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毛玉幻獣グリ子さん  作者: ふーろう/風楼
第二章

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送還の前に


 送還は夜と決まって、ハクトとグリ子さん、ユウカと、雷獣、氷鳥、炎猿の三幻獣は、施設を出て……まずはタコを食べようと近所のあのソバ屋へと向かう。


 そうしたなら一番広い部屋へと通してもらって、それぞれが食べやすいようにと席を作って……注文はグリ子さんの意向もあってタコ尽くし、とにかくタコに関連したものばかりを注文する。


 タコの唐揚げにタコワサに、タコの刺し身にタコの甘辛煮に。


 店の方も施設の職員から連絡があったのか、事前にタコを大量入荷して準備してくれていたという協力態勢で……グリ子さんと三幻獣は思う存分に、タコの旨味と食感を味わい尽くす。


 そうやってタコを食べに食べたならシメとしてソバを食べて……ソバを食べたなら次は、山を登ってのあの店を目指す。


「クッキュンクッキュン、クッキュンキュキュン、クッキュン」


 タコの次はイノシシだ、イノシシもすっごく美味しいぞ。


 なんて声を上げながらグリ子さんが先頭を歩き、その後に三幻獣が続き……ハクトとユウカが最後尾をゆっくりと歩いていって。


 歩道を進み、山道を進み……ログハウスのようなあの店構えが見えてきて、店の前ではこれまた連絡を受けていたのだろう、店主が待ってくれていて……出迎えを受けた上で、特別にと用意してくれた、店の側にテーブルと椅子を並べての、青空席に一同は腰を下ろしていく。


「……猿はまだしも鳥と犬はどうなるかと思ったが……問題は無いようだな。

 料理の準備には少しだけ時間がかかるから、茶でもすすって待っていろ」


 なんて事を言ってから店主は店の中へと戻っていって……それから20分程、皆であれこれと会話をしながら待つことになって……グリ子さんがそろそろ我慢の限界に達しつつあるという所で、ようやく料理が運ばれてくる。


 シンプルなステーキに、生姜焼きに、まさかのイノシシしゃぶしゃぶサラダに、フルーツソース和えに。


 時間がかかっているだけあって、どれもこれも手が込んでいて……イノシシばかりでも飽きない組み立てとなっていて、グリ子さんと三幻獣は、とびきりの笑顔で、歓喜の声を上げながらそれらを食していく。


 ソバ屋で食事をしていた頃は、緊張感もあったのだろう、まだハクト達を警戒する思いがあったのだろう……満面の笑みとは言えなかった様子の三幻獣達だったが、青空の下、開放感も手伝ったのか、マナーも何も気にする必要のない席ということもあってか、笑みが弾け、


「わぅんわぅん」

「きぇーんきぇーん」

「くぃぃくぃぃぃ」


 なんて元気な声が上がり……店主が懸命に作ってくれた料理は、あっという間に食べつくされていく。


「この後は……商店街でソフトクリームか。

 職員さんが屋台を依頼してくれるということで、間に合えばたこ焼きなんかも食べられるそうだけど……まぁ、そちらは期待半分くらいの気持ちでいたほうが良いだろうな。

 その後は施設に戻って入浴、美容マッサージで……皆メスなようだから、風切君、施設に戻ったあとのことはよろしく頼むよ」


 そんな光景を見やりながら、少量の……幻獣の食欲には付き合わず、少量のイノシシステーキだけを食べていたハクトがそう声を上げると、ユウカはもじもじとし、何かを言いたげな表情をする。


「それは駄目だよ、風切君。

 幻獣との契約は召喚をもって行われるべきもので……君には君に相応しい幻獣が、無数にある世界のどこかに存在しているはずなんだから」


 その表情の内側にあるものを読み切ったハクトがそう言うと、ユウカは何も言えなくなって……そのまま俯いてしまう。


「一緒に食事をして、愛らしい様子を見て、愛着が湧くのは当然だけども、幻獣はペットではないからね、愛着だけではどうにもならないんだ。

 ……それと風切君はもう二度と、彼女達に会えなくなると思い込んでいるようだが……彼女達が再召喚に応じるという可能性もあることを忘れないようにね」


 続くハクトの言葉を受けて、俯いていたユウカが顔を上げ……その意味を理解しきれていないのか、首をこくりと傾げる。


「……他の誰かが試験を終えて、召喚する際に彼女らがもう一度、こちらの世界に来るかもしれない、ということだよ。

 もちろん応じるかどうかは彼女達次第な訳だが……こちらの世界に来て、召喚主に俺達のことを伝えてくれたなら、召喚主を通じて再会することも出来るかもしれない。

 もし彼女達に愛着が湧いて、また会いたいと……一緒に遊びたいとか、もっとこっちの世界を知ってもらいたいと思うのなら、彼女達が再召喚に応じてくれるように、しっかりとこちらの世界を楽しんでもらうのが一番だろうね。

 ……そういう訳だから施設に戻ったら後は、よろしく頼むよ」


「はい! 任せてください!」


 今度は理解出来たのか、ユウカがそう元気に声を上げて……ハクトは満足そうに頷く。


 施設に戻ったらハクトは、送還の準備を手伝うことになっている。

 流石に全てを無関係のタダシに押し付けるというのは問題で……ハクトくらいの素人では出来ることも少ないのだろうが、それでも何かあれば手伝いたいと申し出たためだ。

 

(……まぁ、役所の職員だけでも送還は出来る訳だし、完全に余計なお世話というか、素人の出しゃばりでしかないのだけど、それでも……やる必要はあるだろうな)


 そんなことを思いながらハクトは、山の下の方……施設のある方へと視線を向ける。


 タダシは色々と問題のあった人物だが、それでもハクトよりは経験豊富で、白虎杯に選出される程の人物で……長く働いているだけあってこの業界のことをハクトなんかよりも詳しく知っているはずだ。


 ハクトのことを兄弟子などと呼んでくれてはいるが、本来そう呼ぶべきなのはハクトの方で……今回のように世話になることが多いのもハクトの方なのだろう。


 それでもきっとタダシは兄弟子と呼び続けてくれるはずで……。


(ならばせめて情けないところは見せないようにしないといけないな)


 更に胸中でそんなことを呟いたハクトは、一生懸命にイノシシ肉を食べて食べて食べ続ける、グリ子さん達の方を見やり……そうしてから木製の良い作りの椅子に背を預け……誰にも気付かれないように小さなため息を吐き出すのだった。


お読み頂きありがとうございました。

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