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毛玉幻獣グリ子さん  作者: ふーろう/風楼
第二章

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一方その頃のサクラ先生


 ハクト達がそれぞれの自宅に帰宅し、やっぱり我が家が一番だなという、お約束の台詞を口にしていた頃、サクラ先生はある場所である人物と出会っていた。


「今回の件、助かりました。

 いつもこのくらい早く動いてくれると助かるのだけど」


 上等な革ソファに深く腰掛けながらサクラ先生が声を上げると、その人物は引きつったような笑い声を上げてから、言葉を返す。


「は、ははは……勘弁してくださいよ。

 今回の件……先生が急ぎだ急ぎだとしつこく言うものだから、それなりに大変な思いをして頑張ったんですよ? この後も大量の事務処理が待ってますし……。

 今回のは特例中の特例で、今後はこんな簡単には済まないと思っておいてくださいね」


「特例ねぇ……それにはあの子の実家も影響しているのかしら?」


「あー……まぁ、はい、影響していないとまでは言いませんよ。

 何しろ彼はあの矢縫の後継者だった訳ですし……? その後継者を真っ当に育て上げてくれたサクラ先生にも、真っ当に育ち、真っ当な道を選んでくれた彼にも、業界一同それなりに感謝をしているんですよ。

 施設のスタッフに聞きましたが、あの矢縫の子とは思えない程の好青年だったそうで……幻獣が大変愛らしい姿をしていたという報告と合わせて、業界一同安堵と歓喜の思いで歓迎していますよ」


「まぁ、確かに、あの子があのまま……矢縫に相応しい子に成長していたなら、召喚される幻獣もそれに相応しいものとなっていたでしょうね。

 先代……いえ、彼が出奔したから今代ですか、矢縫家今代当主の幻獣にはあなた達も泣かされていましたものね」


「それはもう……。

 証拠も証人も残さずやりたい放題……公安や我々が総出でかかっても歯が立たず、それでもどうにか証拠を集めて追い詰めて、何十回もの裁判の果てにようやく動きを封じ込められた訳ですからねぇ。

 その息子があの学院を首席で卒業なんて話を聞いた時は、サクラ先生からの連絡があった上でも、彼が真っ当に育ってくれたという情報を知っていた上でも、これでもかと肝が冷えたもんですよ」


「次世代の矢縫が相応しい幻獣を召喚してしまえば、全ては最初からやり直し……いえ、やり直しどころか二人の矢縫を相手にもう一度あの戦いをしなければならない訳ですからねぇ。

 その上あの子は、先代とは比べ物にならない程に優秀……仮にそうなったら大変なことになっていたでしょうね」


 サクラ先生がそんなことを言いながら、なんとも爽やかな笑みを浮かべているのを見て、相対する人物は精一杯の苦笑をし……苦笑をしたままサクラ先生へと疑問を投げかける。


「優秀と言えば……彼はその、何故町工場なんかで仕事を?

 彼ほどの優秀さであれば、仮にあの幻獣に一切の力が無いのだとしても、それ相応の……それこそ学院のスタッフとしての仕事があったはずでしょう?」


 その言葉を受けてサクラ先生は、目の前に出された湯呑を持ち上げ、中の茶を静かにすすり……ほっと息を吐きだしてから言葉を返す。


「まぁ、あの子は優秀だけでなく敏い子でしたから……父親が、矢縫家が何をしている家なのか、それとなく察していたのでしょう。

 公安やアナタ達でも証拠を見つけられない相手となれば、家族にその正体を隠すくらいなんでもないのでしょうが……あの子の目までは誤魔化せなかったようですね。

 父親が何をしているか察した上で、父親と距離を置くにはどうしたら良いのか、あの子なりに考えて……その結果が件の町工場だったのでしょうね。

 まぁ確かに、あの矢縫と距離を置こうとしているのに、矢縫の関係者がそこかしこに潜伏している幻獣業界で仕事をするというのはおかしな話ですし、納得の行く話です。

 それと……あの幻獣、グリ子さんの意向もあったのでしょう」


「……幻獣の、ですか?」


「えぇ、彼女は何と言ったら良いのか……温和な性格で争いを好まず、その魔力を争い……と言いますか、災いを避けることに注ぎ込んでいるようなのですよ。

 恐らくですがあの子の職場選びにも彼女が関わっているはずで……その魔力で最適な場所を選び出しているはずで……その結果が今のあの子達の、旅行を楽しめるような平穏な日々、という訳ですね。

 その上彼女ったら、平和に毎日楽しく、美味しいものを食べてくらしているだけで魔力が満ち溢れるようで……これからもどんどんと魔力を蓄えていくのでしょうねぇ」


「ま、魔力を……!?

 い、いや、しかし……幻獣が平和主義というのは歓迎したいところですし……。

 ……ま、まぁ、その貯め込んだ魔力が今回のように、問題の平和的解決に使われるのなら、文句はありませんよ。

 前回の送還と今回の送還、どちらも助けられたのはこちらですしね……。

 ……それと、わざわざ先生がこうして釘を刺しにまでいらっしゃったのですから、我々としてもその意向を汲んで彼らに余計な手出しをしないことをお約束いたします」


 そんな言葉を受けてサクラ先生は一言「結構」とそう言ってゆっくりと立ち上がる。


 それを受けてすかさずその人物は駆け出して、部屋のドアを開けてサクラ先生の退出を見送り……サクラ先生がこれ以上の見送りは必要ないと、その手を振って伝えてきたのを受けて頷いて……ドアをそっと閉めて、ほっと安堵のため息を吐き出す。


 かつての恩師で、自分のミスの尻拭いを何度もしてくれた人で、今の地位に押し上げてくれた人で……今でもたまに手を借りている人で。


 そんな人物があの矢縫の御曹司と出会ったと聞いた時には大層驚いたものだが、それがまさかこんな結果をもたらすことになろうとは……。


 そのおかげで間違いなく自分の仕事は楽になっていて、世間は平穏を謳歌出来ていて、かつてないほどの好景気にも湧いていて……。


 それでもいつかは矢縫もまた再びあの栄光をと動き出すはずで、寝る暇もない程に忙しくなってしまうはずで……。


(……そうなった時、件の元御曹司は、果たしてあちらとこちら、どちらについてくれるのでしょうねぇ……)


 なんてことを考えたその人物はもう一度、大きなため息を吐き出して……そうして中央幻獣協会 協会長なるネームプレートの置かれた机の側へと移動し、その机と対になっている、ソファ以上に上等な革の椅子へとゆっくりと腰を下ろすのだった。


お読み頂きありがとうございました。

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