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毛玉幻獣グリ子さん  作者: ふーろう/風楼
第三章

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来訪者


「いやー、負けちゃいました負けちゃいました……天狗って強いんですねぇ」


 ハクトとグリ子さんがお堂の中での時間を過ごしていると、なんとも晴れやかな顔をしたユウカがそんなことを言いながらお堂の中へと戻ってくる。


「お疲れ様……随分と激しい戦闘音だった割に、あまり汚れてはいないようだね?」


 そんなユウカにハクトがそう声を返すとユウカは、はにかみながら言葉を返してくる。


「はい、服とか結構ボロボロになったんですけど、ブキャナンさんが直してくれました。

 あの団扇でささっとやって、こう、なんか不思議な力で、天狗ってそんなことまで出来ちゃうんですねぇ」


「そ、そうだったのか……俺も大僧正がそんなことが出来るなんてことは初めて知ったが……まぁ、うん、そういった魔法を直に見られたことも含めて良い経験となったことだろう」


「はい! 今後は空中戦の特訓もしないとですね!」


 なんて会話をしていると、綺麗な格好をしているユウカとは違い、その翼や服をボロボロにさせて毛羽立たせたブキャナンがお堂の中へとよろよろとした足取りで戻ってくる。


「……あたくしも良い勉強をさせていただきましたよ。

 人間さんがまさかのまさか、ここまで強くなれるとは……青天の霹靂も良い所ですねぇ。

 この若さでこれとは、いつかのお稚児さん達をも超える器かもしれねぇですねぇ」


「大僧正、わざわざそんな同情を引くための格好をしなくても……風切君の服のように直してしまえばいいでしょうに」


 戻ってくるなりそう声を上げたブキャナンに対し、ハクトはそう淡々とした言葉を返し……ブキャナンは「ちぇっ」と小さく声を上げてから、持っていた団扇を軽く振り、自らの服や翼などを綺麗に整える。


「ハクトさんは年を経るごとにどんどん無粋になっているのが心配ですねぇ。

 子供の頃はもっとこう……純粋でキラキラと輝いていて素直でしたのに、どうしてこんなひねくれ方をしてしまったのやら」


 そうしてからそんなことを言ってハクトをからかおうとするブキャナンだったが……ハクトは、


「もう大人になりましたので……就職もして社会人ですし、大僧正のようにはしゃいでばかりもいられないのです」


 と、そんな言葉を返す。


 するとブキャナンは仮面の奥で目をパチクリとさせてから……やれやれとため息まじりに首を左右に振る。


 そうしてブキャナンが何かを言おうとした折……ちょこんと立ち上がったグリ子さんがブキャナンの足元まで歩いていって、自分の羽根を一本クチバシでつまみ上げ、それをどうぞと言わんばかり態度でブキャナンへと差し出す。


「……おや、あたくしにですかい?

 こんな素敵で貴重なもの、頂くなんてことになると恐縮しちまいますが……」


 それを受けてブキャナンがそう言うとグリ子さんは、目を細めてぐいぐいと羽根を押し付けようとする。


「……ありがとうございやす。

 そこまでおっしゃるのであれば受け取って、額縁にでも入れて家宝として祀らせて頂くとしやしょう。

 お家を出たということでハクトさんのことが少しだけ心配でしたが……こんな素敵な幻獣さんが側にいるなら安心できますねぇ」


 羽根を受け取り、そんなことを言ってからグリ子さんの頭をちょいちょいと撫でて……それから椅子に座ってホッと息を吐き出し、小僧天狗が用意した茶と茶菓子を食べ……ユウカも同じように茶をぐびぐびと飲み、茶菓子をばくばくと食べて……そうやって二人が消耗した体力を回復させていると、コンコンとまるでノックのような音が何処からか響いてくる。


「……はて? 来客のたぐいが案内無しにここまで来ることは無いはず……?」


 それを受けてこくりと首を傾げながらそう言ったブキャナンに、音がした方を警戒しているハクトが問いを投げかける。


「それは結界か何かの力があるから、ですか?」


「えぇ、そうです。

 ここいらにはあたくしが張った結界があり、先程あたくし達が出会った森の辺りまでならばともかく、このお堂まで近づける者はまずいないはず……。

 この結界は少し特殊で、あたくしの案内を受けた者、縁を結んだ者などは結界に影響されないといった、例外措置があったりするのですが……そもそもそういった人物が近付いてくればハクトさんの時のように、あたくしが気付けるはず……。

 ……んん~~~? 他に何か設定していたけども忘れてしまったような、例外設定があったりする、とか?

 ……んん~~~? しかしその例外が数百年もの間発生してないというのもおかしな話で……」


 ハクトの問に対してブキャナンはそんな言葉を返しながら、小僧天狗に対し手仕草で、今しがたノックをした者を出迎えるようにと指示を出す。


 それを受けて小僧天狗がお堂の廊下へと駆けていって、その先にあるらしい何処かへと姿を消して……直後高音で響く、恐らくは女性のわめき声のようなものが聞こえてくる。


「女性……? ブキャナンさんの彼女さんですか? 彼女さんなら縁を結んだ者、ですよね」


「……大僧正?」


 そんな声を耳にするなりまずユウカがそう言って、続いてハクトが半目になりながらそう言って、ブキャナンは必死な目になりながら首を全力で左右に振っての否定をする。


「ま、まさかまさかまさかまさか……あたくしに限ってそんなことある訳がねぇでしょう。

 い、今ほど結界の方を見直しておりましたが、やはり条件は先程言った通りでして……。

 一応と言いますか例外と言いますか、稀有な事案として……ほぼほぼありえない条件なのですが、かなーり昔に設定した、生贄に出されてしまったお方は保護の意図で結界を素通りが出来る、というものはそのままだったりしましたが……。

 流石にこのご時世、生贄なんて存在する訳が―――」


「―――だから私は生贄だって言ってるじゃんか!!」


 そんなブキャナンの声に被さる形で、小僧天狗が応対しているらしい人物の声が聞こえてくる。

 

 ブキャナン曰く稀有な事案が、まさにこのご時世の中で来てしまったようで……そうしてハクトもユウカもブキャナンも、グリ子さんまでもが目を丸くしての驚愕の表情を浮かべることになるのだった。


お読みいただきありがとうございました。

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