべきか、一瞬悩むハクトだったが……まぁ、ブキャナンならば何があってもどうとでも対応出来るだろうと、あっさりと決断を下し……そうしてハクトは課長に、


「最近近所に引っ越してきたおかしな人なんですが……」


 と、そう言ってブキャナンのことを伝えてしまうのだった。


お読み頂きありがとうございました。

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[良い点] 初手「おかしなひと」 [一言] 夏といえば…花火! 綺麗だといいなー(不穏)
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