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引っ越しのご挨拶


 新しい家に到着し、待ってくれていた大家さんに挨拶をし鍵を預かり……公衆電話で家具屋に連絡をし、早速手配してもらっていた家具家電をトラックで運んで来てもらって。

 

 後は家具屋に手伝ってもらいながら、えっちらおっちら重い家具家電を運び込むことになる……はずだったのだが、魔力で強化したその筋力でもってジャージ姿のユウカが、それらの作業をあっという間に終わらせてしまう。


 まるで空のダンボール箱を運ぶかのようにダブルベッドを運び、冷蔵庫も洗濯機も何のその……ハクトのベッドを二階に運ぶ際には軽快にトトトッと階段を駆け上がり……。


 そんな光景をハクトは慣れた様子で見守り、グリ子さんはぽかんとした表情で見やり、家具屋は愕然とした表情で見やり……そうしてそれらの視線を一身に集めることになったユウカは、最後の一つとなったタンスを軽々と肩に担いで運んでいき……設置を終えて玄関へと返ってきて、汗一つかかずに朗らかな笑みを浮かべて元気な声を上げる。


「はい! これでおしまい!

 数が少ないし、軽い家具ばっかりだったので、簡単でしたね!」


 軽い家具ばかりの簡単な仕事だった。

 ある程度の重労働になると覚悟し、軍手をし、タオルを頭に巻いて……それなりの気合をいれてきた家具屋の店長と店員は愕然としたまま、何も言葉が返せない。


「ああ、ありがとう、風切君。

 家具屋さん達もわざわざ来て頂きありがとうございました。

 何か必要なものがあればまた伺わせていただきます」


 目の前で起きたことが信じられないと……魔力の存在は知ってはいるが、それでもまさかこんなことがと愕然とし続けていた家具屋達は、ハクトのその言葉を受けてどうにか我に返り……「ま、まいど!」とそんな言葉をどうにかこうにか上げて、トラックへと戻り、撤収していく。


 それを見送り、ユウカへと向き直ったハクトは……改めてユウカに向けて挨拶をする。


「まさか、お隣さんになるとは思っていなかったが、こうなったのも何かの運命なのだろう。

 これからよろしく頼むよ」


 その挨拶を受けてユウカは笑顔で「はい!」と返し……その笑顔に対しハクトは「うん」と頷いて言葉を続ける。


「さて……隣近所に引越しの挨拶を終えたら、出前を取っての夕食にしようと思っていたのだが……風切君も良かったら食べていくと良い。

 引っ越しを手伝ってくれたお礼として上等な寿司を取るつもりだよ」


「え、お、お寿司ですか!?

 お寿司……お寿司……上等なお寿司!

 え、えーと、先輩が挨拶にいっている間、お母さんに頂いても良いか聞いてきますので、返事はそれまでお待ち下さい!

 もう夕ご飯を作っちゃってるかもですし、か、確認をしないと……!」


 ハクトの言葉にそう返して……頬を上気させて、ぐっと拳を握り込むユウカ。


「ああ、もちろん構わないとも。

 なら最後に風切君のお家に向かうから、その時に返事をしてくれたら良い。

 グリ子さんもそれで構わないかな?」


 そんなユウカにそう返したハクトは、グリ子さんが笑顔で「クキュン!」と鳴いたのを確認してから、これまた家具屋さんに用意して貰っていた、蕎麦の乾麺詰め合わせを抱えて近所への挨拶回りをしていく。


 これから世話になるご近所だからと丁寧な挨拶をするハクトに、まだまだ若く見えるハクトに丁寧過ぎる挨拶を受けて驚くご近所さん。


 そんな挨拶が数度繰り返されて、町会長への挨拶も済ませたハクトは……最後にとユウカの家へと向かう。


 するとユウカの両親が……とても平凡ながら優しそうな表情をしたユウカの両親がハクトの到着を玄関で待ってくれていて、ハクトはそんな両親にも丁寧な、他の家にしたのと同様の挨拶をしていく。


「君の話はユウカから聞いているよ。

 お隣さん同士、仲良くしようじゃないか」

 休日だというのにしっかりと髪を固めて、黒縁のメガネをしてのポロシャツスラックス姿で、年相応の表情を作りそう言う父親。


「何かあれば遠慮なくどうぞ。

 ……あなたのおかげでユウカはあんなにも笑う、強い子になったんだからね」


 そう言いながらゴムバンドでまとめた髪を揺らす、シャツにジーパン、エプロンという格好をした母親。


 いかにも普通で、何処にでもいるようでもあり、とても優しそうでもあり……優しく響く声でユウカの名を口にする二人を見て、ハクトはなんとも言えない複雑な感情を込めた笑顔を浮かべる。


「クキュン! クキュン!」


 するとそんなハクトの後ろで、グリ子さんがぴょこんぴょこんと跳ねながら自己主張をし始める。


 自分もよろしくしてください! 自分もユウカちゃんと仲が良いですよ!


 そんなことを言いたげなグリ子さんの姿に、ユウカの両親もハクトも思わず満面の笑みになってしまう。


「グリ子さんについてもユウカから聞いているよ。

 これからはお隣さんだ、いつでも遊びにきてくれて良いからね」


「そうね、幻獣さんに遊びに来てもらえるなんて、そうそうないことだし、大歓迎!

 いつでもきてね!」


 そんな両親の言葉にグリ子さんもまた笑顔になり……笑顔のグリ子さんが「クキュン!!」と声を上げる中、ハクトが蕎麦の詰め合わせを両親に手渡していると……そこにドタバタと凄まじい足音が響き聞こえてくる。


 それは段々とこちらに近付いているのか大きくなっていって……トドメとばかりにバタン! と凄まじい音がユウカの家の玄関から響いてくる。


「お、おまたせしました!」


 どうやらそれはユウカが玄関の扉を力いっぱいに開け放った音だったようだ。


 先程までジャージ姿だったのに、上等なワンピースに着替えて、髪を整え、薄化粧をし……精一杯のおしゃれをしたユウカが姿を見せる。


 その姿を見て父親は驚愕の表情をし、母親は玄関の扉が壊れてやいないかと不安そうな表情をし、そしてハクトはその姿を見て……上等な寿司とは言え、そんな風に着替えてまで張り切ることではないのだがなぁと、そんなことを思ってしまうのだった。



お読み頂きありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] お呼ばれしておめかしするユウカの乙女心が可愛い。 [一言] グリ子さんのアピールも可愛い。
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