今日からは
リンカの説得を終えるとユウカは、リンカを家まで送るとそう言って、お堂から出ていく。
そんなユウカ達を案内するためなのか小僧天狗がそれを追いかけていって……残されたハクトとブキャナンは、何とも言えず無言となり……別の小僧天狗が用意したお茶をすする。
そうして少しの時が過ぎて……仮面をしたまま器用にお茶をすすっていたブキャナンが声を上げる。
「あの子、大丈夫でしょうかねぇ」
それを受けてハクトは即答をする。
「まぁ、大丈夫でしょう。
ここまでやってきたという勇気も行動力も、正しく導いてくれる人がいれば彼女の未来にとって有益な大きな力になるはずです。
求める強さに関しても、風切君なら良い道場や良い師を知っていますから……良いアドバイスが出来るはずです」
「ははぁ……なるほど。
後は彼女に合った場、師を紹介して任せると……それでいじめどうこうに関してもその方がなんとかしてくれると……。
いやはや、あたくし、それなりに若く、世間にも慣れているつもりでしたが……すっかりと時代遅れの、世間ずれした老人になっちまっていたんですねぇ。
一昔前なら、風切さんの言う所の『意地悪』で発奮させれば十分……それ以上の対応なんか必要なかったんですが……もう、そう言う時代じゃねぇんですねぇ。
……以前とは違って何もかもが柔らかく、優しくなったんですねぇ」
「発奮させてどうこうというのは……発奮しなかったらどうするのか、発奮したは良いが道を間違えたらどうするのかという問題もありますからね。
優しく正しく手を取ってあげて導く……風切君もそうやって今の強さを手に入れたのでしょう」
「なるほど、なるほど……。
あたくしも、その辺りのことしっかり学んで成長しなければならないのでしょうねぇ。
……ところで、ハクトさん、風切さんのあの強さは……その、どういった理由のもので?
彼女、武神か何かの生まれ変わりなのですか?」
「才能を持った子が正しい努力をした結果、ですよ。
風切君はなんというか……他のことにおいては普通の子で、たとえば勉学に関しては程々の努力をし、程々にサボることもあり……度々遊びの誘惑に負けてしまうのですが、鍛錬に関してはどこまでも真摯で、一切手を抜くことなく……体調以外の理由で鍛錬を休んだことがないのですよ。
自分の強さに関してもある程度の自覚をしていて、しっかり正しく、真っ直ぐな心で向き合わなければ、他者を傷つけてしまうものだという理解もしていて……自制、自分のその強さを制御するために、師の教えに素直過ぎる程素直に従い……その結果また強くなり。
学院は良い召喚獣を召喚出来るようにと、学生の器……魔力の総量を鍛えるためのカリキュラムが組まれていますが、彼女はそうやって鍛えた魔力全てを、全くの無意識と言いますか、才能のなせる技と言いますか……身体能力だけに流し込んでいるようなのです」
「……普通は召喚の時のために温存したり、召喚に関連する部分に流し込んだりするものを、無意識で身体能力に……ですか。
普通なら学院の学生がそんなことをしたなら、人生に一度だけの召喚が台無しになると止めるところですが……彼女の突き抜け方ならば恐らく、魔力をどういう扱い方をしていようが今までに召喚されたことのない、彼女にしか召喚出来ない召喚獣が召喚されるはず……。
だから学院は彼女の好きにさせていて……その対応がさらなる彼女の成長を促している、と。
だけれども、学院には召喚に関する専門家しかおらず、彼女の身体能力や戦闘能力を伸ばしてくれるだろう師は存在しない。
そういう理由で彼女は学院ではなく道場で懸命に学んでいて……ハクトさんもそんな彼女が気になり、構っていると。
個人的に仲が良いというのもあるのでしょうが……彼女の未来のためと、個人的な好奇心のためという所ですか?」
「まさか、なんでもない社会人の身で、そこまで自惚れてはいませんよ。
彼女の芯は既に出来上がっていて、後はそれに合わせて成長していくだけ……俺がどうこうする必要なんてありません。
力になりたいとは考えていますが、恐らく彼女は……もう誰の助けがなくても立派な召喚をこなすことでしょう」
「なるほど……なるほど。
思うに彼女は平和な世だからこそ、あそこまでの力を手に入れられたのでしょうな。
戦乱の世にあってはあそこまでの力……放任という訳にはいかないでしょう。
誰もがその力を欲し、利用しようと考え、戦場で使われることになり……摩耗してしまうことでしょう。
かつての御稚児さん達がそうであったように」
「……さて、どうでしょう。
俺達は戦乱の世のことには詳しくはないですから……」
と、ハクトがそんなことを言った時、暇そうに床に寝転がっていたグリ子さんがピクリと反応し、その耳を立てる。
それを受けてハクトもまた反応し、何事かと意識を外へと向けて……そしてすぐにブキャナンに向けて声を上げる。
「大僧正、結界で受け止めてください」
そんなハクトの言葉にブキャナンは、一体何を言わんとしているんだと首を大きく傾げるが、すぐに凄まじい勢いで魔力の塊がこちらに迫ってきていることに気付き……大慌てで結界を張り、その塊を結界でもって受け止める。
「えぇっと……ハクトさん? 彼女の芯は出来上がっていると、そうおっしゃいましたね?
あの子を家まで送り、いち早くここに帰ってきたいからと、その身体能力と魔力をフルに使って……使ってしまって、この辺りを破壊しかねない勢いで突っ込んできやがった彼女の芯は出来上がってしまっている……と?
……その考え、改めた方が良いんじゃねぇでしょうかねぇ」
「……それもまた彼女らしさですよ」
魔力の奔流と衝撃の全てを受け止めて、なんとか受け流し……すっかりと古くなったお堂が破壊されることを防いだブキャナンはそう抗議をするが、ハクトは涼しい顔でそれを受け流し……それを受けてブキャナンは半目での視線を送る。
するとハクトは、不敵な笑みとそう呼ぶにふさわしい顔をし……ゆっくりと口を開く。
「彼女は素直でどんなものからでも、どんな人からでも学びを得ようとする所があります。
……そして彼女は大僧正が立派な……何人かの子供を育てあげた教育者であることも知っています。
つまりはまぁ……他人事のような視線を送っている大僧正も、今日からは関係者なんですよ」
その言葉を受けてブキャナンは仮面の奥で目を丸くし、抗議の声をあげようとするが……すぐに渦中の人物であるユウカがお堂の中へと入ってきてしまって……まさか本人を前にして抗議をする訳にもいかず、仮面の中で小さな……ハクトにしか聞こえない小さなため息を吐き出すのだった。
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