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毛玉幻獣グリ子さん  作者: ふーろう/風楼
第三章

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強さ


「ここで生贄になれば強くなれるってお祖父ちゃんが言ってたんだもん!

 強くなって立派になって、大人になったら凄いことが出来るんだって!!

 だからわたしもここで生贄になるの!!」


 突然ブキャナンのお堂にやってきた来訪者……10歳くらいの、淡い水色ワンピース姿の三つ編みの少女に、どうしてここに来たのか、生贄とはどういうことなのかとハクトが尋ねた結果、返ってきた答えはそんな内容だった。


「ふむ……では、どうして強くなりたいんだい?」


 続けてハクトがそう尋ねると、ブキャナンの外見に驚き怯え……その恐怖から逃れるためにグリ子さんにぎゅぅっと抱きついた少女が唇を尖らせながら答えを返す。


「いじめられたくないから……強くなればいじめる子達をやっつけられるから」


 そんな答えを聞いて内心で驚きながらも顔に貼り付けた笑みを維持したハクトは、ちらりとグリ子さんのことを見て……少女の言葉を真に受けて良いものかという疑念を抱く。


 グリ子さんは子供のことが大好きだ、公園や仕事場で積極的に子供の相手をしていて……そんな子供達に何か、ちょっとした変化があるとすぐにそれに気付いて、その原因をどうにかしてあげようと、考える前に体が動いてしまうほどに子供が大好きだ。


 風邪を引きかけていたら早く家に帰ってご飯を食べて寝るように促すし、怪我をしていればそれを治そうとするし……親兄弟友達と喧嘩して落ち込んでいれば仲直りするようにと促すし、いじめられている子がいればその柔らかさで包み込んで慰め……そしていじめている子に、そんなことはお止めなさいと、そんなことを……鳴き声だとか仕草だとか、精一杯の行動でもって伝えようとするのがグリ子さんだ。


 だというのに今のグリ子さんは少女に対して何のアクションも起こそうとはしておらず……本当に少女はいじめられているのだろうか? 強さを求めなければならないような環境にいるのだろうか? 別の理由でここに来たのではないのか?


 そもそもこんな少女がどうやってブキャナンの結界を破ったのかも謎で……ハクトは考え込んだまま、黙り込んでしまう。


 するとそんなやり取りを黙って見守っていたユウカが、少女の前に進み出て、ゆっくりとしゃがみ、少女に視線を合わせながら声を上げる。


「クラスでいじめがあるのかな? 誰かお友達がいじめられてるのかな?

 それで次は自分かもってなって怖くなって力が欲しくなっちゃったかな?

 ……そのお守りはお祖父ちゃんからもらったの? それとも勝手に持ってきちゃったのかな?」


 すると少女は目を丸くしながら驚き、その表情でもって『なんで分かったの?』と語り……そうやってユウカはハクトと少女の二人を大いに驚かせる。


 改めて少女の手元を見てみれば、特殊な魔力を放つ、金糸銀糸などを使った豪華な造りのお守りが握られており……どうやら少女はその力でもって結界を突破してきたらしい。


 学校内かクラス内かでいじめがあって、それを目の当たりにしてしまった少女は自分がいじめられてしまうかもと怖くなり、どうにか出来ないものかと考えた末に祖父から聞いた話に思い至り……そうしてここにやってきた。


 ある程度の事情は把握出来たものの……さて、この少女をどうするべきだろうか? と、ハクトがそう頭を悩ませていると……ブキャナンがガクリと、大きく……人には不可能な程に首を傾げて声を上げる。


「それで……あなた様はどういった力が、強さが欲しいんですかい?

 純粋な力? それとも武術のような技術? それともいっそ武器でも手にしますかい?

 何なら本当に生贄となって呪術を行使するなんて手もございますが……」


 その声は冷たく、淡々としたもので……そんなブキャナンの言い様に対し、ハクトが声をあげようとすると、それよりも早く、少女の目をずっと見つめていたユウカが声を上げる。


「ブキャナンさん、そういう意地悪はよくないですよ」


 なんとも珍しいことにユウカのその声は尖っているというか、明確な批判の意思が込められていて……それは道場での修行の結果、年長者を敬い、その言葉に従うことを是としている彼女にはとても珍しいことだった。


「……意地悪のつもりはねぇですが……いじめを力で解決するというのは、あたくしとしては些か賛同出来かねますからねぇ」


 そんなユウカに対し脅かしの意味もあるのか、首を傾げ続けながらブキャナンはそう言って……そんなブキャナンに対しこくりと頷いたユウカは、少女に向き直り口を開く。


「お名前は?」


「……リンカ」


 リンカと名乗った少女はそんなユウカに対し、素直に言葉を返していく。


「リンカちゃん、いじめをなんとかしたくて強くなりたいのなら、色々な方法があると思うけれど、一番良いのはお父さんやお母さん、お祖父ちゃんやお婆ちゃんに相談することだと思う」


「……うん」


「相談して、お父さんお母さんが強くなったほうが良いよって言ってくれたとして……仮にここで修行をして、リンカちゃんが思うような強さを手に入れたとして……それでいじめがなくなるとか、いじめられなくなるとか、そう言う話はまた別問題なの」


「……そう、なの?」


「うん、力は手に入れるだけじゃ駄目で、力の使い方を正しく学ばないといけないの。

 じゃないと今度はリンカちゃんがいじめる側になるだけで……いじめっこになっちゃうだけで、何も解決しないから」


「リンカはそんなことしないもん!!」


「ううん、ただ力を手に入れただけなら、ただ強くなっただけなら、きっといつかリンカちゃんはそうなっちゃうと思う。

 力を手に入れて強くなって……その力をうっかり使わないように、友達や家族に使わないように気をつけるとか、その強さで誰かを傷付けないようにするとかは……心の問題だから、力とかの強さの問題じゃないの。

 よく体を鍛えて強くなると、それだけで心も強くなるみたいな、そんなことを言う人がいるけど……それはウソで、体を鍛えて強くなったら、強くなった自分を抑えるために心を鍛える必要があるというか、心を鍛えないといけなくなっちゃうっていうのが本当なんだよ……。

 もし心を鍛えなかったらどうなるかっていうと……喧嘩や犯罪、いじめみたいなことをしちゃって、悪い人になって警察に逮捕されちゃうの。

 だからもし強くなりたいなら、ブキャナンさんに頼るのも一つの手かもしれないけど……お父さんとお母さんと一緒に、ちゃんと心も強くしてくれる、しっかりとした道場とかを探した方が良いと思うよ」


「……」


 そのユウカの言葉にハクトは静かに心の中で同意をし……そしてブキャナンは首の角度を戻し、背筋を正し……居住まいを正すことでユウカに対する敬意を示しながら耳を傾ける。


「……すごく悪い人がいて、その人を急に強くしたらどうなっちゃうか……いきなり心が綺麗な良い人になるなんてことはなくて、もっと悪い人になっちゃうの。

 強さなんて力じゃなくても武器でも良い訳だから……町の中に立っているすごく悪い人に、ナイフとか拳銃をあげちゃったらどうなるか……リンカちゃんなら想像出来るでしょ?

 いじめとか悪いことをする人に立ち向かう場合は……心を強くして正しい方法で立ち向かわないと駄目なの。

 だからリンカちゃん……まずはお父さんとお母さん、家族に相談して、家族と一緒にその方法を探した方が良いと思うよ」


 ハクトもブキャナンもユウカの強さを知っている。

 そこまでの強さを得るのにどれだけの努力をしたのかを知っている。


 その上でユウカは普通の学生として、年相応の女の子として日々を生きていて……その力を暴力として振るうことなく、己を律し続けている事も知っている。


 まだまだ未成年で学生で、未熟な面はあれどその点においてはハクトよりも勝っていて……ブキャナンもまた脱帽だと言わんばかりに、黒いハットをそっと脱ぐ。


 そんなハクトとブキャナンの視線を一身に浴びながらユウカは、リンカへの説得を……彼女が納得するまで続けるのだった。


お読み頂きありがとうございました

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