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毛玉幻獣グリ子さん  作者: ふーろう/風楼
第三章

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天狗の……


「カカカッ、お久しぶりの客人ですからな、歓迎いたしますよ」


 スーツ姿の天狗がそう言って山奥に進んだ先にあった、なんとも古めかしいお堂の中を歩いていく。


 お堂全体は色褪せる程に古い木材で作られているが、中に入ってみると一転して真新しい木材を見ることができ……玄関には屏風が飾られていて、その裏からまっすぐに廊下が伸びていて、廊下の左右にはいくつもの板張りの部屋がある。


 障子戸が開いているために廊下を歩いているとそれらの部屋の中を見ることができて……部屋の中は隅々まで掃除が行き届いていて、しっかりと家具もあって、小さな書類棚の上には白磁の花瓶があり、綺麗な花が活けられており……花柄の絵付けのされたガラス窓の食器棚や、紐閉じされた本が並ぶ本棚などの姿があり……床には丁寧にワックスがけがされている。


 そんなお堂の最奥に向かうと、広い部屋があり、そこには食卓があり椅子があり、古めかしいテレビを構えるテレビ台があり……古めかしい作りのお堂の中に、別方向で古めかしい一般家庭の居間の光景が広がっている。


「え、あ、ダイアル式のテレビだ! 初めて見た!」


 そんな居間の中をきょろきょろと見回していたユウカがそんな声を上げて……ハクトがやれやれと首を左右に振る。


「ええ、ええ、そちらはテレビジョン、最新カラア式のスマアトテレビジョンでございます。

 確かこのスーツをハクトさんのお爺様のお爺様のお父様? だったか……その辺りの代の方に仕立ててもらった頃に買った代物でございます。

 最新テレビジョンに最新のスーツ、いやはやあたくしも中々モダンでございやしょう?」


 ユウカの言葉を誤解と言って良いレベルの解釈した天狗がそんな言葉を返しながらユウカの分の椅子を引き、ハクトの分の椅子を引き……そして最後にグリ子さんのために押入れの中から、まるでグリ子さんのために作られたかのような大きな座布団を引っ張り出し、ハクト達の側の床にそっとしく。


「……大僧正、前にも言いましたが時代感が滅茶苦茶です。

 そちらのスーツはもちろん、こちらのテレビももう博物館でしか見ないような旧式ですよ?

 というかどちらもよく破れたり壊れたりすることなく使い続けられていますよね?

 定期的にメンテナンスをしているんですか?」


 引かれた椅子に腰を下ろしながらハクトがそう返すと、天狗は「カカカッ!」と笑って何も答えず、肩にかけたマントを恭しい仕草で払ってから、自らの席に腰を下ろす。


「あ、えーっと初めまして、風切ユウカと言います。

 えぇっと……天狗の大僧正様、で良いんですか?」


 同じく腰を下ろしながらユウカがそう声を上げると、座布団に腰を下ろしたグリ子さんも「クキュン!」と声を上げ……天狗はそんな二人に言葉を返す。


「ええ、ええ、よろしくお願いいたしますね、あたくしは天狗のブキャナンと申します」


 そう名乗り、胸に手を当て頭を下げ……まさか天狗からそんな名前が出てくるなんて、と驚いたユウカがハクトの方を見やると、ハクトは半目の胡乱げな表情となっていて……ユウカは直感的に、目の前の天狗が嘘をついていることに気付く。


 嘘というか巫山戯ているというか……あるいはこの天狗は、ハクトが大僧正と呼び続けている辺りから察するに、名前なんてものは持っていないのかもしれない。


「随分とハイカラな名前になりましたね」


 そんなブキャナンが顔を上げると、それを待っていたかのようにハクトがそう返し……ブキャナンは「カカカッ!」と笑ってから言葉を返してくる。


「いえいえ、あたくしは昔から、こちらに来た時からこの名前で呼ばれていたのですよ。

 あれは……いつ頃のことだったか思い出せない程に昔のことでしたが、こちらにあたくしがお邪魔した際に、この辺りに遊びに来ていた御稚児様と遭遇いたしましてね、その御稚児様があたくしを見るなり、こう叫んだのです。

 うわあ、ブキャナンだ。と」


「化け物、ですか?」


 そんなブキャナンの言葉に間を置くことなくハクトがそう返すと、ブキャナンは首を左右に振って「やれやれ、無粋な方ですねえ」なんてことを言い……その手をパンパンと叩く。


 するとどこからともなく、タタタタッと足音が響いてきて、ブキャナンをそのまま幼くしたようなスーツ姿の小僧天狗がやってきて、翼をバサリと振るい、器用に飛び上がり……ハクトとユウカの前に湯気を上げる茶の入った湯呑を置いて、それからグリ子さんの前に、同じお茶が入っているらしい深皿をことんと置く。


「え? え?」


 その光景を見てユウカはそんな声を上げる。


 小僧天狗がこの居間にやってきた時、お盆も湯呑も深皿も持っていなかったはずだが、一体この小僧天狗は今どこからそれらを取り出し、目の前に置いてみせたのか……動体視力に自信のあるユウカは、その一瞬を見逃したことが信じられずに、周囲をキョロキョロと見回す。


「ユウカ君、相手は天狗だ、化かされて当然くらいに思うといいよ。

 先程の小さな天狗も恐らくは大僧正の術……ミニグリ子さんに近い存在なのだろう。

 お茶の方に何かを仕込むようなことはしない方だから、お茶に関してはありがたくいただくとしよう」


 そんなユウカにハクトはそう声をかけてから湯呑に手を伸ばし……ブキャナンがもう一度「無粋な方ですねえ!」と声を上げる中、ハクトの言葉に頷いたユウカも湯呑に手を伸ばし、お茶を飲み始める。


 お茶を飲んで一息ついて……改めてお堂の中をきょろきょろと眺めて、そうしてからユウカは頭の中に浮かんできた疑問を、ブキャナンへと投げかける。


「ブキャナンさんはいつからこちらにいるんですか? 法的な扱いが幻獣とすると、召喚した方ってどうなってらっしゃるんです?」


 するとブキャナンはこくり、と普通の人間では出来ない角度で首を曲げ……そうしてから「はあ」と一言呟き、首を傾げたまま少しの間考え込み……そうしてから言葉を返す。


「あたくしはですね、召喚じゃあない方法でこちらに来たもんですからね、法的には幻獣ではないんですねえ。

 いや、あえてくくるのであれば幻獣なんですけどもね、法的に、とおっしゃるのであれば、あたくしは不法幻獣、ということになるんでしょうか、ね?」


 最後の「ね?」の部分で大きく首を傾げたブキャナンは、仮面の奥の目でもってハクトを見やる。


 そんなブキャナンの言葉にユウカが目を丸くして驚く中……ハクトは湯呑の中のお茶を、ゆっくりとすすり続けるのだった。



お読みいただきありがとうございました。

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