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毛玉幻獣グリ子さん  作者: ふーろう/風楼
第三章

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空中戦


 ユウカに半ば引きずられる形でブキャナンがお堂を出ていって……お堂の外から激しい戦闘音が聞こえてくる中、ハクトはグリ子さんと共にお堂の中に残り、静かに茶を飲んでいた。


 静かに、と言ってもお堂の外からは凄まじいとしか言えない爆音が響いてきていて、その度に棚のガラス戸やテレビ台が音を立てながら激しく揺れていて、全く静かな状況ではないのだが……それでもハクトは言葉を発することなく、動揺することもなく、ただお茶を飲み続ける。


「クキュン?」


 そんなハクトに対し、クッションの上にごろんと寝転がったグリ子さんが声をかけ……それを受けてハクトは、ゆっくりと口を開く。


「何故様子を見に行かないのかって?

 それはまぁ……ほら、今日の風切君はスカートだったろう?」


 ハクトのその言葉にグリ子さんは体を揺らし、首を傾げた……とも見えなくもない態度を見せて更に問いを投げかける。


「クッキュン? キュン?」


「大僧正は良いのかって? 大僧正に関してはそういったことを超越していると言うか……人間をそういった対象として見ないだけでなく、性別の概念がない存在だからね。

 後は風切君の気持ちの問題だけども……自ら挑んだ訳だから、まぁ問題無いのだろう」


「クッキューン」


 そういうことならまぁ、仕方ないかと、そんなことを言ってグリ子さんはクッションに身を預けて……リラックスしているのか目を瞑る。


 そんなグリ子さんを見て静かに微笑んだハクトは、残り少なくなってきた茶を静かに飲み……爆音と激しい振動と、時たま飛んでくる衝撃波を受け流しながら、ゆったりとした時間を過ごす。


 ハクト達がそうやっているとお堂全体が揺れて、棚やテレビ台などが倒れそうになるが……そうなるとすぐに何処からか、小僧天狗がやってきてそっと棚やテレビなどを支えて……倒れたり破損したりすることの無いようにと、対処をしていく。


「なんだかんだと言いながら大僧正はまだまだ余裕があるようだねぇ」


 そんな様子を見てハクトはそう言って……意識をお堂の外へと向ける。


 状況的に直接その目で外の様子を見ることは出来ないが、魔力の動きや流れを感じ取る事はできる。


 そうやって戦況がどうなっているのかを見極めようとして……そうしてハクトは少しだけ後悔することになる。


 どうして後悔したかと言えば、ユウカとブキャナンの気配が、かなりの高い位置にあり、ジャンプしたとかそういうレベルではない位置にあり……ユウカのとんでもなさを痛感すると同時に、少しだけ……ほんの少しだけユウカに嫉妬してしまったからだ。


「真似出来ないどころか、どうしてそんなことが可能なのかすら分からないときたものだ。

 ……木々を蹴って三角跳びのようにして高度を上げていったのか?

 大僧正は空が飛べるから良いとして、まさか人の身でそんなことが可能だとはなぁ……」

 

 そんなことを言ってハクトはお茶を飲みきり……やれやれと首を左右に振る。


 そうやって嫉妬と羨望でぐちゃぐちゃになってきた感情をどうにか落ち着かせていると……起き上がったグリ子さんがそのクチバシで椅子に座ったハクトのふともも辺りを、ちょいちょいとつついてくる。


「ん? なんだいグリ子さん?」


「クッキュン!」


 そんなグリ子さんにハクトがそう声をかけると、グリ子さんはなんとも元気な声を返し……ハクトはきょとんとした表情を浮かべてから、言葉を返していく。


「俺にも出来る……? いや、流石にあんな人間を超越しすぎた真似は無理で……」


「キュンキュンクキュン」


「ん? グリ子さんの力を借りれば可能……?」


「キュン!」


「グリ子さんではなく、ミニグリ子さんの力……?

 えぇっと、ミニグリ子さんに肩とかを掴んで羽ばたいてもらうとかかい?」


「クッキューン! キュキュン」


「え? 違う? ミニグリ子さんが足場になって俺を支える?

 それはつまり風切君がやっているようにミニグリ子さんを蹴り飛んで空中に、ということかい?

 ……い、いやいや、いくらなんでもミニグリ子さんを足蹴にするなんてそんなこと……」


「キュン! クッキューンキュキュン!!」


「え? 足蹴にするんじゃなくて、足場?

 えぇっと……?」


 そう言ってハクトが首を傾げると、言葉だけでは上手く伝わらないようだと判断したグリ子さんが、その身を震わせてミニグリ子さん達を出現させ……現れたミニグリ子さん達は、パタパタと翼を羽ばたかせて宙に浮かび……一つの塊のようにくっつきあって、雲のようにも見える、カラフルな足場を空中に作り出す。


「えぇっと……これに乗れるということかな?」


 その足場を見てハクトがそんなことを言っていると……説明するのも手間なのか、グリ子さんがミニグリ子さん達に指示を出し……一塊となったミニグリ子さん達がハクトの背後へと移動し……ハクトがそれまで座っていた椅子をさっとどかしてしまったと思ったら、その代わりとばかりにハクトの下に入り込み……そうして空飛ぶ足場というか、椅子というか、座布団というか……そんな存在になってハクトを空中に持ち上げる。


「お、おぉぉぉぉ……ま、まさかこんなことまで出来るとは……。

 これならば確かに、かなりの高さでも行けてしまいそうな……」


 お堂の中ではあるものの、空中に浮かびあがることになったハクトが、そんな感嘆の声をもらしていると……ハクトの隣に、ハクトのように浮かび上がったグリ子さんが現れて、頬ずりをしてくる。


 そんなグリ子さんのことを撫でてあげてからハクトは、グリ子さんの翼が全くと言って良い程に動いてないことに気付いて……グリ子さんの下へと視線を下ろす。


 するとグリ子さんの下にもミニグリ子さん達がいて、ハクトと同じようにグリ子さんのことを持ち上げていて……それを見てしまったハクトはなんとも言えない気分になる。


 弾み飛ぶという方法で空を飛べなくもないグリ子さん。


 その際には懸命にその小さな翼を動かしていて……いつかはきっとその翼で、翼で込めた魔力でもって空を自由に舞い飛ぶに違いないと、ハクトはそんなことを思っていたのだが……まさかこんな方法で空を飛んでしまうとは。


 そうして一瞬だけ、ほんの一瞬だけハクトは、グリ子さんの翼に存在価値はあるのだろうか? と、そんなことを考えてしまって……首を左右に振ってその考えを振り払ったハクトは、グリ子さんに対し、ずいぶんと失礼なことを考えてしまったことを悔いながら、懸命に手を動かし、幸せそうに頬ずりをするグリ子さんのことを撫で回してあげるのだった。


お読みいただきありがとうございました。

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